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19. 筑紫平野の養鶏場の卵の大人の女のプリン

今話のi2M (image instrumental Music) はこちら!


TVアニメ「弱虫ペダル」OSTより 沢田完

『田所スペシャルバーガー』

http://www.billboard-japan.com/goods/detail/462752

(ここから試聴してちょ)


ぜひ、すばらしいメロディを聴きながら、作品のイメージを膨らませて読んでくださいな。

19


 研究棟の駐車場に車を停めた一輝は、車外に出て、二つ並んだサイコロ型の建物を見上げた。


 初めて目にする自然研究所とNARDSF本部は思っていた以上に美麗な建物で、一輝は感動すると同時に、パジャマ姿のまま来てしまったことを大きく後悔した。けれども、後悔先に立たず。


 仕方なく、そのままの格好で芝生の間の階段を登りきった一輝は、手前の建物正面に『環境エネルギィ省研究本部 自然能力開発研究所』と書かれた金属製の自立サインを見つけ、ロビィに通じる自動ドアを二枚くぐった。


 ロビィに立った一輝は、しばらくの間、開放感のある空間を見回していると、エレベータから降りてきた研究所員らしき白衣姿の女性二人に姿を見られてしまった。考えてみれば、ここに来るまで誰にも会わずに済んだこと自体が奇跡的。一輝は、くすくすと笑いながらエントランスを出て行く二人を横目に、恥ずかしさをかき消しながら、ドアを閉めようとしているエレベータに駆け込んだ。


 恥ずかしさで顔が火照り、頰が熱くなっているのを感じた。でも、考えてみれば、テロ攻撃直後の厳戒態勢の中、パジャマ姿で入館した自分が制止もされず、身分を問いただされるわけでもなく、ただ見過ごされだけでも、なかなかのラッキーだったろう。そう自分を慰めた。


(でも待てよ……。こういう緩い体勢だから、あんな爆破犯が簡単に侵入できたんじゃないのかな……)

 当たり前に湧き上がる思考を、一輝は見て見ぬ振りをした。



 狭くて冷たい、金属製のパネルに覆われたエレベータの中で一息ついた一輝は、すぐに最上階である六階のボタンを押した。万が一会議室が見つけられなくても、上階から下っていけばいいと考えたからだ。


 エレベータを降りた先は、ロビィ同様清潔感あふれる簡潔な作りで、新しい建物特有の匂いがした。空調が程よく効いていて暖かい。エレベータホールの左右には、廊下に繋がる出口があり、ガラス戸が設けられていた。一輝は、それとなく左手側のドアを開けて通路に出た。


 建物内は、ロビィとは打って変わって質素で地味な作りだった。


 毛足の短いグレーの絨毯敷きの床。白い壁と天井。意図的に照度を落とし、温かみを持たせたオレンジ色の照明。廊下の右に目をやると、細長い通路の壁には、壁と同色の無機質なドアが等間隔で何枚も並んでいる。外観で見るよりも中はずっと広く感じた。研究所というよりは、どちらかというとオフィスビルのような作りだろうか。もちろん一輝は、生まれてこのかたオフィスビルに入ったこともなければ、見たこともない。ただの漠然としたイメージである。


 一輝は、リニアモーターカーのように宙を浮き打つ音も立てず通路を歩き、一通りのドアを見て回ったが、どのドアにも鍵がかかっていた。考えてみれば、軍の研究施設にある部屋に鍵がかけられているのは当然だったけれども、今探しているのは会議室。そこならきっと鍵はかかっていないはず。


 そう思い、部屋の探索を諦めた一輝はエレベータホールの出口まで引き返し、今度は反対側の通路を歩いた。すると、廊下の途中に、北側に向かって伸びる通路があることに気がついた。そちら側まで歩き通路を覗き込むと、今いる場所同様、質素なドアが並ぶだけの通路がまっすぐに伸びているだけだった。けれども、その通路のずっと奥、その正面に、開け放たれたドアの隙間から明るい照明の光が漏れ出している部屋を見つけた。


(あそこだ……!)


 一輝は絨毯敷きの廊下を早足で通り抜けて、暗い廊下に真っ白な光を差し出す部屋の前に立った。けれども、そこは一目見て会議室ではないことがわかる。


 廊下と比べて、照度の高い明るい部屋。床も壁も照明も、すべて真っ白。清潔感を飛び越えて、目がくらむほど眩しい部屋。その正面には、円弧を描くように湾曲した透明なガラス壁がこちらに向かって反り出すように張られている。その作りは、まるで水族館の巨大な水槽か、レコーディングスタジオを望むミキサールームのようにも見えた。


 そのガラス壁の手前には、湾曲に沿わせるように備え付けられた白い横長の変形テーブルと、大きな背もたれの白い椅子が二脚。ガラスの奥は、小さな部屋のようになっていて、奥には、円柱型の水槽のようなものが見えた。


 一輝は、見慣れぬ部屋の光景に唖然とし、ドーナツのように口を開け放ったまま、ゆっくりとサンダル履きの足を踏み入れた。室内に入って初めてわかったことは、天井が、廊下の空間より倍以上高いこと。照明も、多分十倍以上は明るいだろう。


 部屋の入り口からデスクまでの距離は十五メートルほどはあるだろうか。足音を立てないようにそちらに近づくと、デスクの上には、二枚のホログラムモニタが大きく照射されていた。大きな椅子の背もたれ越しにそのモニタを覗き込むと、そこには、見慣れぬ形の物体が、3Dで立体表示されて、くるくるとモニタ上で回転している。


 一輝は、もう一歩デスクに近づいて、今度はガラス壁の奥に目をやった。


 高さ十メートル、直径二メートルはあるであろう巨大なガラス製の円柱型装置。中には水が目一杯張られており、水中には、不気味な物体が浮遊していた。


 間違いない……。


 その物体は、総理官邸事件で突如現れた、謎の生命体。その、口と牙だった。


 一輝はその怪物を直接目にしたわけではないが、みつほから聞かされた怪物の姿かたちを現実化すれば、間違いなくこの物体になるだろうと確信できた。彼女の描写は、それだけ精細だった。


 次の瞬間、唖然とした一輝が目の前の水槽に見とれていると、左側の椅子から人間の声が突然あがった。


「んむ、葵か? 早かったな。私の要望通り、『筑紫平野の養鶏場の卵の大人の女のプリン』は売っていたのだな? まったく……、愚かなテロリストめが中央棟を爆破などするから、あそこの売店名物でありわたくしの大好物の、『筑紫産自然栽培野菜たっぷりお焼きパン』が食べられなくなっ……」


 白く大きな椅子がくるりとこちらを向き、一輝は、椅子に腰掛けている人間と目があった。


「わああ……!」一輝は思わず声を上げてしまった。


「む……! お前は一体誰なのだ!」相手は、見慣れぬ一輝の姿を見て声を上げ、怪訝そうに眉をひそめた。


(次回投稿は一週間後、2016年5月12日(木)。連続更新は、テキストに余裕が出来次第、順次スタートしていきます。原則としてはTwitterアカウントにおいてお知らせしますが、告知なく始める場合もございますのであらかじめご了承ください。)


※この物語はフィクションであり、実在する人物、法律、団体、名称とは一切関係ありません。


※当作品内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。すべての文章、画像等は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。

[ Copyright 2016 Koma Aoi. All rights reserved. Never reproduce or replicate without written permission. ]

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