意識すると恥ずかしい
――休日。
私はアルクスと街へ買い物に来ていた。今日は、いつものデートよりも動きやすい格好をしている。
なんといっても今日は、収穫祭という大きなイベントの日なのだ。街にはたくさんの屋台が並び、普段は見かけない食べ物や雑貨、宝石などが所狭しと並んでいる。
たくさんのお店を見て回りたい。そう思った私は、アルクスにも「今日は動きやすい格好で来てね」とお願いしていた。
「わあ……すごいね。見たこともない食べ物がたくさんある!」
「そうだね。隣国からも商人が来ているみたいだから、確かに見慣れないものも多いね」
「へぇ。アルクスでも知らないことがあるんだね」
「まあ、別に勉強が元々好きなわけじゃないからね」
「そうなの?」
「ああ」
アルクスは学校への登校を免除されている。そのためには特別な試験に合格する必要があるらしく、その内容は高等部卒業レベルの知識が必要なのだという。
それなのにアルクスは、中等部へ入学する頃にはその試験を軽々と合格してしまったらしい。
そんな彼が「勉強は好きじゃない」と言うのだから、なんだか不思議な気持ちになる。
「ねえ、見て! あれ食べてみない?」
私は楽しそうな屋台を指差した。そこには、色とりどりの果物が飴でコーティングされていて、まるで宝石のようにきらきらと輝いている、飴屋さんだった。
「ああ、いいね。行こう」
そういって、アルクスは自然に私の手を取った。それだけで胸が少しだけ高鳴る。
「すみません、これください」
アルクスと繋いでいない方の手で商品を指差す。
「おお、手を繋いで仲良しだね! 一本おまけだよ!」
店主は、笑顔で私たちに一本多く渡してくれた。
「ありがとうございます!」
私は嬉しくなってお礼を言った。
「ラッキーだったね!」
アルクスにそう言いながら、一本を彼に渡す。
さっそく食べてみると、飴の甘さと果物の酸味が絶妙に合っていて、とても美味しかった。
「ねえ、アルクスのはどんな味?」
「ん? 食べる?」
そういって、アルクスは自分が持っていた飴を私の方へ差し出した。
「いいの?」
「どうぞ」
私は何のためらいもなく、その飴に口をつけた。ぱくり、と一口かじる。
「んー! おいしい! 私のとはまた違った酸味かも!」
口の中に広がる爽やかな味に夢中になりながら、私は嬉しそうに声を上げた。
「ねえ、よかったら私のも食べてみて!」
そういって、自分の持っていた飴をアルクスに差し出す。
そこで――ふと気づいた。……あれ? さっき、私、アルクスの食べていた飴を食べたよね? そして今、アルクスに私の飴を食べさせようとしている。これって……。
「――っ!」
間接キス!?
そう気づいた瞬間、一気に顔が熱くなる。どうしてさっきは何も考えずに食べてしまったのだろう。アルクスがあまりにも自然に差し出してくれたから、つい普通に受け取ってしまった。
でも、改めて考えてみると、とんでもなく恥ずかしい。私の差し出した手のすぐ近くまで、アルクスの顔が近づいていた。
私の持っている飴を頬張ろうとしている彼を見て、余計に恥ずかしくなってしまう。思ったより大胆なことをしてしまった……。
そして、アルクスが飴を口にしようとした瞬間、私は慌てて手を後ろへ引いた。
「は?」
「やっぱり無理!」
「なんで?」
「だ、だって……!」
間接キスなんて意識してしまったら、もう無理に決まっている。だけど、そんなことを素直に言えるはずもない。
「はい! もし食べたかったら、これ自分で食べて!」
私は飴をアルクスに押しつけるように渡した。きっと今、私の顔は真っ赤に染まっているに違いない。
「やだ。このままもらう」
「え?」
そういった次の瞬間、アルクスは私が持っていた飴に、ぱくりと口をつけた。
「~~~っ!」
私の指先が熱くなる。さっきまで何も気にしていなかったのに、一度意識してしまったせいで、もう何もかもが恥ずかしい。
「ふふ、おいしいね」
アルクスは、そんな私の様子を見ながら楽しそうに笑っていた。
きっと彼は、私が間接キスに気づいたことも、恥ずかしがっていることも全部わかっているのだろう。
そう思うと余計に悔しい。
「アルクス……絶対わざとでしょ」
「何が?」
「もういい!」
「はは」
楽しそうに笑うアルクスを横目に、私はしばらく顔の熱が引くことはなかった。アルクスは、そんな私の様子を楽しそうに眺めながら笑っていた。




