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21. 土門陸将

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21


「伊達さん!」夢野さくらは、教卓の裏で怯える照明兼音声スタッフの伊達に声を投げかけ、大げさな動きで手招きしてみせる。「早くこっち来て! 隠れてる場合じゃないでしょ!」


 けれども伊達は、姿を見せようともせず、ただ片手だけを教卓の上に出して大きく横に振った。無理だ、ということらしい。


 その様子を見た夢野は肩をすくめてため息をついた。その様子に業を煮やしたカメラマンの富澤は、夢野に続いて声を上げる。「伊達さん! もしかしたらこれ、今世紀最大の、いや、マスコミ史上始まって以来の一大スクープになるかもしれないんですよ! 僕たち、大出世できるかもしれませんよ! こんなチャンス、逃していいんですか?!」


「俺はカネや名誉より、自分の命の方が大事なんだよ……」教卓の裏から、伊達の震えた声が聞こえる。「バカなこと言ってないでとっとと逃げようぜ」


「冗談じゃないわよ、こんなビッグチャンス逃すもんですか」


「さくらちゃんだって、ついさっきまで腰抜かして怯えてたじゃないか」再び、伊達の声だけが聞こえる。


 言い返された夢野は一瞬黙ったが、すぐに言い返す「……それはそれ、これはこれじゃない。とにかく、早くマイク持ってきてよ」


「勝手にしやがれ!」伊達は、教卓の奥からマイクとライトを放り投げた。「どうなっても俺は知らないからな!」


 顔を見合わせて夢野と富澤はため息を吐いた。


「まったくもう……、子供じゃないんだからあ」夢野はぼやきつつ、投げ出された機材を仕方なく拾い上げた。


「でも、さくらさん、もう大丈夫なんですか?」機材を持ってきた夢野に富澤が聞く。


「大丈夫って……、なにが?」さくらは首を傾げた。


「いや、だって、さっきからずっと怯えてたから……」


「それはそうだけど……。でもね、あのゴリラみたいな隊長さんの話を聞いていたら、私も逃げちゃいけないなって思ってさ……」夢野は機材を土井に押し付けながら、乾いた笑を浮かべた。「なんとなく……、ね」


「ま、まあ大丈夫ならいいですけど」富澤は、心の中で、「単純な人だな」と思いながら苦笑した。


「それに、ピンチはチャンスって言うじゃない。こういうピンチの時こそ頑張らないと。私たちに巡ってきた大きなチャンスかもしれないわよ」


「確かに」富澤は強く頷き、カメラを構えなおした。片方の手で、マイクと照明機材を無理やり掴んだ滑稽な姿は、ちょっとした安っぽい武装兵みたいだった。


「国防軍の新部隊NFI……。青く凍った謎の美少女隊員……。漆黒の軍服の大男と不気味な巨大生物。もうこれだけでも十分すぎると思わない?」夢野は、先ほどとは打って変わって高揚した様子で話す。


「あ……、でもさくらさん」富澤はカメラのファインダを覗きながら言う。


「どうしたの?」


「さっきびっくりしてカメラを地面に落としたせいか、中継車との通信が切れちゃってます……」


「構わない。中継できなくても、とにかく撮影、録画して。そうすれば、映像は後からでも編集したりしていくらでも使えるし、他局にも売れるかもしれない」夢野は目を輝かせて言う。


「分かりました、とにかくやってみましょう!」富澤は張り切った様子で答え、再びホールに躍り出た。





 国防軍北部中央筑紫基地、NARDSF本部司令室。みつほ、千草、巧。


 三人は、変わらずモニタを凝視し、映し出される官邸の状況をただ見守る他はなかった。


 みつほは、階下正面の大きなメインモニタ脇に表示されているデジタル時計に目をやった。


 時刻は二十三時半を過ぎ。後醍醐たちが官邸に突入してから、まだ一時間程度しか経過していないことに気づく。彼女にとってこの一時間は、短い人生の中で、一番長く感じた一時間かもしれない。


 わずか一時間の間にも、彼女は、隣に立つ千草と共に、何度も声にならない声を上げた。口元を押さえ、目をつぶり、叫んだ。自分が戦っているわけではないし、動いているわけではないけれど、大きな疲労感が全身に溜まっているのを感じた。


 以前の自堕落な学生時代なら、既にベッドで横になっている時間だったかもしれない。少し空腹感を感じてはしるものの、今は不思議とまったく眠くはなかった。


 自分も少しは大人になったのだろうか。みつほは自問したけれど、そんな立派な問いに返せる答えなど無く、ただ、家で自分の帰りを待つ両親や、妹が今頃なにをやっているのかな、とどうでもいいことが気になった。


 やはり疲れているのかもしれないと思ったけれど、多分、自分はまだまだ家離れ出来ていない子供なんだと思う。


 そう思ったみつほは、これではいけないと、早めの瞬きを何度かして、微睡みかけた自分の思考を叩き起こし、隣に立つ巧を横目で見上げるように盗み見た。


 彼はこちらの視線に気付かなかった。モニタをじっと見つめ、力強く拳を握って腕を震わせている。きっと、自分もあの場に立って戦いたいと思っているに違いない。自分とは違って、もう随分と昔から大人びた巧。


(自分はどうかな……)


 あの場にいたら、私は、エミリやたっちゃんのように振舞えただろうか。

 足がすくんで動けなかったのではないか。

 否、私だって、ついさっき、銃を持ったテロリストたちと対峙して、果敢に攻撃し、無事に生きているではないか。


「もちろん草凪少佐に助けてもらったからだけど……」みつほは、ついつい思考が言葉に出てしまったことに、自分で驚いた。


 目を丸くして気まずそうにしていると、巧がこちらを見下ろした。「なんか言ったか?」


「ううん、な、なんでもない……」みつほは必死に首を振って、何事も無い風を装った。



 みつほが、いつもの空想を広げて独りごちたところで、今度は、ふいに千草が声を上げた。


「ニーナ司令官」

 彼女の声は、いつもよりもぱっきりとして、張り艶のあるものだった。


 そう、千草はいつも気弱で大人しいのに、いざというときは私なんかよりずっと強い。私はいつも強がるばかりで、いざという時、どうしてこんなに弱いんだろう……。


 実は弱いって自分でも分かっているから、強がるのかな……。


(心はいつも、逃げるばっかり。本当、嫌になる……)


 当然千草は、みつほの隠れた思考回路を知るわけも無く、力強い口調で言った。


「私たちにも、なにかできることがあったらやらせてください」


 千草の声に、ニーナが振り向いた。艶のある美しいブロンドヘアが優しく揺れた。


「俺も、そう言おうと思ってました」巧が、一歩足を前に踏み出して言う。


 そう、なにも出きることがないと分かっていても、言わずにはいられない。


 負けると分かっていても、立ち向かう。


 それが巧くん……。彼も、小さい頃から強かったなあ。


(じゃあ……、私は?)


「ありがとう……」ニーナは三人の顔をしばらく眺めてから、穏やかに微笑んだ。その顔には、さっきまでのまでの緊張や焦りといった負の感情がほとんど感じられなかった。どちらかというと、力を抜いてリラックスしている、いつもの彼女だった。「でも、大丈夫。今、あなたたちにできることは何も無いわ。そして、私にもね……。後醍醐隊長の話を聞いていたでしょ。私たちに今できることは、信じることだけ……。そうは思わない?」


 そう言い終えたニーナは、片手で髪を耳にかけながら、今度は力なく微笑んだ。


 三人とニーナの間に、しばらくの沈黙が生まれた。


 司令室には、今まで集中し過ぎていて気付かなかった大勢の隊員が叫ぶ声。


 吐息。


 二酸化炭素で空気が淀んでいる気がする。


 慌ただしく行き交うたくさんの足音。


 体温。


 無数の機器が放つ高周波と熱。


 すべてがねっとりと絡み合って、場をずっしりと埋め尽くしているようだった。


 そうなんだ。


 隊長の言う通り。


 生きているから、熱いんだ。


 生きようとするから、怖いんだ。


 一つの事に拘るから、失うことが怖くなる。


 死ぬ気でやれば、


 失う覚悟で挑めば、


 きっと、何も、怖く無い。


 でも、それができ無いから悩ましい……。


 みつほは、大きく息を吸って、淀んだ空気の中に言葉を吐き出した。

「みんな……、生きて帰ってきますよね」


「ええ」ニーナは、首をかすかに横に向け、天使のように微笑んだ。


「司令」直後、ニーナの右前に腰掛けている髪の長い女性隊員が、振り返って声を上げた。


「どうしたの?」ニーナは優雅に正面に向き直った。


「陸軍の救護班が、たった今、官邸四階に到達。神代隊員の救護と人質の解放を開始したとの連絡が入りました」


「人質の中に怪我人、負傷者は?」ニーナの顔から微笑みは消え、真剣な眼差しになった。


「いません」


「了解。神代くんの搬送ルート、人質の脱出ルート確保は?」


「まだです。ただ、一階を経由するルートは、現状かなりの危険を伴うことが予測されます」


「ヘリを使って屋上から、神代くんだけでもまずは救出して。そう伝えて」


「了解」女性はすぐさま、連絡体勢に入るため、正面を向いた。


「司令」今度は左前に座るショートカットの女性隊員が声を上げた。「官邸上空のNARDブラックホークと連絡が取れました」


「屋上への着陸はできそう? もしも屋上が無理なら、中央ホールのガラス天井を割って侵入することは……?」


「……現地からの報告によると、官邸上空は、氷のようなドーム状の結界の様なものが張られているそうで、着陸どころか、接近さえできないとのことです……」


「どういうこと……?」ニーナは眉を潜めて呟いた後、堰を切ったように早口で指示を出しながら、二人の隊員の間に割って入るように、デスクに手をついた。「すぐにモニタ、切り替えて」


「はい」女性隊員は、すぐさま端末に向き直り、キーボードを手際良く操作する。


 デスクの奥、下階との境の中空に、縦横に照射されたホログラムモニタのうち、一番左上のモニタが、何回か違うカメラの視点に切り替わった後、上空からのヘリコプタから撮影しているであろう映像を映し出された。


 そこには、確かに、眠らぬ都会の薄明るい夜空に浮かぶ、大きな氷壁がはっきりと映し出されていた。


 カメラは、氷の壁を真横から撮影しているようだった。その視点から見る限り、その氷壁は、正確にはドーム状ではなく、半円状のコンタクトレンズ状、うっすらと広がった氷の幕のようだった。恐らく、大気中の水分が、エミリの解き放った冷気によって凝固されたものだろうと推測できた。


 三日月のように大きく弧を描いた氷の幕は、月光を受けて青白く輝き、総理官邸全体を覆い隠すように空中に浮かんでいる。


 その異様な光景に唖然とした一同は、言葉を失った。


「エミリの奴……、本当に、一体、どうなっちまったんだ」巧が驚きと嬉しさの入り混じった表情を浮かべた。


「やっぱりあの種の力なんでしょうか」と千草が言いかけたとき、みつほは慌てて彼女の腕を掴み、ここでは言うなという表情を向けて首を横に振った。


「あ、そうでした、す、すみません……」千草は、しまったと言わんばかりに小声で謝り、気まずそうに俯いた。


 ニーナは、三人のやりとりに気付く余裕はなさそうで、「これではヘリの着陸は無理そうね……」と悔しげに囁くだけだった。


 一同がしばらく黙り込んでいると、再び、右に座る女性隊員が報告をあげた。


「司令、たった今、救護隊員を通じて軍部と警察から打診がきました」


「神代くんの状況は?」


「いえ、それが……」口ごもった女性隊員は、言いづらそうな表情でニーナを上目に見た。「……あちらからは、総理の救出のみを最優先すると……」


 それを聞いたニーナの表情には、一瞬にして陰りが落ちた。仰々しく眉を潜め、明らかな怒りを露わにした。女性隊員のインカムを取り上げる様に掴み、荒々しい仕草で自分の頭に装着した。「代わって! 私が話す」


 ニーナが声をあげた次の瞬間、デスク上に照射されたホログラムモニタに、通信相手であろう人物が姿を見せた。


「土門陸将! 一体どういうことですか?!」ニーナは息を切らした様子で、ホログラム上の相手を睨みつけ、罵声を放った。


 土門と呼ばれた土色の迷彩服を着た男性は、血色の悪い彫りの深い顔で、白髪混じりの壮年男性だった。ホログラムで観察する限り、細身で小柄な体格だったが、まっすぐにこちらを見つめる冷徹且つ鋭い目つきは、長年の経験から来る貫禄に加え、軍人独特の、鬼気迫る雰囲気を感じさせた。


 陸将とは、陸軍の総指揮を執るトップであり、最高士官である。


 巧ら新人隊員も、会ったことはないものの、彼の名前や顔、経歴や実績はもちろんよく知っていた。国防軍に所属している者の中には、恐らく彼ら最高士官を知らぬものはいないだろう。


「久しぶりだな、ニーナ少将」土門は、どことなく非情さを感じさせる冷たい口調、目つきで言った。


「お答えください」ニーナは、ホログラム相手に、言い募るように顔を迫らせる。


「今、そこの彼女に伝えた通りだ。総理の救出を最優先する」


「重症人がいるんです」


「だから?」


「救出と並行してください」


「口を慎みたまえ、ニーナ少将。今日は君の、NFI司令官としての初の任務だそうだが……?」


「失礼しました……。確かにその通りです。ですが……!」ニーナは早口で説明する。「ご存知かとは思いますが、たった今、私の部隊の隊員、神代准尉が侵入者に胸部を刺され、出血多量。重傷を負っています。陸軍の救護隊には、まずは彼、神代准尉の救出、救護を……」


「君は、なにか勘違いしているようだね」土門は、ニーナの話を最後まで聞かずに、淡々と遮った。「任務開始前の会議時にも私は発言したが、今回の任務の目的は、内閣総理大臣の、最大限の安全確保と迅速な救出。それ以上でもそれ以下でもない。それを、こともあろうか、一兵隊一人を救出など……、勘違いも甚だしい」


「しかし! 現状、負傷者は神代准尉のみであり、私どもNFIの行動によって総理と人質の安全も既に確保されました。緊急性を要するのは、負傷隊員の救護ではないのですか」ニーナは負けじと食い下がる。


「大変不躾かとは思ったが、先ほどの、君と後醍醐少将のやり取りも、一部始終を聞かせてもらったよ」


 ニーナは訝しげ顔で息を飲んだが、そのまま敢えてなにも言わずに相手の言葉を待った。


「君は、突如現れた敵を前にして怖気付き、あわや撤退命令を下そうとした……。違うか?」土門は、線のように細い三白眼でニーナをじっとりと睨みつけた。


「それは……、申し訳ありませんでした」ニーナは渋々と頭を下げた。


「総理の命が関わる一大事に、弱腰の命令しか下せ無い未熟な司令官。その君が管理する部隊の隊員に、一体どれほどの価値がある?」


「しかし、それとこれとでは問題が……」ニーナはすぐに言い返そうとした。しかし、相手はその言葉に耳を傾けずに、冷淡に続ける。


「しかも、今回の任務の様子……。先ほどから拝見させて頂いているが、君たちNFIのメンバは、素人に毛の生えた程度の部隊ではないか」


 土門がそう言った瞬間、ニーナの後ろに立っていた巧が拳を握り、なにかを叫ぼうとした。それに気付いたみつほと千草は、荒ぶる巧を必死に制止しようとした。けれども、それを一喝したのは、予想外にもニーナの怒号だった。


「土門陸将!」

 ニーナの、今日一番の大声だった。


 巧は、怒りの沸点を横から攫われたのか、あっけにとられた表情で目を丸くして、動きを止めた。

 みつほと千草は、胸を撫で下ろしつつも、初めて見るニーナの激昂に心底驚愕した。


 ニーナの怒号は、司令室全体に響き渡ったようだった。彼女のあまりの声の大きさに驚いた隊員たちが、一斉に中二階を見上げた。気がつけば、あれほど騒がしかった司令室が、一瞬にして、深海のような静けさに包まれていた。機器類のノイズ、モニタから発せられる通信の音声以外、すべての音が鳴り止んだようだった。


「そういう物言いは、やめていただきたいです!」ニーナは、周囲の視線も一切気にせず、初めよりもさらにトーンを上げて大声で言い募った。「彼らは、入隊初日にも関わらず、命を張ってこの任務にあたっています。しかも、NARD、NFI共に、誰一人として死者を出していません。総理も、人質も、既に半分は解放したも同然です」


「しかし、正体不明の侵入者を二人も逃した」土門は、ニーナの怒りに抵抗するように語気を強めた。「突入したSATの中からも、すでに大量の負傷者が出始めている。それはどう説明をつける。お前たちNARDとNFIの任務遂行能力が低く、事件解決が遅れた故の結果ではないのか!?」


「それは……」ニーナは相手の勢いに気圧され、口ごもる。


「いいかニーナ少将。戦争は、軍隊ごっこではない。現場は、生と死が行き交う戦場だ。にも関わらず、自らの部隊員たった一人のために、目の前の任務を放棄しようとする貴殿の甘さ……。それに対して、私は警鐘を鳴らしているのだよ」


「任務を放棄するつもりはありません」ニーナははっきりと言った。「自分の部隊のことだけを優先するつもりもありません。私はただ、ひとりでも多くの負傷者を救うための判断を下しただけです。それのどこが甘いのですか?」


「下らん」土門は、表情ひとつ変えず一蹴し、ニーナの発言を鼻で笑い飛ばした。「所詮、雑兵は雑兵。使い捨ての駒、道具に過ぎん。それを救うだと……? 実に下らん。大事なのは目の前の任務遂行、完遂であり、総理の救出だ。お前たちはそれだけを考えればいい。それも出来ずして、なにが特殊部隊だ。ふざけるな!」


「土門陸将……」ニーナはゆっくりと俯き、震えた声を出した。「それは、あなたの本音ですか。それとも、政府、総理のご意向ですか?」


「なにが言いたい」細い目を更に細めた土門は、低く沈んだ声で聞き返す。


「陸将のおっしゃりたいことはよくわかりました。しかし、今のあなたの発言、陸軍の隊員たちやこの国の国民が聞いたらどう思うでしょうか」ニーナは嘲笑を交えた声色で言い募った。


「口の聞き方に気をつけろ」土門はさらに低い声で、プレッシャを与える。


「それは大変失礼しました」ニーナは澄ました口調で、敢えて上品に言い放った。「ただ、仮に、陸軍軍部がそういう考え方だったとしても、私たちNFIは違います。NFIは、国防軍内に併設されたとはいえ、防衛省直轄ではまったくありません。環境エネルギィ省管轄、大隈太一大臣直轄の特殊部隊。もし、救護の応援依頼を受け付けていただけないのでしたら、それはそれで構いません。私たちは、私たちのやり方でやらせていただきます」


「この状況で、お前たち弱小部隊になにができる」土門は口から息を漏らし、あざ笑うかのように声をあげた。


「お言葉ではありますが、そもそも、今回の任務における単独遂行責任を早期に放棄し、私たち弱小部隊に応援依頼を出してきたのは、陸軍軍部ではありませんでしたか? 土門陸将はなぜそのようなご判断をなさったのでしょうか。そこにはなにか特別な深い意図があるのですか? SATでさえすでに現場に突入しているにも関わらず、なぜ陸軍は救護隊のみなのですか。しかもその救護隊は、負傷した隊員の救護をせずに総理だけを救出する……。それが果たして、国防軍中枢軍部として正常な指揮命令だと言えるのでしょうか」ニーナは矢継ぎ早に責め立てた。「老婆心ながらお伝えしておきますが、万が一今回の任務において有事があった場合、責任追及から逃れられないのはNFIではなく、むしろ陸軍本部の方ではありませんか? それに、幸か不幸か、現場内にはマスコミのカメラが侵入し、既に状況を撮影、中継されてしまっていますよ」


 ニーナはそこまで言い終えると、ホログラムの土門を見据えた。彼は言い返す術もなく、憎々しげにこちらを睨んでいる。


 ニーナは追い打ちをかけるように続けた。


「この際だから申し上げておきますが、私は、命に格差などない。そう考えています。総理であろうと、例え一雑兵であろうと、命は命。皆同じです。陸軍にとってはそうでなくても、私たちNFIはそう判断します。そして、負傷者の救護を最優先させていただきます」


「この状況で、一体どうするつもりだ」土門は奥歯を噛み締めたような表情で言う。


「それは簡単です」ニーナは飄飄(ひょうひょう)と言い放った。「目の前の敵を殲滅し、総理官邸を解放する。それだけです。そして、私たちにNFIにはそれが可能です」

※この物語はフィクションであり、実在する人物、法律、団体、名称とは一切関係ありません。


※当作品内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。すべての文章、画像等は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。

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