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12. 戦闘開始、舞うエミリ

大変お待たせしました!

長い長い1期もいよいよ完結に向けて戦闘モードに突入です。

あまりくどくて濃口の戦闘にするつもりはありませんし、そんな技量もない蒼井コーマですが、最大限楽しんでもらえるよう、雰囲気づくりを頑張っております。


今回のChapterは澤野弘之さんの名曲、

『BRE@TH//LESS』&『No differences』をガンガン聴きまくりながらノリノリで執筆した項でございます。

読者の皆さんも、ご興味ありましたらぜひぜひ!

アニメ『アルドノア・ゼロ』の挿入歌でございますよ!


『BRE@TH//LESS』

https://www.youtube.com/watch?v=cXIU4FFyWfA


『No differences』

https://www.youtube.com/watch?v=gkNoL2OHGUo


気に入ったらサントラ買ってくださいね。

僕は、澤野さんのサントラ、一枚残らず全部買っちまいました。


ではでは、お楽しみください!

12


 後醍醐率いるNARDSF、NFI小隊突入直後、打ち合わせ通り、外部で待機する警察によってすべての電源が落とさた。すでに館内は、闇の(とばり)に深く沈んでいた。


 大理石積みの高い天井と壁、床。正面エントランス側に構えられた大きな透明のガラス壁からは、柔らかな月光が差し込んでいる。その様子は、緊迫した現場の雰囲気、隊員たちの心境とは真逆の穏やかな風景だった。


 ガラスの外にはレンガ敷きの広い庭が見え、そのずっと奥には官邸を囲む高い鉄格子。報道陣の掲げる仰々しいライトの光が、格子の隙間から僅かに見えた。


 シンプル且つ優美な造形の館内では、破られるはずのない静寂が、既に鳴り止むことのない激しい銃声に切り裂かれていた。


 薄闇の中、鋭く、確実にこちらを捉える弾道は二方向から。


 一つは、一階カウンタ奥。


 二つは、二階エスカレータ先の通路奥からだった。


 地下から上がってきた階段に身を隠していたエミリは、姿を隠すことを諦め、暑苦しいフードを乱雑に脱ぎ去った。


 直後、しびれを切らして駆け出し、銃弾行き交う戦火の渦中に飛び込んだ。

 華麗なフィギュアスケートのようにハイジャンプ。重力に逆らい、頭と足を逆さにした彼女の瞬発的な舞いは、人間業とは思えないローリングで弾道をかわしていく。


 けたたましい銃声。


 達也と平太、後醍醐らは、彼女のとっさの動きに目を見張った。


 スローモーションのように、情景がゆっくりと動く。


 彼女の後頭部をかすめた銃弾が、髪の結び目を貫く。


 長い黒髪が空に広がり、月光を写して艶めかしく輝いた。


 エミリは足を天に向けた状態のまま、弾道の袂めがけて黒い引き金を引く。


 眩い青のレーザが一閃。空を切り裂き照らしながら、闇に潜む相手の胸を貫いた。


 弾道は残り一方向。


「橘!」

 叫んだ後醍醐は、同時に、自ら構えるサブマシンガンを二階に向かうエスカレータの先に向かって撃ち放った。


 鼓膜を切り裂く連続の銃撃音。


 弾道の終着地点に設けられたガラス柵が、一瞬のうちに破滅の音を立てて飛び散り崩れる。


 闇の中で、銃弾に倒れた相手が二階から落下したのが、はっきりと見えた。


 後醍醐は、脇坂と永峰に目で合図を送る。「作戦変更だ。お前ら、電波の発信源を潰せ」


 二人は後醍醐を見つめて無言で頷くと、腰を屈め、銃を構えたまま左右に散っていく。

「どういうこと?!」颯爽とした動きでカウンタ裏に飛び込んだエミリは、怒りに満ちた声をインカムにぶつけながら、床に倒れ込み絶命した標的に目をやる。


 倒れているのは、漆黒の戦闘服を着込んだ大男だった。


 頭には、死刑執行人のような、のっぺりとしたデザインのマスクフードをかぶり、目元には、無数の小さなレンズが取り付けられた暗視用ゴーグルが装着されている。その姿は、不気味な新種の蜘蛛の死骸を連想させた。


 彼女は、カウンタから顔を出して周囲の安全を確認した後、もう一度バイザモニタのアイコンを確認する。


 しかし、間違いはなかった。光学迷彩の電源は、確かにオンになって点灯している。


 エミリが叫んだ理由はただひとつだった。指示通りの手順で光学迷彩機能をオンにしていたにも関わらず、闇に潜む相手から銃撃されたのである。

(暗視ゴーグル……、これで見られた?)エミリは、全身にうっすらと鳥肌が立つのを感じた。(まさか、こちらの情報が……)


 猛スピードで思考を巡らせていた時、先ほど放ったの怒号に対して、司令室からの応答があった。


「ワイにもなにがなんやらわからんで!」

 荒々しいノイズにまみれた声は、慌てふためいた様子だった。


 濃い口の関西弁。

 聞き慣れた乱雑な口調。


 エミリは、なぜ彼が応答したのか理由はわからなかったが、相手の顔はすぐに思い浮かんだ。

「荒田くん!」


 直後、バイザモニタに、見慣れた汚らしい顔が映し出された。


「どうして姿が見えてるのよ!」状況を把握したエミリは、守の顔を睨みながら、静かに声を荒げた。「あなたの作ったこれ、どうなってるの?!」


「だからわからんゆーとるやろ!」


「製作者のくせに無責任過ぎる!」


「しゃあないやろ! こっちからお前らの装備の状態見てても、なんにも異常あらへんねん。バッテリも十分残っとる。光学迷彩かてばっちりかかっとるんや」荒田も声を荒げて言い返す。


「ねえ、このスーツ、不良品なんじゃないの……?」耳元のスピーカから、達也の呆れ声が聞こえた。


 エミリがカウンタ越しに周囲を確認すると、さっきまで自分のいた階段付近には後醍醐がおり、その後ろには、達也と平太が体を丸めて潜んでいるのが見えた。彼らはあそこでしゃべっているのだ。


「アホか、ワイがそんなしょーもないミスするか!その装備作るのに、時間と銭、いくらかかっとる思とんねん。ケチ付けんなや。ワイの作ったロータスウェポンはいつだって完璧なんや!」荒田は必死な形相で言い返した。


「ろーたすうぇぽん……? なんだよそれ。お前、やっぱり中二病だな」今度は、不満そうな平太の呟きだった。


「やかましわ! ロータスってのはギリシャ神話で、じいさんが……」


「解説はいいからよ、どうすんだよこの状況……!」平太が不満そうに問い詰める。


「そんなんワイかて知らんがな……」守は窮した様子で目を細めた。「その光学迷彩は、特殊な電磁パルスを使って、周囲の空間を歪ませて、光の屈折率や透過率なんかを意図的に変化させてやな……」


「理屈はいいから! 原因と解決方法を教えなさい! あなたの薀蓄に付き合っている時間はないの!」エミリが再び声を上げる。


 守は、同級生の言葉に完全に叩きのめされたのか、肩を落として力なく答えた。「……恐らく、そのスーツから出ている電磁パルスの周波数を解析されとるんや……。そいつらのつけとるゴーグルが怪しい……。あとは、わからん」


「わからんて……、お前なあ!」平太が声を上げた。


 すると、やり取りを見かねたニーナが通信に入ってきた。


 モニタには二枚の画像表示。それぞれ、聡明な美女と、落ち込んだオンボロ研究員の顔が並んでいる。


 背後にはほぼ同じ司令室の背景。多くの黒い通信機器が細かな光を明滅させている。二人が隣り合わせで、同じ場所に立っていることは容易に想像がついた。守側のパネルの端には、巧やみつほ、千草の顔が見え隠れしていた。


「今それを言い合っていても仕方ありません。結果は結果。人質の安全確保が最優先です。脇坂、永峰両隊員が妨害電波の発生源を破壊次第、外部部隊に突入指示を出します」


「待て、ニーナ」後醍醐が低い声で唸った。


 エミリと後醍醐の間にはかなりの距離があったが、彼の声は大きく、耳元のスピーカからも、遠くも両方から同じ声が聞こえてきているのがわかる。エミリは、無用なハウリングの心配をした。


「今の銃撃で、俺たちの存在は連中に気づかれちまってるだろう。即座に人質の安全を確保しないと危険だ。外部の応援を待っている時間はない」


「しかし……、内部の状況を正確に把握しなければ……」ニーナは明確な不安の表情を浮かべる。


「実戦は作戦通りに進むことのほうが珍しい。大丈夫だ、現場の俺たちを信じろ」言い終えた後醍醐は、ニーナの反応を待たずに、平太と達也に合図を出すと無言で立ち上がった。重そうな巨体をコンパクトに縮めてエスカレータを駆け上っていく。


「橘もついてこい。これはただの直感だが、人質は恐らく、四階の大ホールに集められている。二階に上がったら、二手に分かれる。橘と神代は中央の階段から移動、直接四階を目指せ。俺と大鎚はこの先の北東側の階段から三階に上がり、フロアを掃討後、四階に移動する」


 言われたエミリは素早く身を起こし、二階に上がった三人をめがけて、エスカレータを音もなく駆け上る。


「隊長……」ニーナは変わらず、不安の色を浮かべている。


「司令、心配するな。機械や技術に頼ってばかりじゃダメなこともあるんだ。こういう時こそ、感じたままに動いたほうが正解が多い。事は急を要するぞ」


 ニーナはしばらく下を向いたままだったが、決心した様子で顔を上げた。「……分かりました。では、脇坂・永峰両隊員は、妨害電波発生源を特定、撃破後、すぐに連絡を。そして、四階大ホールを目指して部隊に合流してください」


「了解」すぐに、ベテラン二名の返答が帰ってきた。





  NARDSF司令室は、みつほらが想像していた以上に大きかった。


 広い室内では、大勢の隊員が所狭しと行き交いながら、激しく入り乱れている。

 人混みの中、各所から跳ね上がる怒号。

 飽和する緊張と熱気。怒りにも無言の圧力によって、室内全体が膨張しているのではないかと思うくらい、司令室全体は殺気立った喧騒に満たされていた。


 周囲の壁には、所狭しと無数の機器類やモニタが埋め込まれていた。階下中央には何列もの黒いデスクが整然と並べらている。その上にはオムニスのホログラムモニタが複数照射されていて、前には、インカムを装着したNARDSFの隊員たちが、激しくキーボードタイピングを繰り返しながら座っている。各地のテロ現場へ派遣された部隊への指示や連絡に追われているのだろう。


 室内は、大学講堂のように急角度で斜めに切られ、上階から階下が見下ろせる設計になっていた。待機組の巧、みつほ、千草は、司令室全体を見下ろすことができる、三階の総司令席の後ろに立っている。


 目の前は、宇宙船のコックピットのようだった。複数の物理モニタが配置され、官邸に潜入している六人の視点カメラが捉えた映像がリアルタイムで映し出されている。モニタ前には二名の女性隊員が座り、官邸の六人の状況を慌ただしくモニタリングしており、司令のニーナは、その二名と様々なやり取りをしている。


 ニーナと三人の間には丸テーブルが置かれ、その上には、総理官邸の立体映像がホログラム照射されている。しかし、探査機が突入できない現段階では、犯人の人数や位置、人質の場所等、内部情報は何一つ表示されていない。その横には、肩を落としてうなだれた、小汚い白衣姿の荒田守が立ちすくんでいる。


 仲間の実戦を見守るという初めての経験に緊張した三人は、手持ち無沙汰のまま、ただ呆然とニーナや先輩隊員らの背中を見守りながら、立ち尽くすことしかできないでいた。


 みつほは、階下から上がってくる激しい喧騒の中、言葉も忘れ、緊張に高鳴る胸の鼓動を抑えようとするだけで必死だった。


 握った手にはじんわりと脂汗が滲んでいた。


 喉も渇いていた。


 どこかへ逃げ出したい気持ちで一杯だった。


 目の前では、幼い頃から共に育った友人たちが、生死の境で命をかけて戦っている。それなのに、自分はただ立って見学することしかできない。そのことへのもどかしさと恥ずかしさ。そして、なによりも、友人たちが危険な目に遭うのを見ていられないという恐怖心が一番大きかった。


 任務開始直前、司令のニーナは彼ら新米三人に向かってこう言い放った。



『なにもせず立っているだけでいい。決して目を背けず、現実だけを見ていなさい』



 みつほは、ニーナの言葉に足首を掴まれた思いだった。


 逃げることも、前を向くこともできない状況。


 苦痛だけれども、耐えるしかない。


 それが成長するための、唯一の道筋。


 学校時代、ニーナから教わった言葉を胸にしまい、みつほは覚悟を決め、ニーナの後ろすがたを見守り抜く覚悟を決めて、ここ立っていた。


 初めてまじまじと見るニーナの背中。


 いつも穏やかで清楚な女性教官だった人が、今は、司令として部隊の指揮を取っている。


 そのことがたまらなく嬉しく、頼もしく、それと同時に、不思議だった。


 確かに、教官だったニーナは、知識も経験も豊富で実に様々なことを教えてくれた。この教官だったからこそ、自分は辛い四年間を乗り越えられたと言っても過言ではない。


 でも、どうして、海外出身者のニーナがNFIの司令官として選任されたのだろうか。適任の教官なら、他にも大勢いたはずだが……。


 しかし、みつほは、「今はそんな余計なことを考えているどころではない」と自分に言い聞かせ、頭を振った。


 毅然として彼らの前に立つニーナからも、当然、張り詰めた緊張がしっかりと伝わってくる。にも関わらず、当初予定していた作戦の変更を余儀なくされるという、不測の事態にも、彼女は冷静に対処した。自分がもしも今の彼女の立場ならと、きっと眩暈がしてその場で卒倒しているかもしれない。みつほは本気でそう思った。


 その時、ふと、フラッシュバックのように光剣一輝の顔が思い浮かんだ。


 彼は生きていた。そう連絡が入った。


 しかも、手術は成功して、彼はどうやら無傷らしい。


 それがどういうことかみつほにはよく分からなかったが、とにかく早く彼に会いたくなった。認めたくないし、なぜかそんなことを思った自分自身が悔しかったけれど、否定しがたい事実だった。


 そんなことを考えていると、背中を丸めて白衣のポケットに両手をだらしなく突っ込んだ守が、こちらも見ずに横を通り過ぎて司令室を出て行こうとした。


「おい守、どこいくんだ?」みつほよりも早く、巧が、彼の背中に声を投げた。


「どこて、研究室に戻るんや」振り返りもせず、守はそっけなく答える。


「あいつらの任務、まだ終わってねえぞ」


「そうですよ」千草が優しげに言う。「守さんも、一緒にここに居ていただけませんか?」


 荒田は少しの間考えてから、口を開いた。「なんか、複雑やなあ……」


 しばらくの沈黙も、みるみるうちに、下階の喧騒に飲み込まれてしまう。


「複雑って、なにが?」みつほはようやく口を開くタイミングを見つけた。


「なんやろな……」守は肩を揺らして小さく笑ったが、出口を見たまま表情は見せない。「仲間が自分の目の前で、自分の作ったもんつこて人を殺してるの見るんは、あんまりええ気分やないな。こんな感情はじめてや……。それに、技術面でも上には上がおるっつうことがよお分かった。ワイはまだまだ未熟。完敗やで」


「別に、お前が悪いわけじゃないだろ」巧は、丸い口調で慰めた。


「せやけど、ワイの作ったもんが簡単に見破られたんは事実や。絶対いける思とったけど、あかんかった……」


 顔は見えなかったが、荒田の声は震えていた。


 幼い頃から彼が大の負けず嫌いだったことを、みつほは思い出す。


 昔から目が悪く、身体も病弱だった彼は、頭と知力、負けん気と努力だけでここまで来たと言ってもいいくらいの人間だ。だから、負けた後の守は、いつも強かった。子供の頃から、勝負で負ければ負けるほど、彼は強くなった。小学生の頃、自分をいじめる相手をこてんぱんに延したこともあった。


「守ちゃん……」あの、いじめられっ子で弱虫だった荒田守が、今は随分大きく見えるような気がした。


「なんや」守は少し嬉しそうな声で、顔半分だけ振り返った。


「次は、もっとすごいの、作るんでしょ?」


「当たり前や」荒田は少し笑った声でそういうと、ポケットに突っ込んでいた右手を雑に出して、そのまま手を挙げた。「見とけや、みつほ。ワイは天才科学者、荒田潤次郎の孫、荒田守やで……」


 小声で言い残した彼は、そのまま司令室を出て行った。


「今日は私たち、背中を見てばっかりね……」みつほは独り言のように囁く。


 巧は、みつほの言葉を聞き逃したのか、怪訝そうな顔で首を傾げるだけだったが、千草は小さく笑ってくれたみたいだった。

※この物語はフィクションであり、実在する人物、法律、団体、名称とは一切関係ありません。


※当作品内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。すべての文章、画像等は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。

[ Copyright 2016 Koma Aoi. All rights reserved. Never reproduce or replicate without written permission. ]

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