魔法は自由
――十一月。
今月は試験がある。最近は母のことや、十年前の出来事について調べることに時間を使っていたため、あまり勉強ができていなかった。
そんな私にリタは「勉強はいつでもできます。今、スピカがやるべきことを優先してください」と背中を押してくれていた。
しかし、試験まであと一週間。さすがに、もうなりふり構ってはいられない。今回も筆記試験と実技試験がある。筆記試験の方は、一週間猛勉強すればなんとかなるはずだ。
前回のように上位を狙うのは難しいかもしれないけれど……。
問題は、実技試験だった。先日、オリバー先生が授業中に一つの課題を出した。
「この四角い石を、魔法で丸い石に変えてみろ」
その言葉に教室中がざわついた。一見簡単そうに聞こえるが、実際にやってみるととても難しい。
火属性の生徒は、ひたすら石に火を当てていた。けれど、石が熱くなるだけで形が変わることはない。唯一、少し形を変えることができたのは雷属性の男の子だった。
雷の力で石の表面を少しずつ削り、完全な丸ではないものの、六角形のような形にすることができていた。
ちなみに、オリバー先生は風属性の魔法使いだ。
「俺は石を切れる」
そういうと、先生は風魔法を使った。
次の瞬間、四角かった石は、まるで最初からそうだったかのように綺麗な丸い石へと変わっていた。
「すごい……」
思わず声が漏れると、先生は得意げに笑った。
「魔法は自由だ」
教室中を見渡しながら続ける。
「自分がちゃんとイメージできていれば、実現することができる」
先生は丸い石を指先で転がした。
「風で石は切れない、なんて誰が決めた?」
その言葉に、教室が静かになる。
「自分の可能性を自分で狭めるなんて、もったいないことだ」
そして先生は楽しそうに笑った。
「だから今回の試験では、お前らの想像力を魔法で見せてくれ。楽しみにしている」
魔法は自由。イメージを形にする……。たしかにアルクスも以前、事実とは異なっていても、イメージがしっかりできれば魔法は実現できると言っていた。
イメージを膨らませる……。そして、ふと一つのことを思い出した。
私は引力魔法と言われているけれど、母は星属性の魔法使いだった。星と引力……。なにか関係があるのだろうか? もしかしたら、今の私にはまだ使えていない魔法があるのかもしれない。
「アルクスにも相談してみよう」
◇◇◇
――放課後。
「ねえ、アルクス。今度の試験の内容なんだけどね」
「ああ」
「四角い石を丸く変える魔法を見せてほしいんだって」
「へえ」
アルクスは少し感心したように笑った。
「オリバーもなかなか面白いこと考えるね」
「私の魔法って引力でしょ?」
「うん」
「母は星属性だったから、似たような魔法も使えるのかなって思って」
アルクスは少し考えるような仕草をした。
「ああ、使えると思うよ」
「本当に?」
「引力や重力っていうのは、星とも密接に関係しているから」
アルクスは私の目を見て言う。
「スピカがちゃんとイメージできれば、できないことなんてないと思う」
「……!」
その言葉を聞いて、少しだけ希望が湧いてくる。
「じゃあさ!」
私は勢いよく身を乗り出した。
「アルクスだったら、このお題を無属性でどうやって丸くするの?」
「それを考えるのが試験だろ」
「うぅ……」
即答で拒否された。
「ヒントくらいくれてもいいじゃん」
「じゃあ、見せるだけね」
そう言ってアルクスは、近くに落ちていた四角い石を拾った。
「俺ならこうする」
アルクスの手から淡い光が溢れる。そして石をぎゅっと握った。
次の瞬間――。
「え?」
硬いはずの石が、一瞬で丸くなっていた。
「なに今の!?」
思わずアルクスの手の中を覗き込む。そこには綺麗な丸い石があった。
「身体強化」
「えぇ?」
「一瞬だけ、俺の筋力を最大限まで上げただけ」
「それだけ!?」
「うん」
いや、それだけではないと思う。石を握り潰して丸くするほどの筋力って、一体どれほどなのだろうか。
「なんかもう、レベルが違いすぎるよ……」
私が肩を落とすと、アルクスは楽しそうに笑った。
「まあ、他にも思いつく方法はいくつかあるけど」
丸い石を私に放り投げる。
「俺の中では、これが一番簡単かな」
「簡単って……」
「スピカも想像力を膨らませれば、すぐできるよ」
彼は優しく微笑んだ。
「じゃあ、私の引力魔法だったらアルクスはどうする!?」
「だからそれを考えるのが試験だろ」
「うぅぅ……」
やっぱり教えてくれない。
「じゃあ」
アルクスがふと口を開いた。
「明日は街にデートに行こうか」
「え?」
「魔法のことばかり考えてても、いいアイデアが浮かぶとは限らないだろ」
そういって私を見る。
「外に出てみたら、何かヒントが見つかるかもしれない」
「いいの?」
「スピカが良ければ」
「嬉しい!」
思わずその場で飛び跳ねる。
「楽しみにしてるね!」
あまりにも嬉しくて、顔が緩んでしまう。
「……可愛すぎ」
「え?」
アルクスが小さく呟いた。私が顔を上げると、彼はとても優しい目でこちらを見つめていた。その視線に胸が高鳴る。
……本当に、どうしてこの人は、何気ない一言だけで私をこんなに幸せにするのだろう。明日の約束が、今から待ち遠しくて仕方なかった。




