まっすぐな気持ち
アルクスと一緒にプラネタリウムを出ると、私は興奮気味に言った。
「なんか、すごかったね! 勉強にもなったし、すごく楽しかった! 試験のイメージもできたかも!」
「それはよかった」
アルクスは優しく微笑む。
「なんか、春の大三角の話」
「うん?」
「私のスピカと、アルクスに似た名前が出てきたから、ちょっとびっくりしちゃった!」
「……そうだね」
その瞬間、アルクスの表情が、ほんの少しだけ変わった。誰かを思い出すような、何かを懐かしむような。そして、ほんの少しだけ、寂しそうにアルクスは笑った。
◇◇◇
その後は私の体調も考え、少し街を歩いた後、家へ帰ることになった。
帰りの馬車で、アルクスが、私の髪についた星の意匠の髪飾りにそっと触れる。
「これ、つけてくれたんだね」
「うん!」
「ありがとう」
「お守りなんでしょ?」
「そうだよ」
アルクスは微笑む。
「お守り」
ふと、私は気になっていたことを思い出した。
「ところで、これってなんの魔道具なの?」
「……?」
アルクスがきょとんとする。
「魔道具?」
「うん」
「違うよ」
「え?」
「ただの髪飾り」
「ただの……?」
私は思わず髪に触れた。
狩猟大会の日、アルクスはこれを渡して『お守り』だと言った。だから私は勝手に、何か特別な魔法が込められた魔道具なのだと思っていた。
「そうだったんだ!」
「うん」
「なんかの魔道具なのかと思ってた。効果を聞くまで大切に保管してたんだよ!」
するとアルクスは、小さく笑った。
「ふふ」
「なに?」
「別に」
彼は私の髪に触れる。
「魔法なんかなくても、お守りになるものってあるでしょ?」
「……そうかな?」
「そうだよ。じゃあ、今度からはたまにでいいからつけてね」
「うん!」
私がそう答えると、アルクスは、どこか安心したように笑った。
そんな会話をしているうちに、馬車はキャンベル家へと到着した。
「着いちゃったね」
窓の外に見慣れた屋敷が見えると、途端に寂しい気持ちになる。楽しい時間は、どうしてこんなにもあっという間なのだろう。
「今日はありがとう、アルクス」
「うん。スピカが楽しそうでよかった」
「プラネタリウムも楽しかったし、星の話も聞けたし……試験のヒントも見つかった気がする!」
「それはよかった」
アルクスはいつものように優しく笑った。馬車を降りれば、今日のお出かけも終わり。また次に会えるのは学校だ。
そう思うと、胸の奥がきゅっと締めつけられる。私は馬車を降りようとして――ふと、アルクスの方を振り返った。
「ねえ、アルクス」
「ん?」
「今日、一緒にいて……もっと好きになった」
アルクスの目が、わずかに見開かれる。私は少しだけ恥ずかしくなりながら、それでも笑った。
「大好き」
先日の告白の返事が欲しいわけではない。今すぐ、アルクスに同じ気持ちを返してほしいわけでもない。
ただ今日一日、一緒に過ごして、優しくしてもらって、たくさん笑って、また一つ、アルクスのことを好きになった。その気持ちを、どうしても伝えたかっただけだ。
アルクスは、まるで私の気持ちを、すべて理解しているかのような優しい目で、しばらく私を見つめていた。
「……ありがとう」
その声はとても優しかった。
「うん」
私は笑って頷く。アルクスはそっと私の頭を撫でた。
「またね、スピカ」
「うん。またね、アルクス」
馬車を降り、屋敷へ向かう。何度も振り返りそうになる気持ちを抑えながら歩いていると、背後で馬車がゆっくりと動き出す音がした。
今日も、帰りは少し寂しい。
でも右手にはアルクスからもらったブレスレットがある。
髪には、彼からもらった髪飾りがある。耳にはお揃いのピアスが揺れている。
そして胸の中には、今日一日でさらに大きくなった気持ちが残っていた。
「……大好き」
誰にも聞こえないような小さな声で、もう一度だけ呟いた。




