第26話 一人じゃない
火事の発生した食堂に取り残された女の子を救出し、母親らしき女性と再会させる。二人は涙を流して抱きしめ合い、僕たちに感謝を伝えてきた。
「本当に……本当にありがとうございました!なんとお礼したら良いか……!」
「おにいちゃん、ヒーローみたいだった!ありがとー!」
「礼なら不要さ。念のため、検査をうけてもらおうか」
女の子をセシリアの下に連れていき、魔法を使ってもらう。特に異常はなく、珍しい光魔法にはしゃいでいた。僕も負けじとしゃぼん玉や氷の人形を生成し、とても楽しそうに遊ぶことができた。
「アタシだって……!ほら、うさぎさんよ」
「わあー!真っ黒うさぎだー!」
僕に触発されたイングリッドも、闇魔法でうさぎを象り、女の子の手のひらに乗せた。火事の恐怖はすっかり忘れたようで安心安心。
遊び終えたところで、俯いているセシリアに話しかける。
「……あの子、元気そうで安心しましたわ」
「ああ、君一人だったら、全身に火傷を負い、子供も煙を吸い込み危険な状態になっただろうね」
「うっ……わたくしでは力不足ですの?」
「そうだね。僕とイングリッドがいなければ助からなかったかもしれない。けど、最初に動き出したのは――他でもない君だ」
その一言に、下を向いていた顔が上がる。彼女は無謀でも構わず助けようとした。ただ、僕たちをたよればよりうまく助けことができる。それを理解したのだろう。
「サウザー様、イングリッド様、お二人とも、ありがとうございますわ」
気を持ち直したセシリアは、僕とイングリッドに深々と頭を下げる。きっと今後無茶をするだろう。だがその時は僕が、時にはヤタガラスやイングリッドが味方になる。そう思いを込め、頭をなでた。
「……で、ここからどうするよ。今日はたっぷり時間があるわけだけど」
「うーん……一旦帰りましょ」
「わかり、ましたわ」
時刻は13時といったところで、メイフラワー邸に帰ってきた。セシリア一人になりたいと言って、自室にこもってしまった。
残った僕たちは、ガゼボでゆっくりすることに。読みかけの英雄譚を読了し、感想を伝えた。一通り言い終えたところで、話題はセシリアのことに移る。
「セシリア姉様、大丈夫かしら」
「今まで人に頼ることを知らなかったんだ。彼女にとって未知の感情だろうね」
「……そっか。セシリア姉様、一人じゃないのね」
「ま、お前に関してはほぼ孤立してるけどな。女子グループと根本的に趣味が合わないし、メイドや騎士は一歩距離置いてるし」
「うるさい。みんなアタシのこと腫物扱いするのよ!目を合わせて話すなんて……サウザー兄様が久しぶりくらい」
実際、イングリッドはかなり面倒な立場だ。今は亡き第3妃の子で、しかもその死因が呪いの呪詛返しという、いかにも忌み子な出自なのが悪い。さらに適正は闇属性。これで禁術とか使えたら厄物コンプリートだ。
「何か困ったら僕を頼るんだ。最悪兄さんでもいい」
「えー……あっちは話聞いてくれなさそうなのよね」
「まあ、無能王子と厄物姫、どっちもロクなもんじゃないからね」
「何よ厄物姫って」
「今考えた。似合ってるだろう?」
「……もっとカッコイイ呼び方がいいわ。」
「なら、それに見合う実績を残せ。誰もが認める存在になれば、手のひら返して讃えてくれるさ」
セシリアもイングリッドも、今回の事件をきっかけに誰かを頼ること、信頼することの大切さを自覚した。きっとこれがいい方向に転がるだろう。
二人の未来に期待し、緑茶を飲み干した。




