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特別な笑顔

 ――十二月。


 試験も無事に終わり、十二月は収穫祭やクリスマスなど、イベントが盛りだくさんだ。試験前まで張り詰めていた教室の空気もすっかり和らぎ、あちらこちらで楽しそうな話し声が聞こえていた。


 しかし、私はあることに気づいてしまった。


「……なんか、カップル多くない!?」


 そう、教室を見渡せば、男女二人組で楽しそうに話している生徒がやたらと多いのだ。

 何でこんなことになっているのだろう?そう思っていると、ちょうどリタが登校してきた。何やら手には、小さな包みのようなものを持っている。


「リタ、おはよう。それ、どうしたの?」

「スピカ、おはようございます……。あの、実は……」


 なぜかリタの歯切れが悪い。よく見ると、頬がほんのり赤く染まっていた。


 リタは酒屋の娘で、時々お母さまのお店を手伝っている。

 先日、お店があまりにも忙しかったため、助っ人として同級生の男の子が手伝いに来てくれたらしい。その男の子は常連客の息子さんで、お店が忙しい時には度々手伝いに来ていたのだという。


 そして今日――。

 その男の子から告白され、プレゼントまで渡されたらしい。


「ええ!? いつの間に!?」

「本当ですよね……。まだ出会って二週間くらいなのですが……」


 リタは恥ずかしそうに視線を逸らす。そして、小さな声で言った。


「……彼氏が、できてしまいました」

「――!?」


 一瞬、言葉を失った。しかし次の瞬間には、思わず笑顔になっていた。


「おめでとう!」


 親友に初めての恋人ができた。それが純粋に嬉しかった。いつも私の背中を押してくれるリタ。

 私が悩んでいる時も、泣いている時も、いつだってそばにいてくれた。そんなリタには、絶対に幸せになってほしいと思っていたからだ。


「今度、スピカにも紹介させてください」


 そういって、リタは幸せそうに笑った。


「ぜひ紹介して! リタの初めての彼氏なんて、私が会わないわけにはいかないもの!」

「ふふっ」

「なに?」

「いえ、なんでもありません」


 二人で顔を見合わせ、笑い合った。


「そういえば、リタもそうだけど……最近、恋人ができる波でも来てるの? なんか学校全体でもすごくない? 男女のペア率が!」

「ああ、それはそろそろデビュタントが近いからではないでしょうか?」

「……あ」


 そうだ、デビュタント。私は完全にその存在を忘れていた。


「忘れてた……」

「スピカは忘れているだろうと思っていました」


 リタは予想通りだと言わんばかりに微笑んだ。


 冬休みもあるし、十二月はイベントも多い。せっかくなら恋人と過ごしたいと思う人も多く、この時期に恋人同士になる生徒が増えるのだという。


「じゃあ、リタはもちろん彼氏と出るんだもんね?」

「まだわかりませんが……おそらく」


 そういって、また頬を赤く染めた。いいなぁ。なんて思っていた時だった。

 ふと、自分の置かれている状況に気づく。


「あれ……? 私、パートナー決まってない……もしかして出遅れてる?」

「え? アルクス様ではないんですか?」

「うん。だって誘われてないし。アルクス、パートナーはもういるって言って、ほかの人の誘いも断ってたんだよね」


 そう。以前、女の子たちからデビュタントのパートナーについて聞かれた時、アルクスは確かにそう言っていた。

 あの時の私は、コーネリア様が婚約者だと思っていた。だから当然、コーネリア様と踊るのだと思っていたのだけれど……。


 違うとすれば、一体、誰と踊るつもりなのだろう。


「直接聞いてみた方がいいかもしれませんね」

「そうだね」


 もう以前のように、一人で勝手に勘違いをしてすれ違うのは嫌だった。ちゃんと本人に聞こう。そう思った。



 ◇◇◇


 ――次の日。


 アルクスは午後から登校してきた。試験後は顔を合わせていなかったせいか、久しぶりに見る彼がやけに眩しく感じる。


 長く続く廊下の向こう側。たくさんの生徒がいる中でも、なぜか彼の姿だけはすぐに見つけられてしまう。


 アルクスは相変わらず女の子たちに囲まれていた。完璧な笑顔を浮かべながら、彼女たちの話を軽くかわしている。

 すると、長い廊下の先にいる私に気づいたらしい。アルクスは片手を上げ、こちらに笑顔を向けた。


『おはよう』


 声は聞こえなかったけれど、確かにそう口が動いた。その笑顔は、さっきまで女の子たちに向けていたものとは違う。ほんの少しだけ柔らかくて。ほんの少しだけ特別な笑顔。それだけで、胸が高鳴ってしまった。


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