光の魔法使い
その後も放課後に何度かアルクスと練習を重ねた。
そして試験二週間前になる頃には、私の魔力コントロールは驚くほど上達していた。
アルクスは授業には出ていない。けれど放課後だけは学校に来て、私の練習に付き合ってくれていた。
「うん、いいね」
アルクスは水晶を覗き込みながら言った。
「だいぶ安定したんじゃない?」
水晶を覗き込むと、最初の頃とは比べものにならないくらい、銀色の魔力が綺麗な円を描いていた。もちろん、まだアルクスのような完璧な円ではない。けれど確実に成長している。
「本当にアルクスって教えるのが上手だよね。正直、二週間でこんなにうまくなるなんて思ってもなかった。本当にありがとう!」
「よかったよ」
アルクスは嬉しそうに笑った。
「これなら試験もどうにかなりそうだね。勉強の方も順調なの?」
「うん。勉強はリタっていう子に見てもらってて、かなり上位を狙えそう!」
「それなら安心だね。せっかく同じクラスなのに、スピカがAクラスとかに下がっちゃうのは嫌だし」
いやいや。そもそもアルクスは授業に来ていないのだから、あまり関係ないのでは?
この学校では年に二回、試験が行われる。魔法と学力の総合成績によってクラスが分けられているため、試験後には必要に応じてクラス替えも行われるのだった。
「まあ俺も、落ち着いたら授業に出ようと思っているから。クラスでもよろしくね」
「うん、待ってるよ」
◇◇◇
昨日、アルクスとの練習を終えた後、彼から、この先一週間ほどは仕事が忙しく、学校には来られないと言われていた。
そのため、しばらくはこれまでの練習を一人で復習することになる。
しかし今日は、迎えの馬車の時間を使用人に伝え忘れてしまった。そのせいで、昨日と同じ時間に馬車が迎えに来ることになっている。
水晶を学校に持ち歩くわけにもいかないため、迎えの時間まで二時間ほど暇になってしまった。
「図書室で勉強でもしようかな」
そう思い、図書室へ向かっていた時だった。廊下の先に、見覚えのある背の高い男性の姿が見えた。
「あ!」
私は思わず声を上げる。
「グレヴァードさん!」
名前を呼びながら駆け寄ると、彼は振り返り、優しい笑顔を見せた。
「スピカさん。無事に入学できたんですね。学校生活は楽しいですか?」
「はい! すごく楽しいです!まだまだ魔法については勉強中ですが、毎日とっても楽しいんです!」
「それはよかったです」
グレヴァードさんは、安心したように微笑んだ。
「もしお時間があれば、私の研究室を覗いてみませんか?実は私は学校の一室を研究室として借りているんです。このところ討伐隊の仕事が多く、研究室に戻ってきたのも久しぶりなので、あまり綺麗ではないですが……」
「え!? いいんですか!?ぜひ見せていただきたいです!」
「では、こちらへどうぞ」
そうして案内された研究室に入ると――。
「わあ……」
思わず声が漏れた。机の上には、魔道具の材料になりそうな様々な道具。魔力の入った色とりどりの小瓶。薬草のような植物。それらが大きな机を覆い尽くすように、無造作に置かれていた。
「ははは……」
グレヴァードさんは少し恥ずかしそうに笑う。
「あまり整理整頓ができておらず、お恥ずかしい限りです。今片づけますので、スピカさんはこちらにおかけください」
近くの椅子へと案内され、私は席に着いた。壁にもあちらこちらに設計図のようなものが貼られている。彼がどれほど研究熱心なのかが伝わってきた。
グレヴァードさんは私の学校生活や魔法について尋ねながら、器用に魔法を使って部屋を片づけていく。光魔法の使い手のはずなのに、物が一瞬で移動し、机の上がどんどん綺麗に整理されていく。その光景は、見ているだけでも楽しかった。
「グレヴァードさんは、光魔法を使う時、どんなことを考えているんですか?」
私は気になっていたことを尋ねた。もしかしたら、自分の魔法の練習にも役立つかもしれない。
「そうですね……」
グレヴァードさんは少し考える。
「私は光魔法は、なんでもできる魔法だと思っています。例えば、今の整理だってそうです。光の速度で物を動かしているだけなんですよ。誰もがイメージしている光魔法というものは、回復のイメージが強いと思います。ですが、私にとっての光はもっと広いものなんです。もちろん、回復というイメージも持っていますから、回復魔法も使えますが」
「すごい!」
私は思わず目を輝かせた。
「本当に魔法って、イメージさえできていれば形にできるんですね!」
「そうですよ」
グレヴァードさんは微笑んだ。
「そこが魔法の楽しいところだと思います」
ふと、グレヴァードさんの手元へ視線を落とす。すると、彼の長い指にはいくつもの指輪がついていることに気づいた。それぞれ異なる色の石がはめ込まれていた。
「あれ……? グレヴァードさん、指輪なんてしていましたっけ?」
「ええ。これは実は魔道具なんです」
彼は自分の指輪を見せながら答えた。
「魔力を制限したり、逆に増幅させたり……。私自身、魔道具の生成も行っていますので、正常に機能するかどうかを自分で装着して試しているんですよ」
「わあ! すごい!」
「本当にグレヴァードさんって、なんでもできるんですね!」
「そんなことはありませんよ」
彼は小さく笑った。
「まだまだです。もっと力をつけなければ、守れるものも守れないと思うので」
そう言った彼は、一瞬だけ寂しそうな表情を見せた。まるで、何か大切なものを失ったことがあるかのように。
「あ」
グレヴァードさんが時計へ視線を向ける。
「もうこんな時間ですね。あまり遅いと、マーチャー様が心配するのでは?」
時計を見ると、すでに馬車が迎えに来る時間だった。
「大変! もうこんな時間!」
私は慌てて立ち上がる。
「グレヴァードさん、今日はありがとうございました!私、もっと魔法が上手くなりたいので頑張ります!」
「ええ」
グレヴァードさんは優しく微笑んだ。
「あなたの活躍を楽しみにしています」
グレヴァードさんと別れ、私は馬車へと向かった。
◇◇◇




