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05. 宇宙人

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5


「遺言カプセル埋めに行ったら、宇宙人を捕まえたんだって?」

 神代達也は、ニコニコと軽快な笑顔を浮かべて嬉しそうに言った。いまは、台所に背を向けながら、背の高い椅子を舟こぎしている。


「どこをどう理解すればそうなるのよ」高嶋みつほは、肩を竦めながら呆れ顔をした。


 時刻は九時半を回っていた。


 花宮神社の食堂には、神代達也と橘エミリ、大槌平太が合流して七人になった。


 平太は、農作業用の黒いつなぎを着た長靴姿。頭に、手ぬぐいで作ったねじり鉢巻を巻いている。


 エミリは、今日も変わらず、全身漆黒のゴスロリファッションである。今日は珍しく、レースのヘッドドレスを被っていたが、もちろんこちらも黒である。真紅に塗られた唇が、艶のある黒髪と真っ白な顔を際立てている。


 達也が宇宙人と命名したブロンズヘアの女の子は、食事を終えた後に眠気を訴え、今は二階に上がって寝てしまったらしい。歩が全員に説明した。


「でもよ、背中に綿毛が生えて空から降って来るくらいだから、もしかしたら本当に宇宙人かもしれないぜ、あの子供」白い歯を見せて笑う平太。


「ここにいる全員、宇宙人よ」エミリが無表情で軽くため息を吐いた。


「なんだよそれ」平太は軽く眉を潜めてエミリを睨んだ。


「別に……」エミリは目も合わせず短く答えた。


「あれ、そういえばタクちゃんは?」達也が、片手をわざとらしく額に当てて食堂を見回した。三日前の墜落現場にいた人間の中、海馬巧だけはまだ来ていない。


「巧は、今日、ニーナ教官に呼び出されたから、基地に寄ってからこっちに来るって」一輝が答えた。


「ふーん、そっか……」達也は唇を尖らせる。「じゃあまだ来ないんだ。オイラ、渡したい物があったのに」


「巧さんは、昨日、航空身体検査の結果が出たと言っていたので、もしかしたらそのことで呼ばれたのかもしれませんね」千草が穏やかに告げた。


 巧は、入隊後、航空戦闘機部隊の一員として、将来を期待されているパイロットの一人だった。士官学校同窓生の中でも、体力、知識、技量共にトップクラスの成績を残していおり、基地内ではもちろん、軍内でも噂になるくらい評判が高いと聞かされている。


「そんなことより……、その噂の宇宙人は一体誰なのかしらね」エミリが口火を切った。


「どういうこと?」みつほが首を傾げた。


 食器棚に近いテーブルに一人で座っていたエミリは、小学生の下敷きほどに薄い超軽量型のオムニスを取り出した。端末を持つ手を伸ばして、みつほと千草の座る中央のテーブルに置き、モニタを照射させる。


 全員が中央のテーブルに集まり、テーブルの上に浮かび上がった緑色のカラーモニタを覗き込む。そこには、インターネット上のサイトが表示されており、一人の壮年男性が真剣な表情でインタビューに応える画像が写っている。


「おい、この人って……」喜多川歩が驚いたように声を漏らした。頭に巻いていた手ぬぐいは、今は首に巻かれている。綺麗に刈り上げた坊主頭が露出していた。


「愛咲誠一、五十五歳。国際植物遺伝子科学研究所、所長。四日前の飛行機墜落事故の時、私たちの目の前で息を引き取ったあの人よ」エミリは、モニタを見つめたまま、背後に立つ全員に向けて淡々と説明する。


「よく見つけたねえ」歩は感心した様子で頷き、細めた目でエミリを一瞥した。


(あの人、こんなに立派な人だったんだ……)

 一輝は、目ではモニタを見つめながらも、頭の中では、あの夜の記憶を掘り出していた。


 三日前の夜、空から降ってきたあの少女を抱き留めた一輝たちは、エミリに言われるがまま、逃げるようにあの場を離れた。その間際、愛咲誠一は、彼らの目の前で息を引き取った。絶命する瞬間の愛咲の顔を思い出した。人が命を失う瞬間を見たのは初めてだったけれども、ショックや悲しみは思うほど湧いてこなかった。なぜなら、燃え上がる炎に赤く照らされた愛咲の顔は、血だらけで苦悶の表情を浮かべながらも、微かに笑っていたからだ。


 一輝は、愛咲の最後の死に顔を思い出す。

(これから死ぬっていうのに、どうして笑顔でいられたんだろう……)


 一輝の脳裏には、死の間際に見せた愛咲の微笑が今でも明確にこびりついていた。


 愛咲の死を確認した後、全員を無理やり詰め込んだ歩の四駆は、登ってきた道をあえて戻らず迂回した。それも、エミリの指示だった。川沿いに駐留しているかもしれない軍の車両を避けるためだと言っていた。彼らを乗せた車は、花咲神社とは正反対のルートから隣町を経由してから筑紫町に戻り、メンバーをそれぞれ自宅まで送ったのである。


 エミリはあの時、山を下る車の中で、どうしても月夜見ヶ原の付近に駐留していた車両のことが気になったと言っていた。当日は、一輝は、彼女がなぜそこまで軍に怯えるのかは理解できなかった。けれども、エミリの予感は的中していたのかもしれない。今ならそれがわかる。


 これは、飛行機墜落の翌日に、近隣の住民から聞いた話だ。


 あの事故の直後、一輝と歩が全員を送り届けて自宅に戻った後、筑紫山の中腹は軍により封鎖されたという。その後、数台の輸送用ヘリコプタが飛来し、軍のトラックや除染車両等が数台、月夜見ヶ原方面に上がっていくのを、地元住民が何人も目撃している。一輝はそれを自分の目で見てはいないが、確かに、ヘリのプロペラの音がうるさかったのはよく覚えている。


 その日のうちに、飛行機墜落の凶報は瞬く間に町中に広まった。しかし、不思議なことに、あの事故は未だどのメディアにも取り上げられていなかった。墜落した機体のことはもちろん、死者の身元や人数さえもが一切わからぬままで、今日に至っている。


「でも不思議だぜ。あんな大事故だったのに、どうしてマスコミは報道しないんだよ……?」平太は訝しげな表情で、誰ともなく聞いた。


「報道管制」達也が、急にまじめくさった顔になって言い放った。


「ほーどーかんせい……?」みつほが呟く。「なにそれ」


「でも、こんな時代に……、そんなこと有り得るでしょうか……」目を見開いた千草は、みつほの質問には答えず、達也に目線を送った。


「政府や軍部の指示で、特定の事件や事故の情報が報道されなくなるっていうのは、なにも特別なことじゃないと思うよ」神代があっけらかんとした口調で言い放った。「今までもそういう事例はたくさんあったはず。問題は、それをオイラたち庶民が知らされていないっていうことじゃないかな。メディアが報道すれば、オイラたちは、その事件や事実を認識する。報道しなければ、オイラたちはその事実を知ることができない。マスメディアって、そういうものじゃないかな」


「確かに……」一輝は、先ほどの自分の思考と達也の意見が重なったこともあって、深く頷いた。


「でもよ、マスコミが嘘つくって……、そんなことあるか?」平太は、半分笑った表情で不満げに言う。


「ん~、嘘をつくかどうかはわからないけど……。最近さ、報道されることだけ見たり聞いたりしていても、わからないことが多いなって。やっぱり、自分の目で確かめないとわからないこともあるんじゃないかなぁって、オイラは思うんだ」達也は、カウンタに置かれた湯飲みを手に取って、冷めたほうじ茶を飲み干した。「それにさ、現に、三日前にみんなが山で見たっていう墜落事故はどこにも報道されていない。だから、その場にいなかったオイラには、その事故があったのか無かったのか……、本当のところはわからないってこと。もちろん、みんなの言ってることを疑っているわけじゃないよ。ただ、何て言うのか、その……」神代は考えたように口ごもる。


「誰かが、都合の悪い真実を隠してる」エミリが低い声で言った。


「うん、そういうことかな、エミりん」達也は口元を緩めて頷いた。「そういう匂いがプンプンするんだよねえ」


「で、でもさ、ちょっと待ってよ」一輝が、慌てた様子で、テーブルに突っ伏していた上半身を勢いよく起こした。「もしもそうだとしたら、マズくない?」


「なにがだ?」歩が聞く。


「だってさ、もしあの事故に軍隊が関わっているとしたら、あの子のこと匿ってたりしたら……。それに、そのアタッシュケースだって軍事機密かなにかかもしれないし……」一輝は激しい身振り手振りを付け加えながらまくし立て、玄関側のテーブルに置かれたボロボロのアタッシュケースを一瞥する。「僕たち、もうすぐ軍に入隊するのに、そんな隠し事してたら……、やっぱり危険じゃないかな」


「もしもそうだとしたら、あなた、あの子のこと軍隊に差し出すつもり?」エミリが横目で一輝を睨む。


「いや……、そういう訳じゃない……、けど……、さあ」一輝は、掲げていた両手をゆっくりと下げて、うな垂れた。


 その時、玄関側のガラス戸がゆっくりと開いた。


 全員の視線がそちらに集中する。


 そこには、パジャマに着替えた少女が、裸足のまま立っていた。眠そうな顔を片手でこねくり回しながら、こちらを見ている。


「あら……、起こしちゃった?」みつほは優しく言うと、一輝を鋭く見据えた。「あんたが大声出すからでしょっ」


「なんで僕なんだよ」一輝は苦笑した。

 少女はみつほの声に反応せず、一輝をまじまじと見つめて一言呟く。


「イッキ、あたしのこと、邪魔……?」よくよく見ると、少女は顔全体を真っ赤に泣きはらしていた。目も充血している。


「もしかして、今の話……、聞いてたの?」一輝は気まずそうな表情で少女を見た。


「怖い夢、見たの……」少女は今にも泣き出しそうな崩壊寸前の表情で言う。

「誰かに連れて行かれる夢……。だから、あたし、ここにいたい。どこにも行きたくない……!」


 少女は、小さな裸足でひたひたと駆け出して、一輝の膝を抱えるように飛びついた。「あたし、ここにいたいよお」少女は大粒の涙を零こぼして、いよいよ泣き出してしまう。


「いや、まあ、なんていうか、その……」

(そんなこと言ったってさあ……)一輝は、泣きじゃくる幼女に対してどうしていいかわからず、困惑した表情をするしか出来なかった。


「ねぇ、平ちゃん」達也が小声で、隣の椅子に腰掛けている平太に聞く。

「え?」

「あれが、例の宇宙人?」

「あ、ああ……。そうだけど?」

「外人じゃん。なんで言葉通じるの?」

「さ、さあ……、知らねえよ。でも、なんでだろうな。事態が全然飲み込めないぞ」

「でも、あの子かわいいね」

「お前、まさかロリコンか?」

「いやいや……、そういう意味じゃないでしょ」達也は困った様子で苦笑いした。


 一輝は少女を抱き上げ、エミリの横の椅子に腰掛けた。少女をそのまま膝の上に座らせて、頭を優しく撫でてやる。


「もう泣くなって……。大丈夫だから。どこにも行かせないから」

「ほんとう?」赤付き始めたミニトマトのような顔を向けて、少女は聞いた。

「ああ、本当だ、本当」一輝は、大きく頷く。

「ありがとう……」少女は少しだけ笑って首をこくんと縦に振った。

「あら、案外子煩悩ね」状況がひと段落したのを見計らって、エミリが冷静に言う。

「一輝さん、お父さんみたいですね」千草は目を輝かせて微笑む。

「いやいや……、別にそういうつもりじゃあ」一輝は苦笑する。

※この物語はフィクションであり、実在する人物、法律、団体、名称とは一切関係ありません。


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