表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/90

15. 地下道の気配

皆さまからのブックマーク、評価、レビュー、感想、

喉から手が出るほど真剣にお待ちしてます!

よろしくお願いします!!


【Twitter公式アカウント】

@AOIKOMAOFFICIAL

https://twitter.com/aoikomaofficial



【Twilogはこちら!】

http://twilog.org/AOIKOMAOFFICIAL

15


「ぎゃああああああああああああああ」

 野太く甲高い叫びが、暗いホール全体に響き渡った。


 声の主は、夢野さくらである。伊達と富澤の異変に勘付き背後を振り返った彼女は、腹の底から、喉から出血するほどの大絶叫を放ったのだ。


 ファインダを覗いたまま、身動きが取れずに固まってしまった土井。


 口をあんぐり開けて硬直してしまった伊達。


 腰を抜かしたさくらは、大理石の床に尻餅をついてへたり込んでしまった。

「ば、ば、ばけ、ばけもの……!」さくらは目の前を指差しながら震声を吐く。


 丸腰の三人の前に現れたのは、蜘蛛のような複眼ゴーグルをつけた黒づくめの兵士だった。冷たい目を彼らに向けてゆっくりと銃を上げた兵士は、カメラのレンズに向かって銃口を掲げる。丸々としたレンズの奥には、燻んだグレィの光が灯っていた。



「殺される」

「俺、死んだ……」

「お母さん……!」

 三人の頭に浮かんだ言葉だった。



 しかし、頭では逃げなければいけないとわかっていても、身体がまったく言うことを聞かない。


 次の瞬間、フロア中に響く大きな叫び声。

「伏せろ!」


 突如の大声によって呪縛から解き放たれた三人は、ようやく我に返ったと言わんばかりに身体を屈めた。


 その刹那、臓腑に響く発砲音が二発。連続して空を裂いた。


 頭を撃ち抜かれた兵士は、こめかみから赤い飛沫をあげて膝から崩れ落ちた。抜け殻となった鎧のように真っ直ぐに倒れ、顔面を勢い良く床にぶつけて動かなくなった。


 背後の遠くでも、同じような格好の男がカウンタに身を預けて倒れる姿が見えた。


 彼らは、そこで初めて、背後からも狙われていたことに気がついた。


 自分たちの置かれた状況をようやく理解した伊達は、その場に尻から沈み込んだが、土井は未だにカメラを構えたまま、動くことさえできずに震えていた。


「なにやってるんですか! こんなところで!」


「カメラ下げて!」


 大きな声を上げながら、迷彩服姿の男たちが駆け寄ってくる。


 短い恐怖から解き放たれた富澤は、がっくりと肩を落としてカメラを下ろし、震えたままの指で電源を落とした。


「怪我は?」


 永峰は、へたり込むさくらに目線を合わせて聞いた。


 夢野はあまりの恐怖に言葉を失ったらしく、永峰を凝視しながら、ただただ無言で必死に首を左右に振るだけだった。


「こちらの二人も大丈夫そうだよ」脇坂が永峰に言う。


 永峰は頷き、インカムのマイクに向かって報告を入れた。「報道関係者三名、無事確保」


 急激な安堵感から、硬直していた伊達もまた、膝から床に崩れ落ちた。

「あなたたち、一体どうやってここまで?」呆れた口調の脇坂は、呆然と立ち尽くす富澤に詰め寄った。


「いえ……、俺たちはただ、あなたたちが地下道に入るのが見えたから、追いかけてここまで……」


「あそこには警備がいたはずだけど……」脇坂は顔をしかめた。


「いえ、そ、そんな人、誰もいませんでしたよ。だから、フェンスを乗り越えてここまで……」富澤は、極度の緊張からか、言葉がうまく発せない様子だった。


 永峰は軽く舌打ちをした後、強い口調で三人に警告した。「とにかく! ここはあなたたちが入れるような状況じゃない。ひとまず、元いた地下道まで戻って!」


「嫌よ!」床に座ったままの夢野は、永峰を見上げて悲鳴にも似た声を上げた。


「どうして……? ここは戦場ですよ! 今すぐ避難しないと!」


「嫌よ……、私」夢野は虚ろな表情で首を振った。「……あ、あの地下道、絶対なにかいるわよ……」


「はあ……?」永峰と脇坂は顔を見合わせ、呆れ顏で苦笑した。


「だ、だって私たち聞いたもの! 気持ちの悪い呻き声……」


 永峰は軽くため息をつき、怯えるリポータの前にしゃがみ込んだ。「……きっと、今のことで動揺しているんですよ。そんな化け物いませんから、どうか安心して……」


 永峰は、さくらを立ち上がらせようと手を差し伸べた。しかし、さくらはその手を遠慮なく払い退けた。


「本当よ! 本当なんだから!」夢野はさらに声を上げて叫ぶ。


「困ったな……」と呟きながら立ち上がった永峰は、脇坂を一瞥した後、比較的しっかりと意識を持っていそうなカメラマンの富澤に声をかけた。「その話、本当ですか?」


「え、ええ……。俺たち、確かに聞きました」富澤は大きく首を縦に振って頷いた。「地下道のずっと奥から、獣のような叫び声が響くのを……。しかも何度も。お、俺は何度も引き返そうっていったんですよ! でも、結局その声を聞いて、怖くなって戻るわけにもいかず、ここまで来てしまいました……」

 富澤は、意外にも冷静に受け答えできている自分に驚いた。しかし、カメラの電源を落とした今、頭の中では、生放送の番組がどうなっているのかということばかり考えていた。きっと今頃、番組も、局も、中継車も、テレビを見ているお茶の間の視聴者だってパニック状態だろう。そう思った。


 けれども、その状況さえも、もしかしたら効果的な演出になって悪くはないのかもしれないと、無駄な打算を働かせた富澤。彼は、内心、自分のことをプロだと自画自賛していた。


 富澤の説明を受けた永峰は、肩を膨らませて大きなため息を吐いた。床に座って虚ろな表情で震える照明スタッフらしき男を一瞥した後、脇坂に向かって言った。「脇坂、お前どう思う」


「どうって……。分からないけど、もし本当だとしたら、やばくない? この状況なら、ないとは言えない」


 脇坂がそう答えた直後、二人の耳元にニーナの声が届いた。


「永峰くん、脇坂くん、気をつけて」モニタに現れたニーナの顔は、ついさっきとは打って変わって神妙だった。「先ほどから、地下四階の地下道入り口付近に、大きな生命反応が現れました。ゆっくり動いて、そちらに向かってる……」


「まさかあ。本当に化け物ですか?」脇坂は口を斜めにした。そんな馬鹿な……、と言いたげなだらしない表情で半笑いだ。


「分かりません。でも、とにかく警戒して。今から数分後、そちらにSATの応援隊が突入します。報道関係者三名は、一旦、どこか安全な部屋に移動させてください」


「了解」永峰は無表情で応答した後、脇坂に視線を送り肩を竦めた。彼は、「やれやれ」と言いたげだったが、声には出さず、ただ無言で首を傾げるだけだった。仕草だけなら本部の誰にも分からない、ということだろう。


「いずれにしてもここは危険です。外からの応援が来るまでは、そこの会議室に避難しましょう」脇坂は、照明を肩に乗せたままの伊達を助け起こす。


 永峰も、怯えた様子のさくらに肩を貸して、無理やり引き起こした。


 それでも彼女は、未だに虚ろな表情で空を見つめてぶつぶつと独り言を繰り返していた。 


「きっと幽霊よ……。官邸に住み着いた、戦死者たちの幽霊……」

※この物語はフィクションであり、実在する人物、法律、団体、名称とは一切関係ありません。


※当作品内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。すべての文章、画像等は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。

[ Copyright 2016 Koma Aoi. All rights reserved. Never reproduce or replicate without written permission. ]

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ