14. 対峙
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14
エミリと達也。二人が、二階中央部の階段から四階に向けて一気に駆け上がった瞬間、一階中央ホールに報道陣が紛れ込み中継を始めているという、予想外の連絡が入った。
それを受けた隊員の永峰は、一階給湯室で妨害電波発生源を破壊したことを報告し、即、エントランスに急行すると応答した。
「最近のマスコミは、節操がなさすぎだね……」達也が呆れた口調で言い放った。
「いいんじゃない。死にたい人は死なせておけば」エミリは無表情で冷淡に告げる。
「いや、そうもいかないでしょ」達也は苦笑する。
「そんなことより、神代くん。この状況、どう思う?」
「どうって……、どうりで静かだと思った……って言えばいいのかな」
二人は、改めて周囲の光景に目をやり、息を飲んだ。
階段ホールを出た二人を待ち構えていたのは、赤絨毯敷きの広いスペース。電源が落とされた館内は窓もなく、裸眼ではなにも目視できないほど暗い。非常照明のかすかな明かりだけが唯一の光だった。
その暗闇の奥を、バイザモニタ越しに暗視サーチする。
直後、緑色の画面に浮かび上がる無数の死体。
ねっとりと広がる黒い血の池。
見回す壁や天井には、おびただしい量の鮮血が飛び散っていた。それはまさに、飢えた巨大な猛獣が、咥えた死肉を筆にして描いた死の模様だった。
あまりの凄惨さは、死体から目を背けた二人が、吐き気をもよおす血臭から身を守るために腕で顔を覆うほどだった。
「四階大ホール前、テロリスト集団と思われる死体を発見。数は……、十五人……」
エミリは、口元のマイクを意識しながらはっきりとした口調で報告した。さすがの彼女も、苦痛を浮かべて顔を顰めている。
ニーナよりも先に、脇坂から応答があった。
「こちら、一階守衛室にて対象を破壊。一階中央ホールに向かい、永峰さんと合流します」
「了解。こちら、一階中央ホールを目指して移動中」永峰が答えた。
直後、バイザモニタにニーナが顔を見せる。
「すべて了解。外部にて待機する陸軍小隊に状況を報告済み。SEEDS発動。複数台を侵入させ、内部の状況を把握次第、情報を送ります」
「こちら、目の前にはドア有り。突入しますか?」達也が発言した。
「待って」ニーナが慌てて制止する。「状況が掴めません。潜入していたはずの攻撃対象が全員死亡している……?」
「いえ、対象は十七名。遺体は十五名。残り二名の行方は不明です」エミリが短く答えた。「ただし、早急に人質の安全を確保する必要があります」
その時、バイザモニタ上部に、陸軍から『SEEDSによる内部探査完了』というテロップが流れ出した。それと時を同じくして、ニーナの補佐を受け持つ女性隊員が、「
SEEDS情報上がりました」と張り上げた声がイヤモニタから聞こえてきた。
「数分間だけ時間をください、すぐに解析します。橘さんと神代くんはその場で待機。いいわね、絶対に、勝手に動かないこと」ニーナはそう言い残し、モニタ上から姿を消した。
達也は、自ら突入確認をしたものの、わずかな待機命令に胸をなでおろした。
この、常軌を逸した血みどろの空間の先に足を踏み入れる……?
目を瞑る。
吐き気が止まない。
あまりの異臭に口呼吸しようと考えたが、口の中に直接死臭が入ってくると思うと、それもできなかった。
「大丈夫? 神代くん」
エミリの声だ。
こんな時に限って、いつもは冷たい彼女の声が暖かく聞こえるから不思議だ。
達也は無言で頷いた。
「全員、全身を激しく切り裂かれてる」エミリが淡々と言った。「見たくなければ見なくてもいい。でも、気をつけて。奥に、誰か……、いる。感じない?」
達也はうっすらと目を開け、周囲をもう一度よく観察しようと気持ちを奮い立たせた。
辺りは変わらず血の海。慣れることのない激しい死臭。
壁にもたれかかり、頭をうなだれ絶命している男。
うつ伏せ、仰向けで血の海に沈む数々の死体。
中には、壁に激しく叩きつけられたまま、壁にめり込み、つぶされた蛙のような状態で白目を剥く死体さえあった。
これが戦争?
これが戦場?
本当に?
今、目前に存在している異様な光景は、達也の想像を越えた、死よりも残酷な、黒く深い、闇のような意志を感じずにはいられなかった。
入ってしまえば、もう二度と戻ってはこれないようは、底なし沼のような、闇……。
そこで達也は気がついた。
ここに倒れている全員は、見慣れた迷彩服姿だ。
しかし、一階で殲滅した二人の兵士は、黒い戦闘服だった。
どういうこと?
何が起こってる?
何かが違う……。
話が違う。
「オイラ、よくわからないよ」
「でも、感じるの……。寒気がするくらいの、憎悪にも似た嫌悪感……」彼女の声は、明らかに恐怖で震えている。
「オイラ達でも……、テロリストでもない、誰か?」
「分からない……」エミリは、うわ言のような言葉を、吐息と共に吐き出した。
「そういえば、隊長とヘイちゃんは?」
達也は、目の前の現実をごまかし、エミリの思考を切り替えさせるために、適当に思いついた言葉を口走った。もう長い間、二人からの応答がないことが気になっていたのだ。
「聞こえてるよ」すぐに後醍醐の威勢のいい声が耳元に鳴り響いた。「お前ら四階のほうも大変みたいだが、こっちも動けねえんだ。大鎚なんか、俺の隣でチビってるかもしれねえぜ」
「そんなこと、ないっすよ……!」平太の声が聞こえてきたが、彼の声も、明らかに震えている。
「橘。不明の二人なら、俺たちの前で死んでるぜ」後醍醐が言った。
*
三階にたどり着いた後醍醐と平太は、広間の中央で、一人の男と対峙していた。
男は、非常灯だけが灯る暗闇の中、威風堂々と仁王立ちし、幅のある廊下を塞ぐように立ち尽くしていた。
男は微動だにせず、真っ直ぐにこちらを睨むように見据えている。
薄紫色の肌は、乾いた紙粘土のように干からびて見え、大きく見開いた眼は白濁して血走っていた。爬虫類のような眼だ。その眼の奥には、激しい感情が隠されているようにも見える。後醍醐を超えるほどの巨体の男はスキンヘッドで、まるで、太古の時代から深海の暗闇に潜んでいた大きな海坊主のようだった。
背の低い平太は、軽く顎を上げなければ相手の顔が見えない。男はそれだけ大きい。
テロリストとの衝突で顔面に銃弾を受けたのか、頬に開いた穴からは、浅黒い血が流れ出ている。見た所、男は丸腰で武器を所持している様子はない。だが両手には、数分前までは生きていたであろう男ふたりの死体が握られていた。ひねりつぶされて屠畜される鶏の如く、怪力に締め付けられた死体の首は、今にも引き千切れそうだった。
「おい……」大きなマシンガンを小銃のように構える後醍醐は、深くドスの利いた声で言い、男を睨みつけた。「誰だ、おめえは?」
男は鼻で笑ったかと思うと、瞬きもせず、手に握りしめていた人型の肉塊を、ゴミを扱うかのように床に放り投げる。
「国賊には、黒い死を……」しばらく黙ってこちらを凝視していた男は、湿り気のあるくぐもった声で男は答えた。
「国賊はどうみてもそっちなようだが?」
二人の巨大な男の視線は、激しくぶつかり合って均衡した。
じわじわと凍えるように、空気が緊迫していくのが肌で感じる。
平太は、後醍醐の後ろで銃を構え、状況を見守ることしかできない。ここまでは軽く感じていたはずの銃本体が、なぜか異様に重たく感じるようなった。
自分は今、緊張している。
そのことを理解するだけでも、かなりの時間がかかっただろう。
次の瞬間、イヤモニタからニーナの声だけが聞こえてきた。
「隊長、みんな、聞いてください」
場の状況をすべてモニタリングして把握しているのだろう。ニーナの声も、緊張に支配され、微かに震えている。
「現在、総理官邸内における敵対生存反応は二名。テロリストと思われる集団、十七名は全員死亡。人質は総理含め、四十三名。四階中央ホールにおいて全員無事の模様です」
「そりゃあよかった」後醍醐は少しだけ笑って言った。「で、その敵対生存反応の二名っていうのは、目の前のこいつと……、もう一人はどこだ」
「人質のいる、四階中央ホールです」ニーナはすぐに答えた。
「おい、橘、神代。聞いたか? なにが起きているのか、今は考えるな。俺にもまったく分からん。だが、とにかく突入だ。総理をお助けしろ。こっちは、俺と大鎚でなんとかする。事実は、てめえの目で確かめろ!」
イヤモニタからは、エミリと達也の「了解」の声が聞こえた。
「さあ、大鎚。相手は尋常じゃなさそうだが、はじめようか……」
「へ、へい……」平太は真顔で頷き、銃を構える姿勢を改めた。
男は不敵な笑みを浮かべて、両腕を引いて構えを取る。
後醍醐は、トリガを一気に引き込んだ。
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