↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/56

まっすぐな気持ち

 アルクスと一緒にプラネタリウムを出ると、私は興奮気味に言った。


「なんか、すごかったね! 勉強にもなったし、すごく楽しかった! 試験のイメージもできたかも!」

「それはよかった」


 アルクスは優しく微笑む。


「なんか、春の大三角の話」

「うん?」

「私のスピカと、アルクスに似た名前が出てきたから、ちょっとびっくりしちゃった!」

「……そうだね」


 その瞬間、アルクスの表情が、ほんの少しだけ変わった。誰かを思い出すような、何かを懐かしむような。そして、ほんの少しだけ、寂しそうにアルクスは笑った。



 ◇◇◇


 その後は私の体調も考え、少し街を歩いた後、家へ帰ることになった。

 帰りの馬車で、アルクスが、私の髪についた星の意匠の髪飾りにそっと触れる。


「これ、つけてくれたんだね」

「うん!」

「ありがとう」

「お守りなんでしょ?」

「そうだよ」


 アルクスは微笑む。


「お守り」


 ふと、私は気になっていたことを思い出した。


「ところで、これってなんの魔道具なの?」

「……?」


 アルクスがきょとんとする。


「魔道具?」

「うん」

「違うよ」

「え?」

「ただの髪飾り」

「ただの……?」


 私は思わず髪に触れた。

 狩猟大会の日、アルクスはこれを渡して『お守り』だと言った。だから私は勝手に、何か特別な魔法が込められた魔道具なのだと思っていた。


「そうだったんだ!」

「うん」

「なんかの魔道具なのかと思ってた。効果を聞くまで大切に保管してたんだよ!」


 するとアルクスは、小さく笑った。


「ふふ」

「なに?」

「別に」


 彼は私の髪に触れる。


「魔法なんかなくても、お守りになるものってあるでしょ?」

「……そうかな?」

「そうだよ。じゃあ、今度からはたまにでいいからつけてね」

「うん!」


 私がそう答えると、アルクスは、どこか安心したように笑った。


 そんな会話をしているうちに、馬車はキャンベル家へと到着した。


「着いちゃったね」


 窓の外に見慣れた屋敷が見えると、途端に寂しい気持ちになる。楽しい時間は、どうしてこんなにもあっという間なのだろう。


「今日はありがとう、アルクス」

「うん。スピカが楽しそうでよかった」

「プラネタリウムも楽しかったし、星の話も聞けたし……試験のヒントも見つかった気がする!」

「それはよかった」


 アルクスはいつものように優しく笑った。馬車を降りれば、今日のお出かけも終わり。また次に会えるのは学校だ。

 そう思うと、胸の奥がきゅっと締めつけられる。私は馬車を降りようとして――ふと、アルクスの方を振り返った。


「ねえ、アルクス」

「ん?」

「今日、一緒にいて……もっと好きになった」


 アルクスの目が、わずかに見開かれる。私は少しだけ恥ずかしくなりながら、それでも笑った。


「大好き」


 先日の告白の返事が欲しいわけではない。今すぐ、アルクスに同じ気持ちを返してほしいわけでもない。

 ただ今日一日、一緒に過ごして、優しくしてもらって、たくさん笑って、また一つ、アルクスのことを好きになった。その気持ちを、どうしても伝えたかっただけだ。


 アルクスは、まるで私の気持ちを、すべて理解しているかのような優しい目で、しばらく私を見つめていた。


「……ありがとう」


 その声はとても優しかった。


「うん」


 私は笑って頷く。アルクスはそっと私の頭を撫でた。


「またね、スピカ」

「うん。またね、アルクス」


 馬車を降り、屋敷へ向かう。何度も振り返りそうになる気持ちを抑えながら歩いていると、背後で馬車がゆっくりと動き出す音がした。


 今日も、帰りは少し寂しい。

 でも右手にはアルクスからもらったブレスレットがある。

 髪には、彼からもらった髪飾りがある。耳にはお揃いのピアスが揺れている。


 そして胸の中には、今日一日でさらに大きくなった気持ちが残っていた。


「……大好き」


 誰にも聞こえないような小さな声で、もう一度だけ呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。