星を見つめて
準備を終え、応接間へ向かう。そこでは父とアルクスが話をしていた。
「アルクス様、いつもスピカのことをすまないね」
父が申し訳なさそうに言う。
「いえ」
アルクスは穏やかに笑った。
「スピカさんは、僕にとって大切な子ですから」
――どくん。
そんな会話を聞いているだけで顔が熱くなる。
「おや、スピカ。準備ができたのかい?」
父が私に気づいた。
「うん!」
私はアルクスを見る。
「お待たせ、アルクス! 行こうか!」
「ああ」
私たちはドラート家の馬車へと乗り込んだ。
以前なら向かい合わせに座っていたのに、今では自然と、隣同士に座る。そんな小さな変化にも、私は嬉しくなってしまう。
そして今日のアルクスは――。とにかく、格好良かった。
「……」
思わず見つめてしまう。昨日、アルクスに聞かれたのだ。
『スピカって、どういう服装の男の人が好きなの?』
私はその時、特に深く考えずに答えた。白いシャツ。袖や襟元にはフリル。そして黒いパンツ。
以前読んだ恋愛小説に登場した男性を思い浮かべながら、かなり具体的に伝えてしまった。アルクスはその時、少し笑っていた。
そして今日、彼はまさに、私が話した通りの服装をしていた。白いシャツには襟元から胸元にかけてフリルが施されている。黒いパンツは、アルクスの長い脚をより一層際立たせていた。
「……」
やっぱり、かっこいい……。見れば見るほど格好良くて、直視するのが恥ずかしくなる。そんな私の視線に気づいたのか、アルクスは少し得意げな顔をした。
「どう?」
「……」
「似合ってる?」
「……最高です」
「ん?」
「完璧すぎて、直視できないかも」
すると、アルクスは楽しそうに笑った。そして突然、私の頬を両手で包む。
「な、なに!?」
「なんで?」
「え?」
「スピカのためにおしゃれしたんだから、ちゃんとよく見てよ」
「~~~っ!」
心臓がうるさい。
「なんで私の趣味に合わせてくれたの?」
なんとかそう聞くと、アルクスは当然のように答えた。
「そんなの、スピカが俺以外を見ないようにだよ」
「……っ」
もう無理だ。
「だめ……」
「なにが?」
「口から心臓が出てきそう……」
私が胸を押さえると、アルクスは楽しそうに笑った。
「スピカの心臓が出てきたら、その心臓まで俺のものになるね」
「え?」
一瞬、固まる。この前は監禁すると言われた。しかも、あれは半分本気だと言われた。
もしかして……。
「……アルクス」
「なに?」
「それも本気?」
すると、アルクスは呆れたように眉を下げた。
「冗談に決まってるじゃん」
「……ですよね」
「スピカは俺をなんだと思ってるの」
少しだけ怒られてしまった。
◇◇◇
今日の私の体調を考慮して、アルクスはプラネタリウムへ連れていってくれた。
今回のテーマは『冬の星特集』だった。
館内へ入り、席に座る。すると自然と、アルクスとの距離が近くなった。近い……近すぎる。
隣を見ると、アルクスもこちらを見ていた。目が合うと、何も言わずに、彼の手が私の手を絡め取った。
「……!」
そんな彼の行動に心臓がまたうるさくなる。
しばらくして、ショーが始まった。天井いっぱいに、夜空が広がる。
「わあ……」
思わず声が漏れた。そこには数え切れないほどの星が浮かんでいた。大きな星、小さな星。明るく輝く星、淡く光る星。
――夜空に浮かぶ星は、どうして丸いのだろう。大きな星も、小さな星も。なぜ、あんなにも綺麗な球体になるのだろう。
その時だった――。ふと、頭の中に一つのイメージが浮かぶ。
「……中心」
石の中心に、小さな星があると想像する。
小さな星だけど、すべてを引き寄せるほど強い力を持つ星。その力は、中心へ。すべてが中心へと引かれていく。もしかしたら、中心に引っ張られているから……星は丸くなるの?
そんなことを考えているうちに、ショーは進んでいった。
その後は係の人から、星や惑星について詳しい説明を聞いた。知らないことばかりで、とても面白い。
そしてショーの終わり際、係の人がこんなことを言った。
「来月からは春の天体ショーになります」
春……。
「春の大三角は、スピカとアルクトゥルス、デネボラを結んだ星です」
「……!」
思わず顔を上げる。
「皆さんにもぜひ見ていただきたいので、またいらしてくださいね」
私は思わず隣のアルクスを横目で見た。
スピカ、アルクトゥルス……。なんだか、私とアルクスの名前に似ている。
「……」
けれど、アルクスはどこか寂しそうな顔をしていた。まるで、遠い昔の何かを思い出しているような――。
その横顔を見つめていると、ふいにアルクスと目が合う。すると彼は、いつものように優しく微笑んだ。
「……どうしたの?」
「ううん」
私は首を横に振る。そして、アルクスの手を少しだけ強く握った。




