第25話 セシリアとデート?
ダンジョン演習から数日後、僕はセシリアと格式の高いカフェに来ていた。何でも、この時期限定のスイーツが食べたいとのこと。予約していた席に向かうと――特徴的な赤髪が見えた。
「何でイングリッドがここに……?」
「セシリア姉様に誘われたの。聞いてなかったかしら」
「……僕、デート行こうって声かけたのに」
どうやら中々友達のできないイングリッドを元気づけるために僕とのデートにねじ込んだらしい。浮かれてた僕と違ってセシリアは気が利くなぁ……。
各々注文して数分後、ハチミツがたっぷりかかった2段のパンケーキと、イチゴがこぼれそうな程乗っかっているパフェが2つ届いた。早速口に運ぶと、生地の控えめな酸味とハチミツの甘味が広がっていった。
「そうそう、二人に読んでほしい本があるの」
一切れ残した生地でハチミツをなめとっていると、イングリッドから『白蛇の英雄』というタイトルの本が渡された。その内容は、8匹の大蛇を操る青年が数々の困難を乗り越えるといった物語だった。読み進めていくと、味噌と醤油を開発したり、蒸留酒を広めたりと、突拍子もない行動が多くみられた。
「コイツ……絶対異世界人だろ」
「やっぱり?妙な言動が目についたのよね。他の子に見せても微妙な反応で心配だったのよ」
「そんなんだから友達できないんだよ」
「別にいいの。アタシにはセシリア姉様と……『今』のサウザー兄様がいるからね」
妙に含みのある言い方だな。直接口にはしてないけど、僕の中身が異世界人だと薄々察しているのだろう。夢中で食べているセシリアをながめていると、外が騒がしいことに気づいた。
街の人々がある一定の方角から遠ざかっているようで、何かを叫んでいる。……えっと、『火事だー!」って言ってる?
物騒だなぁ、と他人事だと思っていると、パフェを食べていたセシリアが急に立ち上がり、入口へと走り出した。
「行かないと……!」
「ちょ、ああもう……イングリッド!先行して拘束しろ!」
「ええっ⁉わ、わかったわ!」
僕は敏捷性が低く、下手すりゃ追いつかない。イングリッドの背を見届け、ウェイトレスを呼び出す。セシリアが残したパフェを貪り食らい、金貨3枚を手渡す。会計を済まし渦中へと急いだ。
現場に到着。地面にへたり込んでいる女性から話を聞くと、食堂の厨房から火が燃え広がり、2階に逃げ遅れた子供が取り残されているとのこと。
セシリアは……イングリッドが生み出した闇の触手に拘束されていた。
「――様、離してください!」
「しっかり捕まってるな。よくやった、イングリッド」
「セシリア姉様、火の中に飛び込みそうだったのよ。止めてよかったわ」
必死にもがくセシリアを見下ろし、目を合わせる。彼女の瞳には強い使命感が浮かんでおり、拘束を解けば今にも飛び出しそうだ。
「イングリッドがいてよかったよ。おかげて無謀な犠牲者を出さずに済んだ」
「何を……!わたくしがいかなければ命が失われてしまいますわ!」
「――僕が行ってくる。君はここで待機しておけ」
強い口調で言い放つと、静かになった。今のセシリアは正気じゃなかったから、どうなることかと思った。イングリッドに魔法を解かせ、次の指示を出す。
「よし、2階の壁をぶち破ってくれ。僕がそこにジャンプして侵入する」
「作戦は理解したけど、ひとっ飛びで届くの?」
「心配ない。僕を信じろ」
「なら屋上壊した方が安全ね……〈ダークジャベリン〉!」
暗い闇を凝縮した槍が現れ、屋根の一角を吹き飛ばす。壁を壊すと子供が巻きこまれてしまうかもしれないから、天井をねらったのか。確か闇属性は壊した物を消滅させられたとか何とか。
おっと、感心してる場合じゃない。両足に魔力を高め――ジャンプと同時に解き放つ!
一気に体が上昇し、砕けた屋根に飛び込む。ちょうどいい隙間に入り、室内に着地した。足首をくじいた気がしたから念のためメビウスリングを発動し、子供を捜索する。
「助けに来たぞー!いたら返事してくれー!」
「――けて、助けて!」
声の方向へ向かうと、机の下に女の子が震えていた。幸い1階の火からは遠く、今なら間に合いそうだ。落ち着かせるため頭をなでて、お姫様抱っこで運ぶ。しっかり掴まってるよう言い聞かせ、来た道へと引き返す。
どうやって降りようかと思ったら、闇の触手が地面に敷き詰められていた。いい感じに衝撃が吸収されると信じ、飛び降りた。
「――ぃよし!脱出成功!」
腕の中の女の子も無事みたいだ。地面に降ろし、母親らしき女性の下に連れて行こう。




