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24. 最期

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24


「なにやってんねん、早よせえや!」守が耳元でがなりたてる。


「相変わらず守るはうるっせえんだよな! 集中してんだから黙っとけ!」平太も負けじと声を荒げる。「第一、ブレード一本分のエネルギィをチャージし切るのに、こんなに時間がかかるなんて聞いてねえぞ……」

 平太は、ぎこちない手つきで、両手に掴んだ銃のグリップをクロスさせた。

 すると、さっきまで点灯していた銃本体の赤いLEDが消灯し、アップデートの終わりを告げた。

 平太は今、二本のブレードの残エネルギィをエミリの銃にチャージし終え、最後に残った自分の銃を接続し終えたところだった。


 部屋の外からは、相変わらずの咆哮と激しい銃声。怪物の踏み鳴らす振動。


 アップデートが終了してから、既に十分以上の時間が経過していた。


 逃げ込んだ会議室には、誰の姿も無い。否、部屋のどこかにエミリがいるのかもしれないが、光学迷彩を維持している彼女の姿は、見事なまでに、薄闇の中に溶け込み消えていた。


 エミリが平太に告げた最後の作戦は、実に単純明快だった。  



『私がもう一度花を咲かせて、あいつを凍らせる。そこをあなたが撃って』



 そう言い残し、エミリは姿を消した。

「くっそお、早くしろよ……!」平太は苛立ちを露わにして地団駄を踏んだ。

「焦んなや」

「うるせえ、安全なところから偉そうに」平太は唾を飛ばして悪態を吐く。

 逆さに構えた二つの銃のグリップを握り、コネクタを接続している。片側の銃の、緑色のインジケータが減るにつれ、もう片一方のインジケータが少しずつ増えていく。しかし、そのスピードは、ミドリガメくらいに遅かった。

「接続したら一発でチャージできるようにしとけっつうんだよ。ここは江戸時代か」小声で不満を募る平太。

「なにが江戸時代や、どアホ!デジタルスイッチやないねんから、そんな簡単に都合よくできるか。テクノロジィっていうのは、日進月歩。使う側の都合だけではよう作れんのや」荒田は唾を飛ばしながら答える。


 次の瞬間、平太の耳元に、ゴリラが息切れをしたような耳障りな声が響く


「おい、大鎚……、まだかあ……、いい加減に早くしろ……」





 NARDの三人は、既に、目眩がするほどに疲弊していた。


 初春の空気に冷やされた、寒々しい官邸の中で大粒の汗をかき、全身で呼吸し、虚ろな目で怪物を見据えている。しかし、さすがの怪物も、暴れ過ぎで疲労したのか、一時停止のように動きを止めて、石像のように佇んでいた。 

 永峰は、その隙を見て、咄嗟にピンを抜いた手榴弾を、怪物の頭部にある大きな口をめがけて勢いよく投げ込んだ。


 数秒して口の中で響く、篭った爆音。

 それと同時に、一瞬、怪物の全身がびくっと痙攣した。

 口が開き、溢れ出るヘドロのような体液と白煙。

 しかし、一切、効果はないようだ。

 永峰は憎らしげに顔を歪めて舌打ちした。「万策尽きたか」


「こちらも全弾、撃ち尽くしたよ」脇坂は息を整えながら、口を斜めにして同意し、銃を床に放り投げた。「床に転がってる、SATの武器を使うってのはどう?」

「もう無意味だろ……、どれだけ撃っても、常識的な武器じゃ通用しない」永峰は、焦りの表情を浮かべて脇坂を一瞥。彼もまた、抱えていたサブマシンガンを放り投げた。


 静まり返ったホールにがちゃりと響く、金属と床のぶつかりあう冷たい音は、今の彼らの、憔悴し切った心境を表しているようだった。


 怪物は、僅かに体をこちらに向けたものの、やはりまったく動かない。


「おい、お前ら。同じことを何度も言わせるんじゃねえ」後醍醐は苦しげだが、顔は微かに笑っていた。「諦めるな! それから、血税で維持してる武器を粗末に扱うな」


 深夜の総理官邸に、後醍醐の大声が響きわたる。


「すみません……」二人の隊員は、重い頭を下げて頷きはするものの、その表情には、突入当初の力は感じられなかった。


「こいつはきっと、俺たちに休憩時間を与えくれてるんだ。感謝しようぜ」後醍醐は片手で額の汗をぬぐいながら言った。「あと少しでこいつとはオサラバできる……。帰って早く、あったけえ布団で眠りてもんだな」


 不協和音のように絡み合っていた三人の吐息が徐々に落ち着きを取り戻し、一定の心拍リズムに戻っていく。


 その時、怪物の全身が小刻みに震えだした。


「もしかして、倒した……?」脇坂が、気安い希望を口にした。

「だといいがな……」ニヤつく後醍醐。


 全身を不気味に上下させてながら、壊れたからくりロボットのように震え続ける怪物。やがて、全身に開いた不気味な口が、意思を与えられた生命体のように、ゴムのような伸びのある皮膚を引き千切るようにして、一斉に体外に解き放たれた。


 千切られた表皮は、伸ばしたゴムが元の形に戻るように、バチンという破裂音と共に身体を目掛けて収縮していく。ボトボトと不快な音を立てて床に転げ落ちた新たな口の幼生たちは、ノコギリのように生え揃った鋭利な歯を剥き出しにして、獲物に狙いを定めるようにこちらを向いた。口の中は真紅に染まり、深淵には、絶対的な絶望を感じさせる漆黒の闇が待ち構えていた。


 人間の頭ほどの大きさをしたその口の化け物たちは、やがて、本体から離れる時にこそぎ取ったわずかな肉塊をぶくぶくと膨張させて、みるみるうちに大きくなった。床から糸を引く粘着質の体液を引きずりながら、むっくりと起き上がる口の怪物たち。その姿は、目玉のない不気味な深海魚が、頭だけで地上に迷い出てきたように見える。


 その数、三十は下らない。


 自ら生み出した分身が自立したところで、怪物本体も、身体を起こして体制を整えた。


「マジかよ……」永峰は、恐怖と疲労を通り越して、もはや呆れ笑いを浮かべていた。


「分裂しやがった……」後醍醐は、予想もしない展開に息を飲む。もはや笑う余裕もない。そう言いたげな顔だ。


「悪夢っていうのは、このことか」永峰は呟いた。


「悪い夢なら早く覚めてほしいな……」動揺した脇坂の額には、玉のような汗がびっしりと浮かんでいるのが見える。


 直後、濃緑の粘液にじっとりと濡れた口の化け物は、飛びかかるように、一斉に三人に襲い掛かった。





「チャージ終わった!」

 叫んだ平太は、脱兎のごとく駆け出し、転がるように部屋を飛び出た。ホールに出ると同時に、片膝を支柱にして屈み込み、エネルギィチャージを終えたレーザ銃を素早く構える。


 しかし、次の瞬間平太は、辺りの変わりように唖然とした。


 怪物の一部だったはずの不気味な口が、(ひる)かピラニアの様な鋭い牙で後醍醐たちに食らいついていた。


 全身から血を流し、深く突き刺さった無数の牙に口に絶叫を上げる三人。床にじっとりと溜まった粘液の海に倒れこみ、その中をかき分けるようにのたうち回っている。次第に、粘液の中に赤い血液が滲んで、海はどす黒く染まっていく。


 予想外の出来事に、目を見開き硬直する平太。恐怖に竦んで動けない。


 すると、構えた銃の各パーツが、寄木造りの秘密箱のように勝手に動き出した。硬質な金属音と共に、形を変えていくレーザ銃。さっきまで、サブマシンガンに似せた形状だった銃は、わずか数秒で、細長い銃身を備えたライフル型に変形した。


 平太は、目の前の惨状と手元の変化の気を取られたまま、身動きが取れないままでいる。


「なにしてんねん!」荒田の怒号が耳に突き刺さる。「早よ撃てや!」


「大鎚くん、撃って!」ニーナの声も後に続いた。


 後醍醐たちの激しい呻きは、次第に激しくなって、辺りに響き渡る。


 広がる血臭。

 無数のノコギリ歯が、肉を切り裂き、骨を砕く、不愉快な音。


「こ、こっちだ!」平太は相手の意識を自分に向ける為に声を上げ、とっさにフードを脱ぎ去った。それと同時に、薄暗いホールに、ボディスーツを着込んだ平太のずんぐり体型が浮かび上がる。


 怪物本体は、すぐさま平太の姿を認めると、間髪入れずに猛然と襲いかかった。

 一歩、二歩、三歩。

 激しい振動。

 巨体の迫り来る恐怖。

 大きな足で冷たい床を踏み込み、宙を舞う怪物。

 全身に伝わる鈍重な振動。

 平太の目前で四歩めを大きく踏み切った怪物は、宙を飛びながら、巨大な腕を振り上げた。


「平太!」

「大鎚くん!」

 荒田とニーナの声が、耳をつんざく。しかし、悲痛な叫びは、もはや極限状態の平太には届いていなかった。


 風を切り、平太めがけて迫り来る岩石のような拳。

 反射的に目を閉じる平太。動けない。



「咲いて、私の花……」



 瞬間、

 分厚いガラスが砕けるような鈍い音……。

 顔をかすめる鋭い冷気。

 恐々と、薄っすら目を開ける。

 目の前には、南海のコバルトブルーをそのまま凍らせたような、清々しい紺碧の氷壁。

 その先に見えるのは、深々とめり込んだ巨大な拳。

 放射状に広がる、蜘蛛の巣のようなヒビ割れ。

 目の前には、フードを脱ぎ去り、姿を表したエミリの姿。

 その背中には、揚々と花弁を満開にさせた……、氷の紫陽花が咲き誇るように。



極 寒 の 冷 笑アークティック・ハイドランジア




「エ、エミリ……!」半泣きの平太は、紫陽花に向かって歓喜の声を投げかけたが、彼女は振り向きもしなければ、反応もない。声が届いたかどうかも定かではなかった。


 エミリは無言のまま両手をゆっくり上げ、地面と水平になった所でぴたっと動きを止め、その場でくるりと優雅に一回転。鱗粉のような碧の光が周囲に舞った。


 それと同時に、氷の紫陽花はぐんぐんとその花勢を伸ばし、待機中の血脈、水脈をただるよう根のように、枝はみるみる徒長していく。ドーム状の可憐な花々は、淡い光を放ちながら、さらに満開していく。初めは弱々しかった光が、今では、ホール全体を神々しく照らすほどの光の洪水に変わっていた。


 片手を氷壁に取られた怪物は、腕を伸ばしきった姿勢のまま生きた片腕を床につき、今度は背後に立つエミリに向かって足を伸ばして猛然と蹴り飛ばそうと試みる。しかし、それを見越したかのように、エミリの真横にも小さな盾のような氷壁が現れ、攻撃を完全にシャットアウトした。


 巨大なハンマーのような足先は、腹の底に響く鈍い音を立てて氷壁に突き刺さった。けれども氷壁には、ほんの微かにヒビが入っただけ。びくともしない。それどころか、突き刺さった怪物の足先を瞬時に凍りつかせ、触手のように伸びる冷気の渦が、パキパキと乾いた音を立てながら足首まで凍結させて絡め取った。


 片手と片足を、堅牢かつ煌びやかな氷の壁に囚われた怪物は、悔しげな叫びを上げ、残った手足と全身を激しく動かし逃れようとする。しかし、捉えた獲物がどれだけ暴れもがこうと、二枚の氷壁は崩れることなく、宙に佇んだまま。その様子まるで、意思のある生き物のようで、主の瞳のように冷淡だった。


 背筋が凍るとは、こういうことを言うのか……。


 正気を取り戻した平太は、ようやく周囲が縮みあがるような冷気に包囲包されていることを感じ取った。吸い込む息は、鼻腔を凍らせ、気道を冷やし、そのまま肺の奥底まで到達する。冷気のせいで、身体の中に、肺が二つ存在しているのを感じてしまう。それくらいに尖った冷気。胸が痛い……。


「ごほっうぇ……!」平太は、肺の奥の冷気を吐き出すように何度も咳をした。

 そんな平太を他所に、エミリは、声にならない吐息のような声を口にした。否、果たしてその声の主がエミリなのかどうかさえ分からない。



紺 碧 の 氷 冷(コールド・ブルー)



 次の瞬間、周囲の大気は凝縮を始め、一挙に冷え込み張り詰めた。

 部屋に充満する空気そのものが、怪物に向かって急速に圧縮され、不可解な重力に引きずられるように凝縮されていく感覚。


 空間は、ミストのような細かい氷の粒で充満。氷のミストは窓から差し込む月光に照らされ、粉雪かダイアモンドダストのように煌びやかに反射する。


 つい数秒前まで地獄のようだったホールが、瞬時に、幻想的な景色に入れ替わった。


 限りなく透明に近いブルーが、空間を染め上げる。


 この場だけが、いつしか冬に逆戻りしたような……。


 官邸にいたはずが、雪深い山にぽつねんと取り残されたような……。


 そんな感覚。そんな景色。


 幻想的……。


 一瞬、そんな言葉を頭に浮かべた平太は、濡れたの子犬のように頭をぶるっと降って、顔にまとわりつく結晶を払いのける。寒気もあったかもしれないが、どちらかというと、感動と武者震いに近いものだったかもしれない。


 ふんわりと浮遊していた結晶が、次第に、意思を与えられた蛍のように動き出し、後醍醐らに食いついた牙の化け物めがけて集約していく。


 碧の結晶が、不気味な牙の肉塊に、パウダーシュガーのように降り積もる。


 気の利いた洋菓子のように、碧くデコレーションされていく肉塊。雪は、溶ける様子を一切見せない。


 寧ろ、次第に溶け出したのは、化け物のほうだった。


 冷気に生気を吸い上げられるように、結晶との接触部からじわじわと水溶化していく牙の化け物。晴れた日の雪だるまのように溶け、あっという間に消滅していく。


 碧の氷の結晶は、怪物の緑と、人間の血色にうっすら染まった。


 グロテスクな光景であり、戦場に立っているはずなのに、我を忘れて見とれてしまう平太。


「今! 早く撃って!」


 はっきりとしたエミリの声が、呆然とした平太の幻想を打ち破った。

 我に返った平太は、氷に囚われ暴れ狂う怪物を横目に、目の前の氷壁の右沿いに駆け出す。

 怪物は、既に全身のほとんどを氷に覆われていた。残すは手先、足先、頭のみ。

 大きな氷壁をようやく越えた平太は、怪物を正面に見据え、右真横に飛び出た。

 視界の端で、エミリが力ない様子で床に崩れ落ちていくのが見えた。

 ほんの数枚、薄氷の花弁が舞い散ったのが視界に入る。

 残ったのは自分だけ。次はない。


「これで終わりだああああ!!」

 悶える怪物の腹わためがけて銃口を構えた平太は、寒さで感覚を失った両手と指先に全身全霊を注ぎ込む。


 相手は真正面。スコープは必要ない。

 このまま撃つ!

 右手人差し指の腹が、かすかにトリガに触れた。

 引く。

 狭苦しい銃本体に圧縮された膨大なレーザエネルギィが、一気に放出。

 否、暴発と言ってもいいくらいの勢いで、狭い銃口を押し開けるように飛び出した。

 予想外の大きな衝撃。


 横っ飛びで身体を半分宙に浮かしていた平太は、その勢いで後方に吹き飛ばされた。

 野太く白けたエメラルドグリーンの閃光が、浮遊する氷結晶の中を切り裂くように駆け抜ける。しかし、残された最後の一閃は、標的のわずかに上をかすめ、上階との境の天井に大穴を開けて、夜空の彼方に虚しく飛び去った。


「やっちまった……」(馬鹿か……、オレ……)


 自分のしでかした大ミスに唖然としながら宙を浮く平太は、全体重を乗せて、右半身から床に崩れ落ちる。目の前の景色がスローモーションのようにゆっくりと動く。


 全身に響く衝撃とかすかな痛み。

 耳元には、訛りの強い怒号と吐息。

 幸い、既に全身を氷結した怪物本体は、完全な氷の彫刻と化していた。


「まだ生きとるで!」荒田の叫び声が聞こえる。


「やっぱりダメだあ……、オレ」床に寝そべったままの平太は、開き直って大の字に手足を伸ばした。


 冷たく暗い天井が、無情にこちらを見下ろしていた。


「平太、撃て!」

(撃てって言ったって、もうなにも残ってねえよ……。オレ、死んだわ……。母ちゃん、ごめん……)


 心の中で呟いた。


「おい! バカ平太! お前しかおらへんのや! 諦めんなや! いてまうぞこらああ!」再び守の声。


 平太は力なく首を伸ばして、視線をエミリに移した。

 彼女は全く動く気配がない。爛々(らんらん)と咲いていたはずの紫陽花も、花弁をしぼめ、枝を縮め、少しずつ輝きを失っているようだった。少し離れた後醍醐たちも、死んだように微動だにしない。


 周囲には溶けて出したシャーベットのように、どろりと崩れ落ちた無数の小さな怪物たち。

 静まり返った空間。

 真っ白な霜の名残に覆われたフロア。

 元の闇が再び侵食を開始した、暗がりの官邸。

 月が空の真上に昇りきったのか、差し込んでいた月光も、今は勢力を失っている。

 氷漬けになった怪物の足と床の隙間から見える会議室の入り口には、寒さと恐怖で小刻みに震えるカメラのレンズだけが突き出ているのが見えた。


 平太は、もう一度氷漬けの化け物に目をやった。そして、自分の目を疑う。


 完全に氷結したはずの怪物が、微かだが動いている。


 腕と足を伸ばしたまま、二枚の氷壁に囚われた氷の彫刻が、振動している。


(まずい……!)


 平太は、やる気の失せた上半身を面倒くさそうにむっくりと起こして、凝らした目で怪物を凝視する。


 氷の表面に、僅かだがヒビが入った。

 頑丈な氷塊の奥から、大きな口と牙が、こちらを睨んでいた。

 平太は咄嗟に立ち上がり、腰のホルダからハンドガンを取り出し構える。

 インフィニティ カスタム45 リミテッドのマットブラックが、濡れた光で暗闇を舐める。

 平太は迷わずに、けれどもどこか諦め調子の顔で速射。ブローバックの振動が肩まで響き、痛かった。


 しかし、分厚い氷を崩せるわけもなく、氷塊にめり込むだけの弾丸。硝煙の匂いが鼻まで上がり、耳に残る虚しい銃声の残響。


 動き出そうと、必死に振動する氷漬けの怪物。


 氷の表面に入った微かなヒビは、振動するにつれてどんどん大きく、広くなっていく。


「ちきしょおおお!!」平太は、銃口を向けたまま顔を上げて叫んだ。「オレ、まだ死にたくねえよおおおおお!!」


 平太は、初めて自分の死を感じ、涙した。


 恐怖に全身が震えていた。 


 氷を突き破り、怪物の不気味な頭が、姿を表した。


 にやりと笑っているように見えた。


 次の瞬間、視界の向こう側から、大きな爆発音とともに何かが撃ち放たれた。


 空気を切り裂く鋭い衝撃波。


 火炎を伴ったオレンジ色の閃光。


 突然の爆音に驚いた平太は、両腕をかざして顔を塞ぐ。


 ゴロゴロとした、なにかが崩れ落ちる音。


 平太は掲げた腕を解いて、目を見張った。


 床に散らばる、粉々の氷片。その中に見える、ほんの数秒前まで怪物だったはずの肉塊。


 巨大な怪物の氷像は、氷壁に囚われたままの片手と片足だけを残し、その場で崩壊した。


 一瞬の出来事に、平太は声も出せなかった。


 視線を床からゆっくりと上げ、爆音の聞こえた先に目をやった。


 ねっとりとした暗闇の中に立っていたのは、ロケットランチャを構えた神代達也だった。


 達也は、胸元から血を流し、激しく震えながら、青ざめた顔でこちらを見ている。否、その虚ろな目は、恐らくなにも見えていないだろう。直後、達也は、力ない微笑を浮かべると同時に、言葉も発せず、そのまま蝋人形のように硬直してその場に倒れ込んだ。



「たつやああああ!!」

 平太の、涙交じりの絶叫だけが、冷たい空間に虚しく響いた。

※この物語はフィクションであり、実在する人物、法律、団体、名称とは一切関係ありません。


※当作品内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。すべての文章、画像等は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。

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