第34話 王城
ある休日、いつものようにヤタガラスとの朝練を終え朝食を摂っていると、メイドの一人から何を渡された。それは、イーリスフロル王家の家紋が描かれた封蠟で、差出人はイングリッドだった。
封蠟を引き裂いて開けると、内容は魔法の練習がしたいから王城に来てほしいといったものだった。ヤタガラスを連れているせいか巡回中の騎士から不審な目を向けられてしまったが、無事目的地へとたどり着いた。
……が、彼女の部屋の前でイングリッドが、金髪の少女に詰められていた。
「――王族として恥をさらさないで頂戴!」
「はぁ……あ、サウザー兄様」
遠巻きに眺めていた所、僕のことに気が付いたイングリッドは、金髪の少女をガン無視してこちらに近づいてきた。そのまま僕の背後に回ると、小さく〈シャドウウィップ〉と呟く。
次の瞬間、廊下の壁に魔法陣が浮かび上がり、そこから黒い触手が溢れ出した。
「ちょっと待ちなさ――」
瞬く間に廊下が塞がれ、甲高い声が途切れる。その様子をイングリッドは満足げに笑い、きびすを返す。僕とヤタガラスは何が何だか分からず顔を合わせ、彼女について行った。
「さっきのアレ、何があったの?」
道すがら尋ねると、先日僕たちが火事現場から子供を救助したことに対して、王族としてあるまじき行為だと責められたとのこと。正直、何でそんなことをわざわざ詰めていたのか、理解に苦しむ。
城の庭園に隣接したガゼボに移動し、セシリアが作ったお菓子を机に広げる。姫付きのメイドから緑茶が注がれたところで、お茶会が始まった。
「お初にお目にかかります、王女殿下。私、ヤタガラスと申します。兄君の護衛として日々邁進しております故、以後お見知りおきを」
「そう硬くならなくていいわ。貴女も一応、魔族の国ゼノビアの王族でしょう」
「おっそうか、なら遠慮なく。…さっきのアレについて何だが、何だったんだ?」
「一種の事故みたいなものよ。相手にしたら負けだと思うわ」
「どこにでもいるよな、文句だけはデカいお局みたいな奴」
イングリッドとヤタガラスのファーストコンタクトは無事成功し、金髪の少女に絡まれたことへと愚痴が二人の口から放たれる。すっかり蚊帳の外となった僕は大人しく緑茶を味わっていた。
話題が両国の文化の違いに関するものになった時、どこからか視線を感じた。その方角に注視すると、柱の奥からこちらを見つめる影があった。
「ん?さっきのやつが来たのか?」
「いや、それとは別のやつ。ちょっと行ってくるね」
「じゃあ私も――」
「大丈夫よ、あれは」
ゆっくり立ち上がり、その人物の下へと向かう。こちらから接近するとは想定してなかったのか、その人物は体を硬直させる。
「……。」
「……母さん、なぜ見てるんです?」
僕たちのお茶会を陰から眺めていたのは、やけに化粧の厚いおばさんこと、この僕サウザーの生みの親である第二妃だった。柱からドレスの端が見えていたのに隠れていたつもりだったのは滑稽だ。
とはいえ、僕が転生してから接触のなかったのに、急に現れたのは何か理由があるはず。焦らず返事を待つことにした。
沈黙が場を支配すること数十秒、ようやく母さんは重い口を開いた。
「……以前、下級貴族に襲われたと聞いたわ。怪我はなかったかしら」
「ああ、校門にいたクソガキ共か。きっちり返り討ちにしたから大丈夫ですよ」
「そ、そう……無事ならいいの」
「それだけですか?なら行きますね」
「……っ!待って!!」
要件はそれだけかと二人の下へ戻ろうとすると、慌てて引き留めた。再び言葉が紡がれるまで長い時間を要したが、深呼吸をして覚悟を決めたようにこちらを真剣に見つめてきた。
「ねえ、あの子は……『貴女』はどこに行ったの?」
「質問の意図が理解できないですね。『僕』なら目の前にいるでしょう」
とっさにすっとぼけてみたが、その意味が理解できた。どうやら母さん、スキルかなんかでオリジナルサウザーのことを観測できていたようだ。母さんからしてみれば中身女の子の我が子が知らん男に乗っ取られてるのだから、どう接すればいいかわからなくもなるだろう。
「今日は予定が埋まってますので、日を改めてご連絡ください。では、失礼します」
その場に固まった母さんに背を向け、イングリッドたちの下へと戻る。
「お帰り、兄様」
「ただいま。んじゃ、魔法練習しに行こうか」
「そういえばそんな話だったわね。ここだと集中できそうにないから、メイフラワー邸にお邪魔させてもらうわ」
「んじゃ二人とも、ここを出ようぜ」
僕が母さんと話してる間に打ち合わせていたのか、すんなり話が決まっていた。迷うことなく王城を脱し、日が落ちるまで魔法練習に付き合った。
イングリッドの魔法の腕前はかなりのもので、ヤタガラスですら舌を巻くほどだった。途中模擬戦をしたら僕は手も足もでないくらいボコボコにされ、ヤタガラス相手にも十二分に健闘していた。
イングリッドすげ~と感心しつつ、僕自身はまだまだ未熟であることを突き付けられた。今日の出来事を踏まえ、もっと力をつけようと誓った。




