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11. 神崎カケル

今話のi2M (image instrumental Music) はこちら!


TVアニメ「進撃の巨人」OSTより 澤野弘之

『XL-TT』

https://www.youtube.com/watch?v=BUJwcnkAVKQ


ぜひ、すばらしいメロディを聴きながら、作品のイメージを膨らませて読んでくださいな。

11


 後醍醐は目を閉じたまま、耳元で囁く睡魔を振り払いながら、思考の海と記憶の溝に、深く深く入り込んでいく。

 すると、いつも決まって頭の中に蘇る、神崎カケルの怒号が、今日も変わらず、鮮明に蘇る。



『あなた達は、ここには来てはいけない!』



 彼は、根源的 大虐殺(ソウルジェノサイド)が起こった前の年、NARDSFに配属されたばかりの、一年めの新入隊員だった。


 

 燃え盛る壁の中に突入しようとした時、あいつは豹変し、叫んだ。

 狂気じみた声だった。

 鬼の形相とは、まさにあの時の、あいつの表情だったのかもしれない。

 朱色の炎に包まれ、壁の奥底で崩れ落ちる街並み。

 照らされた神崎の顔は、地獄の業火にやかれる前の鬼だった。

 初春なのに、顔が焼け、汗が滴り落ちるくらい暑かった。

 はち切れんばかりに泣き叫ぶ子供達の声。

 近隣住民の絶叫。

 血の焼ける匂い。 

 人間の焦げる匂い。

 阿鼻叫喚。

 地獄絵図。

 どれだけの言葉をあてがおうと、あの状況は筆舌に尽くしがたい。

 それだけ酷かった……。


 

 そして、その後、鳴り響いた無数の銃声。


 激痛……。


 神崎は、仲間である後醍醐らを足止めするために両足を撃ち抜き、たった一人、壁の中に消えていき、二度とは帰らぬ者となった。


 

 後日、神崎の遺体を回収した隊員たちの間では、彼の死に顔にまつわる話が絶えなかったという。風の噂でそう聞いた。


 死に必要なすべてさえもが抜け落ちた、まるで腑抜けた蝋人形のようだったという者。


 肉体だけでなく、魂までもが壊されたような、固まった顔つきだったという者。


 脳裏に生涯こびり付くような、この世に現存するどの種の恐怖よりも悍ましい様相だったという者。


 語種は種々様々、多岐に渡った。


 しかし、それらの話から推察するに、彼を襲った最期の時が、誰にも想像することのできない常軌を逸したものであったことだけは間違いない。そう、後醍醐は確信していた。



 根源的 大虐殺(ソウルジェノサイド)という名は、公的に付けられたものではない。


 あの事件に関わり、巻き込まれ、事後の現場の壮絶なる凄惨さを目の当たりにした人間たちが、口々に語るようになっただけもので、いつしかそれが広がり、一般的にそう呼ばれるようになっただけのことだった。しかし、誤解を恐れず言うのなら、神崎の死に顔にまつわる話からもわかるように、死者の魂をも根底から焼き尽くした人類史上最悪の虐殺事件は、確かに、そう呼ばれるにはふさわしいのかもしれない。


 もちろん、後醍醐の頭にも、あの時見たもの、嗅いだ臭い、感じた恐怖。すべてが何もかも、黒ずんで劣化したタール液のように、鮮明にこびりついていた。そして、あの黒壁の中には、恐らくそのすべての人々の記憶を合わせ混ぜたものよりも更に凄惨で、目を覆いたくなるような血みどろの事実が、今でもきっと封じ込められているのだろう。あの壁の漆黒は、この国の歴史に、負の楔となって打ち付けられたものの、歪な意思を象徴しているのかもしれない。



 後醍醐は、人一倍大きな肺に、消毒くさい空気を思い切り取り込み、しばらく息を止めた後、ゆっくりと吐き出し、目を見開いた。


「仲間に銃撃されたのは、後にも先にもあの時だけだ……」


 乾いた声で笑った後醍醐は、包帯だらけの大きな体躯を億劫そうに起こし、ベッド脇の松葉杖を手に取った。具に全身を襲う激痛にしかめっ面で耐えつつ、ベッドに腰掛けてから、杖に体重を預けながら立ち上がる。そして、神妙な面持ちで窓際まで近づいた。


 それと同時に、視界に入り込んでくる、巨大な黒壁。


 脇坂と永峰の二人は、ガラス窓に移った後醍醐の顔を見つめるように顔を起こした。


 

 根源的 大虐殺(ソウルジェノサイド)が発生したのは、今から約十年前の二○八九年三月二十日。突如、『断 末 魔(LAST GASP)』(通称LG)を名乗る謎の極右派集団から、宇宙真理革命会への殺害予告が出たのが、前日の十九日未明のことである。


 直後、当時まだ設立から五年程のNARDSFに与えらた緊急任務は、壁の内側にいるすべての人間の救出というアバウトなものだった。


 NARDSFにとって、根源的大虐殺(ソウルジェノサイド)は、設立以来初の大きな任務となったわけだが、結局、後醍醐(当時二十九歳)らは、初の大役にも関わらず、誰一人として救出できなかったどころか、仲間の隊員から銃撃を受けて負傷するという醜態を晒したのである。


 しかし、それも無理はない。


 事件当時、NARDSFに加え、国防陸軍、警察組織、救急など、国家のあらゆる組織が総動員され、あらゆる手を尽くして事態の収拾に乗り出した。しかし、予告後すぐに燃え上がった殺戮の火の手の回りはあまりにも早く、誰にも抑えることが出来なかったのだ。平穏な思想集団を急襲した謎の殺意は、それ程までに熾烈な勢いであり、今思えば、新設間もないNARDSFに、阻止する術などはありもしなかっただろう。


 予告が出されたのは、正午。断末魔(LAST GASP)による革命会への攻撃が開始されたと思われる時刻は十三時である。つまり、犯行声明がなされた直後、あらゆる組織が最速で防衛と保護に動いたことは言うまでもないが、断末魔(LAST GASP)の攻撃開始には間に合わなかったのだ。そして、後醍醐を含めるNARDSFもその例外ではない。


 その後、事件を調査した政府と軍部の発表によれば、攻撃開始から僅か一時間という短い間に、壁の外、エリア近隣住民の被害者を含めれば、実に六十万の人々が命を奪われたという。


 そうして、史上最悪の虐殺事件は、あまりにもあっけなく幕を閉じた。

(次回投稿は一週間後、2016年4月28日木曜日。連続更新再開の予定は未定です。テキストに余裕ができきた場合、原則としてTwitterアカウントにおいてお知らせしますが、告知なく始める場合もございます。あらかじめご了承ください。)


※この物語はフィクションであり、実在する人物、法律、団体、名称とは一切関係ありません。


※当作品内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。すべての文章、画像等は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。

[ Copyright 2016 Koma Aoi. All rights reserved. Never reproduce or replicate without written permission. ]

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