初めての両想い
それからというもの、俺はスピカが何をしたら喜ぶのか。そんなことばかり考えるようになっていた。
どうにかして彼女の気を引きたい。どうにかして、俺のことをもっと見てほしい。
そこで俺は思いついた。
最近習得したばかりだが、俺が自分の魔力を凝縮して作る――魔石。これを、スピカにあげよう。
さっそく手のひらに魔力を集中させる。少しずつ、慎重に……魔力を一つの形に集めていく。
「……できた」
手を開とそこには、小さな石があった。半透明で、俺の魔力と同じ金色。小さいけれど、確かに魔石だった。
これをスピカにあげたら、どんな顔をするだろう。この石を見るたびに、俺に会えない時も、スピカが俺のことを思い出してくれたらいい。そんな願いを込めながら。
◇◇◇
その日は、また社交パーティーだった。パーティーが開かれるたび、俺はまず招待客のリストを確認する。
「キャンベル……キャンベル……」
何度も確認する。
「……ない」
今日はスピカは来ないようだった。その瞬間から、会場に入ってからの記憶はほとんどない。いつものように人が集まり、いつものように笑顔を作り、いつものように会話をする。
けれど、俺には、スピカのいない社交パーティーなんて、色のない世界に見えた。
そんな頃、コーネリアと出会った。
彼女もまた、俺の身分や家柄ではなく、俺自身を見ようとしてくれる人だった。
身分や肩書きだけを見て近づいてくる人間を嫌っていた俺にとって、コーネリアといる時間は不思議と楽だった。
だから、スピカがいないパーティーでは、俺たちは自然と一緒に過ごすようになった。
ただ、そんな俺たちの姿を見た周囲から、いつの間にか婚約の噂まで流れるようになった。
もちろん、そんな事実はない。
けれど、その噂を聞いた俺は、少しでも俺に近づいてくる令嬢が減るなら、それでいいと思った。
だから、わざわざ否定することもしなかった。
◇◇◇
ある日、いつも通りに討伐隊の本部へ行くと、スピカの姿があった。それだけで心が弾む。
「スピカ!」
「アルクス!」
俺が名前を呼ぶと、彼女はすぐに俺の名前を呼び返してくれる。そんな当たり前のことが、たまらなく嬉しかった。
「ねえ、今日は君にプレゼントがあるんだ」
「なあに?」
「これ」
小さな箱を差し出す。中には、もちろん俺が作った魔石が入っている。
「開けていい?」
「うん」
初めて彼女にプレゼントを贈る。スピカはどんな顔をするだろう、少し緊張しながら、彼女を見つめた。
箱が開いた次の瞬間。スピカは目を見開いた。ぱっと、まるで花が咲き誇るような笑顔を見せた。
「素敵……!」
その表情を見た瞬間。どくん、と心臓が大きく跳ねた。
「なんか、アルクスの瞳の色に似てない?」
「うん」
俺は少し照れながら答える。
「実は、僕が作った魔石なんだ」
「ええっ!?」
スピカは驚いたように魔石を見つめる。
「アルクスが作ったの?」
「うん」
「すごい……!」
その瞳が、魔石よりもずっと輝いて見えた。
「だから」
少し恥ずかしくなる。それでも伝えたかった。
「僕に会えない時も、これを見て僕のことを思い出してくれたら……嬉しい」
「……」
スピカが黙る。
(あれ? もしかして、嫌だった?)
少し不安になり、彼女の顔を見る。しかし思っていた反応とは全く違っていた。スピカは真っ赤になっていた。
耳まで赤く染めて。恥ずかしそうに視線を逸らしている。
「……ありがとう」
か細い声で彼女は言う。
「スピカ?」
「こんなのなくても」
彼女が小さく呟く。
「……え?」
「こんなのなくても、いつもアルクスのことで頭がいっぱいだよ」
「……?」
一瞬、意味がわからなかった。彼女が、俺の言葉に照れている。
だって、スピカが好きなのは、グレヴァードだと思っていた。
「もしかして」
俺は彼女の顔を覗き込む。
「スピカ、照れてる?」
「当たり前じゃん……」
「なんで?」
思わず聞いてしまう。
「だって」
彼女はさらに顔を赤くした。
「アルクスに、そんな風に言われたら照れるよ」
「なんで?」
「……だから」
スピカは少しだけ俺を見た。
「アルクスのことが好きだからだよ」
「――っ」
頭が真っ白になった。スピカが、俺のことを好き? 胸の奥が一気に熱くなる。
顔も熱い。きっと今、俺も真っ赤になっている。
「……僕も」
「ん?」
スピカが首を傾げる。俺はもう一度、必死に言葉を絞り出した。
「僕も……スピカのことが好き」
「……!」
二人の間に沈黙が落ちた。スピカの顔がさらに赤くなる。俺も恥ずかしくなって、視線を逸らした。
「……」
「……」
しばらく、誰も何も言えなかった。そして、そっと視線を戻すと。スピカが、嬉しそうに笑っていた。
その笑顔を見た瞬間、俺は思った。
――これから先も、ずっと。この笑顔を見ていたい。
誰よりも近くで、誰よりも長く、スピカの隣にいたいと。
あの時の俺は、まだ知らなかった。
この小さな恋が、これから先、俺の人生そのものを変えてしまうことを――。




