小さな星の力
――冬の試験当日。
朝、登校してすぐ、私はリタと試験に出そうなところについて作戦会議をしていた。
アルクスは試験を免除されているため、もちろん今日は学校に来ていない。仕事があるため、今日は会えないのだそうだ。少し残念に思いながらも、今日は試験に精一杯集中しようと気持ちを切り替えた。
そして――。
午前中の筆記試験が始まった。迷わず答えられる問題もあれば、答えが思い出せず後回しにする問題もある。まずは一通り問題を解いていく。
(うん、悪くないと思う)
――キーンコーンカーンコーン。
試験終了の鐘が鳴り響いた。
「リタ、どうだった?」
試験会場を出るなり、私は隣にいたリタに尋ねた。
「はい。今回も問題なさそうです」
「さすがすぎる……。私は四問目と七問目がよく分からなくて……」
「ああ、あそこは引っかけ問題ですね」
「えっ……」
リタの言葉に嫌な予感がする。
「あぁ……じゃあ私、きれいに引っかかったかも……」
「ふふ。でも他の問題ができていれば大丈夫ですよ」
慰めるようにリタが笑う。その後、リタと昼食を済ませると、いよいよ実技試験の時間がやってきた。
今回の課題は、以前授業中にオリバー先生から出された『四角い石を丸くする』というものだった。
ちなみに、光魔法など回復魔法を専門としている生徒には、それぞれの属性に合わせた別のお題が与えられているらしい。
私はあの日からずっと、この課題について考えていた。そして、アルクスと訪れたプラネタリウムで星を見た時、ようやく自分なりの答えを見つけたのだ。
順番に名前が呼ばれ、生徒たちが一人ずつ実演していく。
以前の授業では、ただ石に火を当てるだけだった火属性の生徒も、今日は違った。石を包み込むように高温の炎を操ると、石は徐々に赤く熱せられ、やがて柔らかくなっていく。そして魔力を細かく操りながら形を整えると、あっという間に丸い石へと変化させてみせた。
「すごい……」
思わず声が漏れる。
次の水属性の生徒は、激しい水流を石の周囲に渦巻かせた。高速で回転する水が石の角を少しずつ削り取っていく。時間をかけて丁寧に削られた石は、滑らかな丸い形になっていた。
そして、中でも驚いたのは土属性の生徒だった。石に手をかざすと、硬かったはずの石がまるで粘土のように柔らかく変化する。生徒が手を動かすたびに石の形も変わり、最後には見事な球体になっていた。
一人ひとりの実演が終わるたび、教室には拍手と歓声が響き渡る。同じ『石を丸くする』という課題。けれど、その方法は誰一人として同じではなかった。
火には火のやり方があり、水には水のやり方がある。それぞれが自分の持つ属性と向き合い、自分だけの答えを導き出している。
(魔法って、本当にすごい)
その無限の可能性に、胸の高鳴りを抑えることができなかった。
そして――。
「スピカ・キャンベル」
「はい」
ついに私の名前が呼ばれた。私は前へ進み、用意されていた四角い石を手に取る。深く息を吸い、目を閉じる。
(石の中心に……星がある)
小さな、小さな星。けれど、強い力を持つ星。その星が、すべてを中心へと引き寄せている。
石の角も、表面も、すべてが、その中心へ向かって引かれていく。
すると――。ゆっくり、けれど確実に石の形が変化していく。四角かった角が少しずつ内側へ引かれ、表面が均されていく。
「……できた」
私の手の中には、きれいな丸い石があった。
一瞬の静寂があった、次の瞬間――。
「おお!」
「すごい!」
教室中から拍手と歓声が巻き起こった。私は思わず、その石をじっと見つめる。
(できた……)
以前の私だったら、きっとできなかった。ただ物を引き寄せるだけだと思っていた自分の魔法。
けれど、考え方ひとつで魔法には無限の可能性が広がっている。私は魔法を知るたび、新しい自分を知っていく。そのたびに思うのだ。魔法使いになれてよかった、と。
胸の奥から湧き上がる喜びを感じながら、私はもう一度、手の中の丸い石を見つめた。




