第31話 音楽室の幽霊
『吹っ飛んじまいな!」
女幽霊が放置された楽器へ手をかざす。すると、埃を散らし宙へと浮遊していく。振り上げた手を僕たちへと下ろすと、動きと連動して楽器がこちらに飛んできた。
「〈プロテクション〉!皆様、わたくしの後ろに!」
セシリアも負けじと魔法を発動。透明な障壁が僕たちを守るように展開する。間もなく楽器と障壁が激突し、鈍い音が音楽室に響き渡る。
「くっ……なかなか重いですの」
『威勢がいいねぇ!もーっと増やせばどうなるかなぁ⁉』
初撃は完全に防ぐことが出来たが、女幽霊は両手を広げ、さらに二つの楽器を念動力?で持ち上げぶつけにきた。流石に危ないと判断し、セシリアの前に立ち楽器をその身で受け止める。
10キロ以上はある物体を拳だけで吹き飛ばすのは難しい。そう判断しての行動だが、思ったよりもダメージが少ない。二つともガッチリ受け止め、窓の外へと投げ飛ばす。
今の攻防を経て、物理攻撃は効果が薄いと悟ったのか、今度はドス黒い魔力弾を複数生み出し射出してきた。何かしらの魔法の詠唱中のトワイライト嬢をセシリアに守らせ、僕とロイドは左右に展開して女幽霊に接近を試みる。魔力弾がこちらに集中してくるが、魔力を纏った拳とエンチャントした剣で無効化していく。あと数歩で間合いに入る――
「止まれ!」
ロイドが叫んだ直後、女の腹が縦に裂け、中から黒色の巨大な手がひり出された。後ろに下がって回避しようとしたが間に合わず、胴を鷲掴みされてしまった。
『捕まえたぁ……さあ、搾り取ってやるよ!」
「何を――ぐぉぉぉあああ!」
体の中にドス黒い魔力が流れ込み、全身から力が抜けていく。彼女の言葉通り、僕の生命力がどんどん吸われ、意識が薄れてゆく。が、舌の端を嚙みちぎり意識を覚醒させる。そして、僕を拘束する手に触れ【メビウスリング】を発動。対象は女幽霊、第三の腕に込められた魔力を自身へと吸収する!
「テメェが吸った分、返してもらうぞ……!」
『ちぃっ、面倒だね』
女幽霊は巨大な手が少し崩れているのを見て、拘束している僕を地面に叩きつける。うつ伏せで倒れたせいで顔面を打ち付け、頭がズキズキ痛む。顔を上げると、女幽霊は地を這う僕を見下ろし愉悦に浸ってているのが見えた。
そう……他の3人を無視して。
「――夜空に輝け!〈スターリーフィールド〉!」
トワイライト嬢の宣言とともに、薄暗い教室が美しい星空へと変わってゆく。当然、ただキレイなだけではなく、あらゆる角度から星型の魔力弾が女幽霊へと降り注ぐ。
鬱陶しそうに腹から生えた腕を振り回して迎撃した。
『この程度っ……がはッ!」
「【フェイタルテイル】」
背後からロイドの剣が胸を貫く。その後剣を乱暴に引き抜くと、空中で1回転して頭へと強烈な一撃を叩き込んだ。
斬撃によって真っ二つに引き裂け、女幽霊の体からドス黒い魔力が漏れ出す。腹から生えた第三の腕はセシリアによる射撃で根本から崩れ、地に落ち崩壊を始めた。
さらに、ロイドが空け再生されつつある胸の穴にセシリアの戦技【スパイクショット】が撃ち込まれ、内外共に大ダメージを受けた。
『ぐうう、アタイが、こんなガキ共に……認められるかぁぁ‼』
「認めなくて結構。とっとと冥府に還れ‼」
最後のあがきと言わんばかりに魔力弾を乱射し、体のあちこちから腕を生やしぶん回す。が、魔力弾はトワイライト嬢が、腕はセシリアが体に縫い付け動かなくしていく。
僕はゆっくりと立ち上がり拳に爪が食い込む程強く握りしめる。ありったけの魔力を込め、みぞおち目掛けて右ストレートを撃ちこんだ。
『ぎゃあああああ‼嫌!死にたくないぃぃぃ!!』
僕の一撃が致命的な損傷となったのか、女幽霊から黒い煙があふれ出す。自らの終わりが近いことを悟りこちらに手を伸ばしてくる。きっと心優しい主人公だったら手を取り落ち着かせるんだろう…と考えつつ、手首を掴み――思い切り引っこ抜く。
『――――――』
小さく開いた口が言葉にならない音を紡ぐ。動揺か怒りか、はたまた憎しみかは定かではないが、どうせ大したものじゃあない。僕がとびきりの笑顔で親指を下に向けると同時に体が崩れ去り、煙とともに宙に消えていった。




