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12. 脇坂の驚愕

今話のi2M (image instrumental Music) はこちら!


TVアニメ「終わりのセラフ」OSTより 澤野弘之

『pfSOTEad2』

https://www.youtube.com/watch?v=hZKsLOLQp84


ぜひ、すばらしいメロディを聴きながら、作品のイメージを膨らませて読んでくださいな。

12


 事件直後、何よりも究明を叫ばれたのは、謎の右派集団、断 末 魔(LAST GASP)の正体だった。


 彼らは、事前の犯行声明こそ出したものの、彼らの姿を見た者は誰一人としていなかった。多くの被害者は、もしかしたら彼らの姿を見たのかもしれないが、そのすべての人間たちは命を奪われ、既にこの世にはいない。事件後十年が過ぎても尚、信じがたいことではあるが、人数も、規模も、指示母体も、資金源も、手段さえもわからない謎の集団に、六十万人を越える無抵抗の人間たちが、たったの一時間で一人残らず虐殺されたことになる。


 凄惨極まる謎の殺戮事件は、瞬く間に世界中に広がり、あらゆるメディアで取り沙汰された。


「過去のあらゆる戦争を凌駕した、神をも恐れぬ残虐さ」と、事件を非難したメディアもあれば、中には、「国家の安全管理体制における脆弱さが露呈した三等国家」と、事件を未然に防ぐことのできなかった政府への批判を強める海外メディアもあった。


 当然、インターネット上でも、事件の真相や断 末 魔(LAST GASP)の正体について、多くの推理や推論が飛び交った。


 中でも、断 末 魔(LAST GASP)に対する意見は、革命会の仲間割れによる自滅や、外国勢力の陰謀説などが幅を利かせ、また、僅か一時間での大量虐殺における手段については、新型核兵器使用説や伝染病説、猛毒使用説、中には、怨霊説や宇宙人襲来説など、非科学的な妄想論まで飛び出す始末だった。


 しかしもちろん、どの説も根拠は薄く、真相に近づくようなものは皆無だった。


 事件についての調査は、政府主導によって、独立調査委員会や真相究明会議等が発足したが、結局、それらの実働部隊はすべて軍部であることは言うまでもなく、事件から十年が経過した今も、世間に公表されていることはたった一つ。あの大虐殺によって、宇宙真理革命会が壊滅し、ほぼすべてのメンバの死亡が確認されたということ。それだけだった。


 結局、その後の事件に関する調査も、既に数年前に、中途半端な状態で、人知れずひっそりと打ち切られて終了しており、真相は完全に闇に葬られたと言ってもよい。


 そして、理由も公にされず、政府によって突如として造られたあの巨大な黒壁は、未解決の闇を内包して静かに聳え、今も尚、黙して語らないままだった。



「隊長……」真剣な面持ちの永峰が、窓の外を見たまま黙り込んだ後醍醐に声をかけた。「結局、あの事件って……、何だったのでしょうか」


 四角く広い背中で永峰の言葉を受けとめた後醍醐は、かなり長い間、そのままの姿勢で外を見つめていたが、大きく低い鼻から蒸気機関のように息を漏らすと、「さあな」と低い声で呟いた。そして、松葉杖を上手に扱い、ベッドに向き直った。


「表向きは、謎の右派武装集団と左派と呼ばれていた革命会の衝突……、なんて言われているが、真相は誰にも分からん。無論、政府と軍部のトップ連中は、なにかを知っているのかもしれんが、俺たち雑兵には知る由もない、ということだ」


「ですよね……」脇坂が、薄ら笑いを浮かべて頷いた。


「俺が知る限り、当時の革命会は、単なる思想集団としてだけではなく、秘密裏には、一端の反政府組織として、かなりの勢いで構成員を着実に増やしていたとも聞く。もしもそれが本当だとするならば、つまり政府にとっても、彼らの存在が、無視できないくらい大きな組織になりつつあったのだろうな。なにせ、事件における革命会関係の死者だけで五十万人以上と言われているくらいだ。資金も潤沢で、人材も豊富……。表向きはただの思想集団だとしても、それだけの力をつけていたのには、なにか必ず裏があるはずだ。……だが、まあ、あの大虐殺を行った組織の正体はさておき、俺が未だに分からないのは、なぜ革命会があれ程までの残虐な弾圧、虐殺を受けなければいけなかったのか、ということだ」


「……それは、やはり、革命会の反政府組織としての活動が活発だったからではないのですか?」気づけば脇坂は、ベッドの上で上半身を起こしていた。怪我の具合は彼が一番軽かった。


「いや、違うな」永峰は何かを思い出すように、目線を上に動かしながら首を振った。「確か、陸軍が政府に提出した内部報告書には、革命会に明確な違法性は認められなかった……。そう書いてあったはずだろ。それに、革命会には、表立った暴動や過激行為、デモなどを行った形跡はない。つじつまが合わなくはないか?」


「……そう」後醍醐は頷いた。「革命会が、当時、あの壁の中で何を行っていたのかは、今となってはもうわからない。どれ程の規模の組織で、果たして本当に武力を持っていたのかどうかも定かではない。万が一武力を保持していたとしても、永峰が言うように、それを行使したことは一度も無かった。それが、客観的な事実だ。だからこそ、俺はわからないんだ。なぜ、ただの思想団体と言ってもよかった革命会が、あそこまでの攻撃を受け、完全な壊滅にまで至ったのか……」


「なるほど……」脇坂は小さく頷いて視線を落とした。「それは、確かにおかしいですね」


 狭くて消毒臭い病室内に、数秒間の重苦しい沈黙が染み渡った。


「私の記憶では、確か事件の後、国内のあらゆる左派集団に嫌疑がかけられましたよね」俯いて、思考を巡らせていた永峰が顔を上げた。


「ああ、そうだ」後醍醐は再び頷いた。「しかし、当然どこの組織も、事件への関与を否定した。まあ、証拠がないからな。まして、あんな気の狂った大量虐殺をやってのけるような武力と度胸を持った飛び抜けた左派組織が、ある訳はない。当然と言えば当然だろう」


 脇坂は、後醍醐が言い終えるのを待って仰々しくため息を吐くと、比較的包帯の量が少ない左手側で頭を掻いた。「あー、もう……! なんだかあの事件を思い出すと、すっごく胸焼けがしますね」


「だからやめろと言ったんだ」後醍醐は不満そうに眉間にしわを寄せて、項垂れる脇坂を一瞥した。


「すみません……」上目遣いで脇坂は謝った。


「まあいい」後醍醐は表情を緩めて息を漏らす。「いずれにしても、神崎があの時あの壁の中で何を見たのかはわからん。だが、あの時あいつに足を撃たれていなければ、今頃俺たちは、この世にはいなかったろうな」


「本当に……、そう思います」暗く沈んだ顔を俯けながら、脇坂は呟いた。


「だからよ、あいつにもらったこの命、あまり粗末には使いたくないものだな……。よっと」後醍醐はそう言うと、自分のベッドに近づいて、足側の端に重々しく腰掛けた。ベッドのフレームが苦しそうなぎゅうと音を立てて一瞬歪んだ。


「あの、隊長……」片手でメガネの位置を直した永峰が、弱々しく丸められたゴリラの背中に、遠慮がちな声を投げかけた。


「なんだ」ゴリラのような顔の半分を振り向かせる後醍醐。半分以上包帯に包まれている顔の中から、彫りの深い左目だけがギラついて光った。


「今更こんな事を聞くのはおかしいかもしれませんが……、隊長は、あの事件の首謀者は、一体誰だと考えていますか……?」


「それを、俺に言わせるのか?」


 後醍醐の動きが固まると同時に、空気が一切無くなったのではないかと思うような、息苦しい沈黙が張り詰めた。


 細めた片目で永峰を睨んでいた後醍醐は、ゆっくりと顔を正面に戻して、足元の壁を向く。


 永峰と脇坂は、息を潜めて後醍醐の答えを待った。


 しばらくの静寂の後、後醍醐はこれ以上にない低く小さい声で言った。



「軍部だ」



「……やはり、そう思われますか」永峰は、後醍醐の答えを想像していたのか、わざとらしく首を竦めて頷いた。


「それ以外に、どんな答えがある?」


「……いえ、ありません。私も同じ考えです」


「あんな大それたこと、政府と軍部が関わらずに、一体誰がやるっていうんだ」


「おっしゃる通りです」永峰は小さく頷いた。


 すると、驚愕に目を見開いた脇坂は、声を張り上げ身を乗り出した。「ちょっと! まさか二人とも、あの大虐殺を軍部がやったっていうんですか……?!」


「馬鹿野郎! 声がデカい!」後醍醐は壁を向いたまま脇坂をたしなめると、怒鳴り声を潜めて凄んだ。「廊下に聞こえるだろうが」


「ここ、一応、軍立病院……」永峰は口を斜めにして脇坂を横目で一瞥した。


 脇坂は、しまったと言いたげな表情で、ゆっくりと口を閉じて黙りこくった。「そうでした……、すみません」


 後醍醐の小さな舌打ちが聞こえた後、永峰は小さな声で再び尋ねた。「しかし、一体どうやってあんな大虐殺を短時間で……」


「それは、俺なんぞにはわからん。もとよりまともな証拠がない。だが、俺の直感はそう言っている。恐らく間違いないだろう。なにより、事件後の状況がそれを物語っている」


「y3……、ですか」


「ああ、そうだ。確かにあの大虐殺によって、宇宙真理革命会は壊滅した。だが、あれ程までに残虐な弾圧を受けて壊滅したはずの革命会が、なぜか名前と名義をすげ替えて、平和を唱えるおかしなカルト教団に成り代わった。しかも、政府公認で……、だぞ。この流れ、おかしいと思わないか? 思わないほうがおかしいだろうが」


「明らかにおかしいですね」永峰は苦笑しながら頷いた。


「ちょっと待ってくださいよ……」脇坂は、今にも泣き出しそうな半べその顔で頓狂な声を出して、二人の顔を交互に見た。「y3って、元は革命会だったんですか?」


 脇坂の飄々とした表情に、後醍醐と永峰の二人は唖然として顔を見合わせ、苦しげに顔をしかめた。


「お前……、まさか知らないのか……?」永峰は咎めるような鋭い視線を脇坂に送った。


「y3っていう変わった名前の宗教団体が最近、色々なところで問題を起こしているのは知ってるけど、あの組織が元々革命会だったなんて初耳だって」


「マジかよ、お前……」永峰は呆れ顔で肩を竦めた。「宇宙真理革命会の一部を英語に直訳してみろよ」


「verity revolutionary society」脇坂は即答した。


「じゃあ、その末尾の三つのYを合わせたら?」


「あ……」脇坂は口を丸く開けて呟いた。


「だからy3。確かに世間的には公に知られていないが、NARDSFの隊員ならそれくらい知っておくべきだろ」


「へえ、知らなかった……。そりゃあおかしいね」脇坂は、口をへの字に曲げて得意げに言い放った。


 そんな脇坂に対して小さくため息をついた永峰は、険しい顔の後醍醐に視線を移して、話を続けた。「つまり隊長は、政府と軍部が何かしらの目的や意図があって革命会を壊滅に追いやり、残された外枠だけを宗教団体化して利用している……、と?」


「そうだ」後醍醐は戦国時代の武者のように、鋭く彫りの深い(まなこ)を光らせた。「y3は、設立からたったの十年で大勢の信者を獲得して、今や国内最大の宗教団体になりつつある。つい先月も、信者からかき集めたお布施を資金にした政治家への贈賄事件も明るみになって、メディアに取り沙汰されたばかりだ。選挙の組織票を餌に政権与党へ擦り寄り、政界への影響力まで持ち始めているとも聞く。中には、もっと黒い、信じられないような不正にも手をつけてるなんていうきな臭い噂もあるくらいだ。政教分離もくそもあったものじゃない」


「確かに、政権与党とy3の関係は、一部メディアでは問題視されてますね。でも、多くの主要メディアはそれを一切取り上げようとしない……。それに、麻薬や覚せい剤、法律で禁止されている武器や兵器の製造、輸出入、開発、流通、販売。そこから得た資金のロンダリング行為。他教団への脅迫行為。マスメディアへの圧力。反社会勢力団体との蜜月関係。殺人、誘拐、人身売買、信者への洗脳疑惑……。団体に関する黒い噂は挙げればキリがない」永峰が付け加える。


「なあ、それってさ……」しばらくの間黙って話を聞いていた脇坂は、口をすぼめて永峰に向かって言った。「元の革命会よりも超絶危険な集団なんじゃ……」


「そういうことだ」永峰はきっぱりと言う。


「ということは、政府は、元々それが目的で根源的 大虐殺(ソウルジェノサイド)を?」脇坂は、話の全容が見えてきたのか、半信半疑ながらも、いつものにやついた表情に戻りつつあった。


「飽くまでも推測の域を出ないけどな」永峰は真顔で返す。


「政府がなぜ革命会をターゲットにしたのかはよくわからん」後醍醐も答えた。「だが、恐らく間違いないと俺は思っている。それが確信に変わったのは、今回の官邸占拠事件だ」


「今回の事件が……、ですか」気付けば永峰は、かけていたメガネを外して、苦しげに目を瞑り、鼻根をマッサージしながら話を聞いていた。


「俺たちを襲った、あの気持ちの悪い怪物。あれは一体何なんだ?」


「何って……」脇坂は口ごもる。


「ニーナ司令も言っていたように、バイオモンスタ……、生物兵器、ですか?」永峰が答える。


「そうだ」


「でも、だからって、それがどうしたんですか?」脇坂はとぼけた顔で聞き返す。


「お前なあ……、いい加減少しは自分でも考える癖をつけろよ」後醍醐は呆れ返った様子で天井を仰ぎ、湿った口調で言った。


「いやあ、すんませんホント。こういう真面目な話、どうも苦手で……、あはは」言われた脇坂は、返す言葉もなく、笑って誤魔化した。


「そういえば、生物兵器って、確か国際条約で開発と使用が禁止されているはずではなかったですか?」永峰は、変わらずしかつめらしい顔で質問を続けた。


「あんな条約、表向きだけでなんの効力もない。飾り物もいいところだ。生物兵器の研究や開発は、今や、世界中の国でされてるらしいじゃねえか。俺たちのこの国も、例外ではないだろうな」


「まさかあ……」脇坂は唖然として口を開け放った。


「お前が信じようが信じなかろうが、あれは間違いなく生物兵器だ。そして、今この国で、あんな化け物を作り出せるカネや技術があるのはどこのどいつだ? 政府と軍部、y3を置いて他にはないだろうが」後醍醐は脇坂を一瞥する。


「なるほど……、確かに」脇坂は、わかっているのかどうかも怪しいそぶりで、それとなく頷いてみせた。


「ということは、隊長は、まさか政府があの時私たちを……?」永峰は、冷静な表情の中に、微かな焦りを滲ませた。


「あまり信じたくはねえが、そう考えるのが妥当っつうもんだろうが」後醍醐は、低い声で言った。


「あー、なんだか、僕、頭痛くなってきましたわ……」脇坂は大げさに頭を抱えて、冗談ぽく顔をしかめた。


 その時、廊下から病室に近づいてくる気配を感じた。


「なんだ、もう昼飯か?」後醍醐は目を見開いて言った。


「いやいや、もう昼ごはんさっき終わりましたし……」永峰が口を曲げて苦笑する。


 ドアをノックし部屋に入ってきたのは、一人のスーツ姿の男だった。


 その男の手には、大人しめな配色の花束と、それとは正反対に、眩しいくらい色とりどりのかご盛りフルーツ。絵に描いたような、典型的なお見舞い姿だった。


 多少の警戒の色を示していた三人は、相手の様子を見てから、警戒の縄を解いた。そして、こちらをまじまじと見る男の顔を凝視した。名前は分からない。顔も見た事がない。


 男は、深々と頭を下げて一礼した後、粘りのある低い声で「謝りに来た」と告げた。


 後醍醐は、その声を聞いて思い出した。 


 その男は、総理官邸事件でSATの指揮を取っていた隊長だった。

本日2016年4月24日(日曜日)から4月30日(土曜日)までの7日間、当作品の連続更新を行います。無告知ですみません。次回投稿は明日25日です!よろしくお願いします!


※この物語はフィクションであり、実在する人物、法律、団体、名称とは一切関係ありません。


※当作品内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。すべての文章、画像等は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。

[ Copyright 2016 Koma Aoi. All rights reserved. Never reproduce or replicate without written permission. ]

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