第33話 乙女たちのお茶会
今回は3人称視点です。
ある日の昼下がり、二人の生徒が学園のガゼボでお茶会を楽しんでいた。一方は覚え始めた礼儀作法を守ろうと必死にティーカップを口に運び、もう一方は音一つ立てずに優雅に紅茶を啜っている。
両方のティーカップがテーブルに戻されたことで、和やかな会話が再開された。
「セシリア様…今のはどうでしたか?」
「肩に力が入りすぎてますわ。もう少し心に余裕をもって紅茶の風味を味わいなさい」
「味とかわからないですよぉ」
「……。」
ルミナス・トワイライトの貴族のきの字もない言動にセシリアは呆れて言葉を失う。礼儀作法の確認をお願いされたはいいものの、公の場で披露できるレベルには到底届かないからだ。ルミナスは幼少期は平民として育ち、2年前に貴族の養父に引き取られているという。そのせいで貴族としての教育が追い付いていないらしい。
「ルミナス様、こんなこと言うのは良くないとは思いますが…よくこの学園に編入できましたね」
「筆記試験には自信があったんですよ。生徒会の仕事だってできてますし」
「……そうですわね」
これ以上問い詰めても作法は身に着かない。そう判断したセシリアは適当なところで切り上げ、持ち込んだお菓子へ手を伸ばす。最近開発された茶葉を練り込んだ焼き菓子であり、口に入れるとほのかな甘みと苦味が広がっていった。
「美味しいです!」
「うふふ、作った甲斐がありましたわ」
「—―えっ、セシリア様が作ったんですか⁉」
ルミナスの驚く顔を見て、セシリアは満足気に頷く。
数日前、メイフラワー邸でヤタガラスと錬金術の練習をしている時、沢山作るなら消費できる物がいいと考え、食料品を錬成し続けていた。最初はこの世のものとは思えない劇物ばかり出来上がり、試食したサウザーが地獄を味わっていた。
諦めずに試行錯誤を重ねついに完成したのが、目の前のお菓子なのだ。
「そういえば、セシリア様って【聖女】なんですよね。普段どんなことしてるんですか?」
「各地の神殿の訪問や孤児院での炊き出しなどですわ。昨年はかなり忙しく学業がおろそかになってしまいましたが、最近になって、業務の内容が見直されたおかげで仕事が減り、こうして学業に励むことが出来るようになりましたの」
「そうだったんですね。……私、わかっちゃいました」
そう言って、ルミナスは中指で鼻の上を触り、メガネをかけるような仕草を見せた。一体どうしたのかとセシリアは首をかしげる。
「ズバリ、サウザー殿下との時間を作るために仕事を減らしたんですね!」
「……へ?」
「いや~。セシリア様も乙女ですねぇ」
「いえ、別にそういうわけでは――」
実際に【聖女】の業務に口を出したのはサウザーの方であり、セシリアは特に働きかけたことはない。その事実を伝え否定しようとするも、ルミナスにはかえって逆効果であった。
「私、お二人のこと応援します‼」
「……ありがとうございますわ」
ルミナスの無邪気な一言は、セシリアの心に一つの疑問を植え付けた。それは――自分はサウザーのことをどう思っているのか、といったものだ。
元々王家が取り決めた婚約であり、当初はあまり親しい間柄ではなかった。彼が毒で倒れ瀕死になった時は一生懸命治癒魔法をかけたのだが、あくまで患者として、という認識であり異性としては全く意識していなかった。
だが、サウザーの体に異世界人タクマが乗り移ったことで彼は変わった。これまで避けてきた剣を手に取り、スキル取得の為に鋼鉄の鎧に拳を叩き込み続ける。一番の変化は、精神面だろう。傷つくことを恐れず自ら仲間の盾となり、敵には容赦なく拳を振り抜く。優しいだけだった無能王子とはかけ離れた姿だ。
「ルミナス様から見て、サウザー様はどう映りましたか?」
「んー…最初は王子様っぽい雰囲気だったんですよ。でも、戦い始めると荒々しくなりましたよね。仮面の下の本性がむき出しになった、みたいな」
「本性……」
「普段の王子様な殿下と、戦闘中の殿下、どちらも違った魅力がありますよね。セシリア様はどっちが好きですか?」
「わたくしは……ごめんなさい。今は、決めきれませんわ」
セシリアの表情に影が差す。今まで自分が見てきたサウザーの姿はほんの一部であり、その全貌を知らない。だからこそ、一面だけを見て好きになるのではなく、今一度彼に向き合う必要がある。
きっとその時初めて、彼を心から想うことができる――そう結論付けた。




