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【完結】捨てられ令嬢ですが、後悔するのはそちらですよ? 〜冷酷な王子が私にだけ甘々です〜  作者: 鬱沢色素


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35/41

35・『無能』の姉

 ……。


 …………。



「あら、早いお目覚めね」



 目を開ける。


 すると、そこには──シルヴィアが私を見下していた。


「シルヴィア……」


 彼女の名前を呼びながら、状況を把握する。


 ……どうやらここは、先ほどの控え室とは違うみたい。

 壁や天井の造りを見るに、城内ではあるかな? 薄暗くジメジメした場所だ。


 一方のシルヴィアは、液体の入った瓶を右手の上でバウンドさせる。

 彼女は華麗なドレスを身につけており、こんな状況でなければ結婚式の一招待客みたいだ。


「この香水、なかなか役に立つわね。ちょっと振りかけたら、すぐに眠ってくれた。大枚払って買った甲斐があったわ」


 ニヤリとシルヴィアが口角を吊り上げる。


「シルヴィア……ここはどこですか? 護衛の人たちは……」

「護衛? 控え室の前にいた能無しなら、同じように眠ってもらってるわよ。まあ、さすがに抵抗したから、()()()もちょっと使ったけど」


 バカにするようにシルヴィアが言い放つ。


「な、なんてこと……だとしても、どうしてあなたはそんなことを……」

「ねえ、あんた、どうして私を式に誘わなかったのよ」


 私の声を遮って、シルヴィアがそう問いかける。


「え……」

「私だけじゃない。お父様とお母様もだわ。殿下にペコペコ頭を下げていた、あの二人は誘われなくてもいいけど……なんで、親族である私たちを誘わないの? 喧嘩、売ってるわけ?」


 シルヴィアと両親を誘わなかったのは、ライナス殿下の判断に私が賛同したからだ。

 今さら、家族のみんなが式に来ても、ろくなことにならないだろう。そう考えた上での判断だった。


 そして、その嫌な予想は当たろうとしている。


「でも……シルヴィアたちは……」

「でも? 口答えしないで!」


 ガンッ!


 シルヴィアが倒れている私を、思い切り踏みつける。

 鈍い痛みが体を襲った。


「あんたのせいで、実家はメチャクチャ! 貴族名簿から除名されて、社交界での居場所を失った! 殿下が来てから、家の中はどうなったと思ってる? お父様とお母様は意気消沈し、使用人たちが次々と辞めていった! これも全部、あんたのせいなんだから!」


 続けて、何度も何度も──シルヴィアは私を踏みつける。

 私は彼女の凶行に、頭を抱えて耐えることしか出来なかった。


「……ねえ、あんた、知ってる?」


 やがて、疲れたのか。

 彼女は蹴るのをやめ、ゆっくりと語り始めた。


「あんたとライナス殿下の秘密のことよ」

「秘密……?」

「そう」


 首を縦に振るシルヴィア。


「天賦の魔法の才があった殿下だけど、秘密があった。彼の体には、大昔に滅ぼされたと思われてきた魔神が宿っているのよ」

「はい……?」

「魔神は殿下の体を食い破って、この世にもう一度顕現しようとしている。殿下が苦しめられている魔力暴走も、魔神が暴れているせい。直に殿下の体は魔神に食い殺され、潰えるはずだった」


 なんだろう……。

 恐ろしいことを聞かされている気がするが、いきなりのことすぎて理解が追いつかない。


「だけど、予定は変わった。光の聖女の力を継ぐ──あんたのせいでね」


 そう言って、シルヴィアは忌々しげに顔を歪める。


「ルネヴァン家は元々、光の聖女の末裔だったのよ。でも何千年も経ったことにより、ルネヴァン家はその使命も忘れ、力を失った」

「光の聖女の……末裔」

「光の聖女の力は“中和”。大昔、魔神を滅ぼした光の聖女と同じ力だわ。あんたがライナス殿下に触れると、彼の魔力暴走が治ってるんでしょ? そのせいで、殿下の奥底に眠る魔神は、少しずつ力を失っていた。これが、あんたとライナス殿下の秘密」

「ま、待ってくださいっ。そんなの、信じられるはずが……」

「だから、口答えするなと言ったでしょ! また蹴られたいの?」


 シルヴィアが私を睨みつける。

 彼女の顔を見ると、また体が萎縮してしまって動けなくなる。


「なんで……あんたなのよ。なんで、あんたに光の聖女の力が継がれたのよ。私でもよかったはずなのに……」


 私が恐怖と戸惑いで震えている間にも、シルヴィアは悔しそうに歯軋りをする。


「光の聖女に選ばれたのが、『無能』のあんたじゃなくて私だったら、よかった。そうすれば、今頃殿下の隣にいるのは私だった」

「そんなの……」

「そこでいい提案があるの」


 一転して。

 シルヴィアはにっこりと笑みを浮かべ、上機嫌に手を叩く。


「ライナス殿下、私にくれない?」

「は……?」

「あんたの“中和”の力って、殿下は気付いていないんでしょ? だったら、今なら入れ替われるはずだわ。殿下だって冴えないあんたより、私の方がいいでしょうし」

「私が……シルヴィアと入れ替わる……?」

「そうよ。元々、『選定の儀』に行くのは私だったし、なにも困らないでしょ。今まで、私の身代わりご苦労様」


 ──彼女はなにを言っているんだろう。


 今さら、私とシルヴィアが入れ替われるはずがない。

 たとえ、同じ桃色の髪をしていても……だ。


 しかし、そのことをシルヴィアに言っても、彼女は納得しないだろう。

 それほど、今の彼女の瞳は闇を孕んでおり、話が通じなさそうだった。


「これから、ルネヴァン家はさらに落ちぶれていく。そんな家に私はふさわしくない。だけど、殿下と結婚すれば全部チャラ。私が王妃になり、殿下と共に国を支えることになるわ」


 そう言って、シルヴィアが私に手を伸ばす。


「ねえ……いいでしょ? あんたには分不相応だったのよ。私に殿下を渡しなさい」


 じっと私の答えを待つシルヴィア。


 ……今まで、私は彼女に逆らえなかった。

 だって、私は『無能』だから。

 シルヴィアに勝てるところなんて、なに一つないんだから。

 両親は私を捨ててることになって、喜びこそしたものの、悲しむ様子は一切なかった。


 今まで、シルヴィアに全てを奪われてきた。

 家族からの愛も。幸せも。


 でも──。



「嫌……です」

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