第二十三話 由来
最後の激戦区。
白蓮&連王 VS 永瀬義朋。
美怜も戦場へ戻ったが白蓮から「手を出すな」と言われ、胸の前で両手を握りながら戦況を見守っていた。
手数は白蓮たちが多く、絶え間ない攻撃は義朋に攻撃の隙きを与えてもいない……はずだが、義朋の口振りは余裕綽々である。
「連王、お前がNo.9なのは、少なからず運命を感じる」
「はあ? 怖気立つようなこと言わないでくれる? うわ蕁麻疹出てきそう」
連王が生み出した水の狼が立てた爪も牙も、放たれる息吹も、義朋の水守一枚も傷つけられていない。
「何、かつて俺もNo.9の与えられていたからな」
「まじかよ」
義朋が紅に所属していたという話は全く耳にしたことがない。一線から退いて長い為というのもあるが、今現在の彼の政治の力がかつての戦闘能力を軽く凌駕しているからに違いない。
義朋は白蓮の氷を水の細槍一突きで粉砕すると、興が乗っているのか特務隊の今昔物語を語り出した。それは世界大戦以前に遡り、義朋すら父や祖父から伝え聞いた話。一般人の世界を表とすれば、裏で活動する天会の更に裏側で暗躍した者たちの話。
「お前たちが知っているか知らぬが、特務隊の前身は天会の秘匿部隊。暗部、というやつだ。暗殺に情報工作、国内外におけるスパイ活動。国家の犬となり様々な暗躍をやっていたらしい」
時には軍に入り込んで膿を始末し、時には外交官として海を渡って情勢を推し量り、時には敵組織に潜り込んで要人を殺害した。しかし、現在の特務隊と同じく任務の絶対優先は変わらない。
異能が見られれば見た人物を消し、任務が失敗して情報漏洩の危険があれば自死し、敵組織に潜入中は任務の為に必要とあらば仲間をも殺した。
任務と情報を命より重く考え、忠実に任務を遂行し、しくじったならば潔く死を選ぶ、人間の姿をした高性能な人形。それがかつての秘匿部隊。
白蓮と連王は義朋の挟む形で左右に立ち、攻撃力優先の強力な天術を放つが、義朋の水守一枚に防がれた。
義朋は何事も無かったように話を続ける。
「その名残がNo.であり、"任務絶対優先"などという当然の義務だ」
「数字などただの記号だろうが」
「その通りだ、白蓮。ただの記号だ。家族には死んだと伝え、名も戸籍も消し、そこ居るのに存在しない、ただただ忠実に命令に従う駒を呼ぶ為の、な」
挟み撃ちの天術を防がれ、舌打ちした白蓮の表情が更に険しくなった。
世が世なら特務隊に入隊した時点で、死んだも同然だった。名を捨て、帰る場所も捨て、任務失敗した場所が死に場所。
半永久の傀儡である。
「駒が死ぬ度に数字を増やしていては、呼び名が長くなってしまうだろう? だから隊長副長の"1"と"2"を除き、新任には空き番の若い数字を与えるのだ」
努めて冷静を装う白蓮の歯が見える。笑ったのではなく、奥歯を強く噛み締めたからだ。
数字が積み重ならない。全ての記録を抹消された彼らに唯一与えられた数字は、新しい誰かによって上書きされる。その瞬間、彼ら彼女らは、世界にいなかったことになる。
せめて天会は記録しているのだろうか。任務を遂行しようと散っていった命の記録を。
連王が狼たちで矢継ぎ早に攻撃を仕掛け、その間に白蓮が義朋の真上に巨大な氷塊を造り出し、そのまま落とした。しかし、義朋が頭上に張った水守に巨大な氷塊が一秒間乗って静止した後、最下部から亀裂が全体に走り渡り、粉々に砕け散った。大量の氷の破片が音を立てて落下し、地面に積み重なり、白い冷気が辺りに広がっていく。近くにいた連王の狼がうっかり触れると、その体をも凍結させていく。
その白き冷気の中で、義朋は落胆した顔で二人を順番に見た。義朋の体は一切の侵食を受けていない。
「世界大戦後に暗部は解体され、それでも偽善だけはやっていけぬから、必要悪の特殊任務執行部隊が設立された訳だ」
義朋が初めて手を前に翳した。
「その元特務隊として、一言言わせてもらうならば」
その手を、手首を軽く下に下ろした。
「レベルが落ちたものだ」
この時、白蓮と蓮王は瞬きしていない。戦いを見守っている美怜も義朋の術の始動を見逃さないように目を凝らしていた。
その三人が見たのは、白蓮と蓮王を打ち付ける大きな水の鞭。それも五本。
最初に動いたのは蓮王だった。鞭の合間を直感で見切り、最大限に天力を纏いながらそこに身を投げ込んだ。地面を打った水の鞭が弾け飛び、両側から大量の水飛沫の礫が蓮王を襲う。天力を纏った蓮王ですら一つ一つの礫がゴルフボールに感じる威力。一瞬に凝縮された激痛の嵐に蓮王も膝を付いた。
「ぐっ」
義朋を視界に収める余裕もなく、蓮王の頭が垂れる。黒く濡れた土だけが見えた。全身から登り来る痛みの中に、ひしゃげた数本の指と骨にヒビが入った痛みが混じっていた。激痛に苛まれ短い呼吸を繰り返す中、蓮王は歪めた顔を少し上げる。
まず映ったのは、深く窪んだ地面。義朋に向かって浅くなる水の鞭の跡。特段の天力の収束もなく、詠唱もなく、ただ手首を下ろしたたったそれだけの動作で行使した天術。その時点で義朋の眼が期待外れだと言っていた。
横を向けば、粉々に砕け散った大量の氷が散乱している。白蓮の姿は氷上にはなく、水の鞭の射程から僅かに離れた後方にあった。白蓮を守るように凛と立つ、その麗美な衣装が破け散って血を流す美怜の後ろに。
その美怜は糸が切れた人形のように倒れ込み、白蓮が受け止めた。
「美怜!」
「ご無事、ですか? 白蓮様」
「ああ。だが……」
美怜の体はボロボロだ。腕や脚には筋肉を抉り取られたような傷跡が数か所、礫が掠って出来た切り傷多数、そして夥しい数の青痣。美怜の美しい白肌が赤と青に染まっていた。
自分のせい。己を責める白蓮へ、美怜は声を振り絞って激励を贈る。
「一度だけの"待った"です。このチャンス、掴んでくださいね……貴方と、貴方の未来の為に……」
「ーー必ず」
「でしゃばった甲斐が、ありました」
白蓮の眼が決意に満ちた強い眼で約束すると、美怜は嬉しそうに微笑みを浮かべた。
白蓮は美怜を離れた場所に寝かせ、戦場へ戻る。
汗一つなく、堂々と君臨する義朋を打倒する為に。
「特務隊を名乗るのなら俺に一撃でも入れてみせよ。でないとお前たちに自由はないぞ」
たった一回の攻撃が、歴然とした力の差を白蓮と蓮王に思い知らさせていた。
術の展開速度とその範囲、天力の量と質、どれも隠居した老人のものではなく、さらには『殺そうと思えば殺せていた』というメッセージも感じ取れなくもなかった。
白蓮が両手に天力を集中させ、蓮王が再び青狼を生むと、二人は視線を交わし、頷き合う。そしてすぐに行動を開始した。それは共通の敵を前にしているからか、戦闘という特別な状況だからか、はたまた半分繋がる血の縁か、二人の意思疎通がアイコンタクトだけで叶った。
交互に攻撃していただけだった戦い方が、蓮王が波状攻撃を仕掛け、白蓮が大技を叩き込む連携攻撃に変わっていた。蓮王の水は白蓮の氷の為に、白蓮の氷は次なる蓮王の攻撃の為に。
強敵を前に、蓮の異父兄弟はようやく手を取り合い始めた。
だが、その連携攻撃も義朋には届かない。義朋との違いはそういう次元の話ではなかった。
いつまで経っても変わらない二人に対して、義朋が遂に痺れを切らした。
「浅い浅い浅い浅い!」
義朋の水守に触れた白蓮の氷が弾け跳び、連王の天術は義朋の手によって分解された。
「己の能力への理解が浅い」
今までの防御とは全く違う現象を前に白蓮と連王の攻撃が止む。二人は肩で息をして義朋の様子を窺った。
義朋は仕方ないとばかりに息を一つ吐き、両手を背中で合わせて背筋を伸ばす。
「もう一つ授業をしてやろう」
「なに?」
「……」
義朋は二人に呆れと失望を覗かせつつ、己が教鞭を執らなかったことを少し後悔した。天魔大戦の経験者、リアルタイムで戦況を見聞きしていた者ならば危機感を持って教導と血の継続にあたると思っていたからだ。その成果が目の前の二人だと信じていた。白蓮に暗殺を図られたが、あっさり返り討ちにできたのも、全て対策してあったからだと過信してしまった。あのレベル通りだと思えなかった。
実力だけは褒め称えられる二人がこのレベル。義朋は危機感を募らせる。
「白蓮、氷とはなんだ。何をどうやって氷としている。お前の力の本質は本当に氷か? なまじ天力なぞがあるからそんな無様な力押ししかできんのだ」
「……」
「連王、水とはなんだ。純水か、河川の水か、海水か。お前の生み出す水は何なのだ。水蒸気は水か? 氷は? 他の液体は操作できるのかできないのか。お前の力はどこまで影響を及ぼす? 天力への理解は白蓮よりマシだが、まだまだ浅すぎる」
「……」
義朋の力は"水"。自分の能力外の白蓮には本質を問い、大雑把な攻撃しかしない彼に宝の持ち腐れを指摘。そして同じ能力の蓮王には自分がいる領域へ到達させる為、更なる追求と発想の転換を求めた。そして義朋は自分が何に失望し、何に憤っているのか、二人に語り出す。この二人には強く在ってもらわなければならないから。
「魔術師や陰陽師は自分らに[師]を付けて呼んでいる。つまり戦うことを旨とせず、その力の求道こそ本懐としている」
魔術師と天子の関係を学んだ者ならば誰もが知っていることだ。魔術師は、天子以外が持ち得る力を多くの知識と術式を用いて具象化し、具現化する。先祖代々連綿として受け継がれた知の結晶で魔術を行使する。一部の例外を除き、決して生まれながらにして異能が使えるなんてことはない。そんな彼らは内に内に、真実を求めていく。故に、魔術師はその道の専門家となり、学ばない天子との差を明確にし、揶揄するようになる。
「返って、魔術師やソリアスは我らのことを[天術士]と呼ぶ。即ち"天術で戦う者"という意味だ。間違いでもないから否定はしない」
かつてこの国での天子は非人や異人と呼ばれ、忌み嫌われていた。各地を繋ぐ道が整備され始めると、稀人とも呼ばれ始めるが、忌み嫌われていることには変わりなく、社会から省かれるように生きていた。そんな彼らが社会に適合するには、一般人と共存するには、人の役に立つ必要があった。彼らにできることは、生まれ持った力を使って魔を払うこと。人を脅かす存在から人々を守ること。自分たちが生きていく為に、自分たちを除け者にする者たちを守るという矛盾にも思える行為を生業として食つないていった。この流れは世界のどこでも似たようなものであり、その結果、戦いに秀でるようになった。
義朋は憤りを含んで語気を強め、鋭く二人を睨む。
「がしかし、その皮肉を良しとし、そこから考えず、学ばず、戦うことだけを続けた結果、先の大戦はどうだった? 魔術師に比べて戦いに秀でるはずの我らが、奴らとの拮抗を許し、泥沼になってしまった!」
初期こそ天子協会が優勢だったが、魔術協会は天子には扱えない力を駆使することで戦術・戦略で徐々に盛り返した。しかし個の戦闘力は天子が上であり、天子協会上層部も策を巡らせ始め、五分五分の戦争に至る。
血を血で洗い、憎しみを憎しみで返し、怨嗟を怨嗟で暴虐した戦争。味方すら疑わなければならない疑心暗鬼の戦場は、とても現代の戦争ではなかった。
「解るか? 足りぬのだよ、圧倒的に、己の力への理解が。理解が浅いから浅い使い方しかできない。薄っぺらい使い方しかできぬから、より深く理解している者に及ばないのだ」
氷の魔術師と白蓮が、もしくは水の魔術師と蓮王を比べた時、力の放出量は天子側が多くとも、その力の扱い方・技術は魔術師の方が巧みである可能性がある。生まれた時からその力を持っている白蓮と蓮王よりも。己の力への理解の差が、思考した時間の差が、"才"のアドバンテージを埋める。
義朋はそれをよく理解している。だからこそ、憤っている。誰よりも危惧している。それ故に力を求めている。人間ならではの特性であり、その特性がより顕著に出る天子なればこそ、性急に結果が出る血統を以て。
「奪われた? 二度と手を出すな? 甘ったれるな小童共。簒奪者は"弱い"を理由に止まらんぞ。むしろ逆だ。"弱者"だから搾取していくのだ!」
辛酸を舐めさせられた者たちが、子どもたちにはそんな思いをしてほしくないと甘やかす。義朋はこれに異を唱える。辛苦を味あわせたくないのであれば、その辛酸と苦痛を近づけ、自力で跳ね除けさせる。できなければ、その苦痛と恥辱を与え、這い上がるも潰れるもその者次第。
「『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』。敵ばかり観察せず、まずは自分の力を理解しろ」
義朋の右肩が最初に動いた。それは手をかざす動作の起こり。
白蓮と蓮王はすかさず攻撃を仕掛けた。義朋に指摘されたことが、真実、自分たちの飛躍に繋がるのだとしても戦いながら考える他ない。義朋に攻撃を許せばさっきの繰り返しになってしまう。絶え間なく、隙間なく、二人は互いの行動・呼吸を感じ取って天術を繰り返す。
「ちいっ!」
それでも白蓮の氷は、義朋の天術もしくは体に触れると内側から破壊されるように粉砕される。
(本質が氷か、だと? 氷以外の何がある!)
手をかざし、天力を込めれば氷は生まれた。込める天力が多いほど大きな氷が現れ、頭の中で形を思い描けばその通りの氷ができた。天力を込める時、何かに触れていればそれは凍った。氷の強度を高めたり、範囲を指定したり、遠くに氷を生み出す技術も習得したが、根本はそれだ。天力に応じて凍る。
何度も天術を仕掛けても、同じように砕けていく氷たち。砕けた氷の向こうに見える義朋の目は、期待外れの落胆の色。白蓮が今まで向けられたことの無い目だ。自分を排除しようとする目、取り入ろうとする目、怖がる目、多くの色眼鏡がかかった目で見られてきたが、どこにも白蓮を見くびる目はなかった。それは白蓮が力に目覚めてから常に他を圧倒し、外の世界に出ても白蓮に比肩できる者は指の数もいなかったから。義朋にどう思われようと構わないはずなのに無性に腹が立った。
白蓮は義朋が蓮王に言った言葉を思い出す。
『お前の生み出す水は何なのだ。水蒸気は水か? 氷は?』
もしもその意味が、水の状態変化の一つである氷は水の力で操れることを示唆しているのだとしたら。
(氷は水の劣化版なのか!?)
"大地"という属性の能力がある。土と岩石を内包する大地の力は土も岩石も操れ、天子によっては鉱石をも己の力にするという。その為、土と岩石の力の上位互換は大地とされている。もしも、この例に漏れず、氷の元となる水が上位の力なのだとしたら……。
(ーーそれがどうした)
白蓮にとってこれが培ってきた力だ。両親から受け継いだ力だ。白蓮を[氷帝]たらしめる力だ。白蓮は今更、水に手を出そうとは思わなかった。
義朋は白蓮が殺したいほど憎い敵、親の仇、今も自分を縛る怨敵だ。しかし、強者としての彼の言葉が嫌でも脳にこびり付き、成長のヒントだと本能が言っている。
腸が煮えくり返りそうだが、断腸の思いで義朋の指摘を反芻した。
『氷とはなんだ。何をどうやって氷としている』
(水の結晶体。水を、水分を分子レベルで結びつけ、氷の状態に留めている)
『お前の力の本質は本当に氷か?』
(本質? 氷を生み出し操る力……氷とは、水を結びつけ、留め、る……)
閃きが脳裏に走った。
『なまじ天力なぞがあるからそんな無様な力押ししかできんのだ』
(黙れ)
白蓮は手の大きさが人一人分になる左腕を氷で作り、義朋を握り潰すように彼に向かって腕を伸ばした。その手の平に義朋は直に右手を合わせた。再び氷を内側から砕き崩す為だ。
「む?」
しかし氷の左手は砕けなかった。そればかりか義朋の右手が徐々に凍っていき、氷の中に留まっていく。義朋を潰す為に左手が閉じていく。
その反対側では義朋は蓮王の天術を右手で受け止めていた。今までのように分解できずにいる。
(二人同時か)
義朋は僅かに口角を上げ、二つの天術を受け止めることを止めた。
氷の手と水の乱流が衝突し、氷の破片と水飛沫が飛び散り、白い霧を生み出し、義朋の姿が隠れてしまう。
白蓮と蓮王は構わず、次の天術の準備に入った。
「少しは理解したようだな」
白い氷水の中から義朋の声、同時に水の手が伸び出てきた。まるで白蓮の天術に対する意趣返しのような術だった。
高速で迫ってきた水の手を二人は躱し、防ぎ、攻撃し、何度か凌ぐも、正確に追尾し、枝分かれして増える水の触手に捕まると、解くこと叶わず森の樹木よりも高く掲げられ、そこから地面に背中から叩きつけられた。
「がはっ!」「あがっ!」
意識が飛ぶような激痛の後に見た空には、水が拳を握っていて、容赦なく二人に撃鉄の如く振り下ろされた。
・
数秒の気絶。
白蓮たちは樹木を背にして地面に項垂れていた。
狭い視界が義朋を捉え、二人は立ち上がろうと力を込めるが、背中と胸部から下腹部にかけて強い痛みが走る。経験から、強い打撲と骨のヒビ、肋骨の骨折を認識。それでも歯を食いしばって立ち上がる。
「……っ!」
「まだ、まだ……!」
義朋の力を全く理解できておらず、見切り発車も甚だしいとは言え、二人は退く訳にはいかなかった。
「もういいだろう。力の差は十分に理解したはずだ」
義朋は二人を惜しく思っている。頭で理解しても、実行できないなんてことはざらだが、きっかけ一つ与えると、二人は自ら気づき、掴んで、実行してみせた。この実行できる決断と身体が才能の有無を分ける。義朋は二人を直々に育てようと考え始めていた。
同時に呆れてもいる。
「そもそも何故そんなに嫌がる。本妻は貴様らが決めろ、こちらが決めた女に子供を産ませろ。ただそれだけだ。妾も何人だって持っていい」
男なら本望だろう、と言わんばかりである。
それを、女好きと言われる蓮王が否定する。
「自由が、無いんだよね」
「力無き自由など隙きでしか無い。弱者が夢など見るな」
自由の名の下に風習の違う外の意見を取り入れ、同化し、伝統が消えてゆく。いつしか外が入ってきて共同し、一緒だからとより大きな力に従わされる。
力があってこその自由だ。義朋はそう強く思っている。
白蓮は激痛に顔を歪ませ、冷や汗を流した青い顔で、義朋にわかりきった事を問う。
「その女は、どうやって連れてくる? 出来た子供をどうするつもりだ」
「知れたこと。貴様がよく知っているはずだ」
「だから、抗うんだろうが!」
白蓮は歯を食いしばって立ち上がる。義朋に対峙する。自分が加害者側に回らないよう、自分と同じ子供を作らないように。
義朋が溜息の息を吸った時、最後の強者が現れる。
「全くだ。貴様こそ、この反逆の理由を知ってもなお、何故まだ考えを改めようとしない? 永瀬義朋」
主犯にして、創まりの三家の一つ、櫻守家の直系、櫻守正樹である。




