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新しい憧れ

 ――次の日。


 学校でリタに会い、昨日のことを報告した。

 結果として返事は保留になってしまったものの、自分の気持ちをちゃんとアルクスに伝えることができた。

 それだけでも、今の私には十分すぎるほど嬉しかった。


 ふと右手に嵌められたブレスレットを見る。星を模した可愛らしい装飾。昨日まではなかったその存在が、まるで私を励ましてくれているようで、不思議と力が湧いてきた。


 そして今日も、アルクスは学校に来ている。


 昨日のデートの帰り道、私は最近アルクスが忙しかった理由を聞いた。

 どうやら、私に渡す魔道具をコーネリア様のお父様に依頼していたらしい。その代わり、ずいぶんと仕事を手伝わされていたんだとか。

 しかも魔道具の装飾にもかなりこだわったらしく、完成まで時間がかかってしまったそうだ。


 ……それなのに私ときたら。

 一人でやきもちを焼いて。一人で勝手に悩んで。一人で勝手にこじらせていた。

 私のために頑張ってくれていたアルクスを避けて、子供っぽい態度まで取ってしまった。


 昨日、そのことを素直に謝ると、アルクスは少しだけ笑って言った。


『スピカが、やきもちを妬く人の気持ちを少しでもわかったならいいよ』


 あの時の言葉を思い出し、少しだけ頬が熱くなる。


 ――昼食の時間。


「ねえ、アルクス!」

「なに?」

「今日のお昼、コーネリア様と一緒にご飯を食べない?」

「は?」


 アルクスがものすごく嫌そうな顔をした。


「なんであいつと?」

「私ね、コーネリア様に憧れてるの」

「絶対やめた方がいいよ。あの女だけは」

「そんなこと言わないでよ」


 そんなやり取りをしながら、私は高等部の校舎へ向かった。そしてアルクスは当然のようについてくる。


「アルクスは別に来なくてもいいんだよ?」

「なんで?」

「いや……高等部まで来なくても」

「スピカ一人で行かせる方が心配なんだけど」


 ……私は一人でどこへ行っても大丈夫なんだけどな。

 そう思いながらも、結局アルクスと一緒に高等部の教室へ向かった。


 教室の前に着くと、アルクスが中にいるコーネリア様を呼ぶ。しばらくすると、彼女が教室から姿を現した。そして廊下で待っていた私を見るなり、ふっと微笑む。


「よかったわね」


 その言葉だけで、昨日のことを察しているのだとわかった。


「はい」


 思わず笑顔になる。


「あの、実はコーネリア様にお礼を言いたくて。一緒にお昼ご飯を食べませんか?」

「ええ、もちろん」


 そう答えたあと、コーネリア様は隣にいるアルクスをちらりと見た。


「この執着男も一緒なのは癪だけれどね」

「は? 俺も用がなければ、お前とご飯なんて食べたくない」

「じゃあ来なければいいじゃない」

「スピカがいるから来るんだよ」

「……ほら、そういうところよ」


 二人のやり取りに、思わず笑みがこぼれた。遠くから見ると絵画から飛び出してきたような美男美女なのに、こうして話している姿を見ると、まるで兄妹喧嘩をしているようだ。なんだか微笑ましい。


 昼食を取りながら、私は改めてコーネリア様にお礼を伝えた。


「先日は、本当にありがとうございました」

「別に大したことはしてないわよ」

「でも、コーネリア様が背中を押してくれなかったら、私はまだ自分の気持ちを伝えられなかったと思います」


 そして、以前昼食の時に話した時のことも謝った。勝手に婚約者だと思い込み、彼女に対して少し冷たい態度を取ってしまったからだ。


「それに、あの時は嫌な態度を取ってしまってすみませんでした」

「そんなこと、気にしなくていいのに」


 コーネリア様はくすくすと笑った。


「恋をすると、人って少しくらい変になるものよ」

「そういうものなんでしょうか?」

「そういうものよ」


 彼女はどこか大人びた表情でそう言った。すると、突然こちらをじっと見つめてくる。


「でも、こんなにいい子はアルクスにはもったいないわね」

「は?」


 アルクスがすぐに反応した。


「なんでだよ」

「あなた、自分がどれだけ面倒くさい男か自覚ないの?」

「は?」

「執着するし、独占欲は強いし、すぐ嫉妬するし」

「……」


 反論できないのか、アルクスが黙る。


「そのうえ、スピカちゃんのことになると周りが見えなくなるし」

「……それは」

「ほらね」

「お前、昔から俺のこと悪く言いすぎなんだよ」

「事実でしょう?」


 また始まりそうな二人の言い争いに、私は思わず笑ってしまった。


「スピカちゃん」

「はい?」


 コーネリア様がこちらを向く。


「もし魔道具について興味があるなら、いつでも聞いてね」

「え?」

「私の家は魔道具を扱う商会を経営しているでしょう? 知識くらいならいくらでも教えてあげるわ」

「本当ですか?」

「ええ。なんでも聞いて」

「ありがとうございます!」


 思わず嬉しくなってしまう。魔法が好きな私にとって、魔道具のことを詳しく知れるなんてとても魅力的だ。


「なんか……」


 私は二人を見ながら、小さく笑った。


「憧れの人ができて嬉しいです」


 その言葉に、コーネリア様は少しだけ目を丸くした。


「……ふふ」


 そして優しく笑った。


「そう。じゃあ、これからもよろしくね」

「はい!」


 こうして私は、優しいお姉さまのような新しい憧れの人を見つけたのだった。



こちらで第六章完結となります!

ここまで読んでいただきありがとうございます。

ブックマークや評価、感想いただけると、とても励みになります!

引き続きスピカとアルクスの二人の物語を温かく見守っていただけると嬉しいです。


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