告白
――デート当日。
キャンベル家の玄関前に、一台の馬車が止まった。馬車には、もちろんドラート家の紋章が刻まれている。
今日の準備はばっちりだ。アンナが、いつも以上に気合を入れて準備してくれたのだ。
しばらくすると、使用人に案内されてアルクスが家の中に入ってきた。
今日の彼も、頭の先からつま先まで、見惚れてしまうほど格好いい。いつもより、すごくキラキラして見えた。
アルクスの姿を確認すると、私は嬉しくなって思わず駆け寄る。
「アルクス! 迎えに来てくれてありがとう!」
「うん。行こうか」
アルクスは父と挨拶を交わした後、私とともに馬車へ乗り込んだ。
「昨日の土砂降りで地面が緩んでるんだ。揺れて危ないから、こっちにおいで」
そういわれ、私はアルクスの隣に座ることになった。
……距離が近い。アルクスのホワイトムスクの香りがふわりと香る。それだけで、また心臓が忙しくなる。恋は本当に病気だ。
「なんか、今日のスピカ変だね」
アルクスが楽しそうにこちらを見る。
「まあ、そんなところも可愛いけど」
なんていって笑っている。その余裕の笑顔を見るたび、私は本当に今日告白できるのだろうかと少し不安になった。
しばらく馬車に揺られていると、目的地であるローズガーデンが見えてきた。
広大な敷地に、色とりどりの薔薇が咲き誇っている。世界各国から集められたのであろう珍しい薔薇たち。
魔法によって鮮度が保たれているため、本来の旬ではない季節でも美しい花を楽しむことができるのだ。
今日は休日だ。しかもデートの定番スポット。きっと混んでいるのだろうと思っていた。
しかし……。
「え……?」
来場者が一人もいない。
ゲートの前には、一枚の張り紙が貼られていた。
『本日貸し切り』
「貸し切り……?」
私は思わず呟いた。やってしまった。
まさか、この広大なローズガーデンを丸ごと貸し切る人がいるなんて思ってもみなかった。
恐る恐るアルクスを見る。すると彼は、まったく違和感のない様子で立っていた。
「じゃあ、行こうか」
「え?」
「スピカがデートって言ってくれたの、嬉しかったから」
アルクスはそういって、自然に私の手を取る。
「どうしても二人っきりが良くて。貸し切っちゃった」
「……」
次元が違いすぎる。本当に私は今日、この人に告白できるのだろうか……。
園内を歩き始めると、アルクスは薔薇にも詳しいことが分かった。
この薔薇はどの気候でしか育たない。この品種は魔法との相性が良い。この国では珍しい種類だ。次々と話してくれる。
アルクスの話はいつも面白い。私が知りたいこと、私が好きそうなこと。ちゃんと私に合わせて話題を選んでくれているのが分かる。
いつも隣にいて、私を楽しませてくれる。そんな彼に、また気持ちが募っていった。
そして園内を一通り回った頃。私は一つのカゼボを見つけた。白い柱には、たくさんの薔薇が絡みついている。
告白するには、あまりにも完璧な場所だった。
「ねえ、アルクス。ちょっとこっちに来て」
私は手招きをしてアルクスを呼ぶ。
「ん?」
「ここに立って」
「なに?」
不思議そうにしながらも、アルクスは私の言う通りにしてくれた。
私は一度、大きく息を吐いた。そして深呼吸をする。
「あのね、アルクス。聞いてほしいことがあるの」
「……うん」
アルクスも、普段の私と様子が違うことに気づいたのだろう。
一瞬で、その表情が真剣なものへ変わった。
私はアルクスの目を見つめる。手が震えている。身体はもう、緊張で熱かった。
でもどうしても自分の気持ちを伝えたかった。
「私、アルクスのことが好き」
声は震えていた。しかし、はっきりと。私は彼に思いを伝えた。
言ってしまった……もう後戻りはできない。
アルクスは、しばらく何も言わなかった。
驚いているのだろうか、それとも、困っているのだろうか。不安になり、恐る恐る彼の顔を見る。
すると、アルクスは、今まで見たことがないほど優しい顔をしていた。
嬉しそうで、だけど、どこか苦しそうな顔をしていた。
「……本当に?」
「うん」
「本当に、俺のことが好き?」
なぜそんなことを聞くのだろう。
「うん。本当だよ」
私はもう一度、彼の目を見つめた。
「いつも優しくて、私を大切にしてくれて」
言葉が溢れてくる。
「どんなことがあっても、私を包み込んでくれる。そんなアルクスが好き」
精一杯の気持ちを言葉にして伝える。
「そっか」
その声は、とても小さかった。
「……嬉しい」
胸が大きく高鳴った。
「でも、ごめん」
「え?」
「今は、返事できない」
予想していなかった言葉に、頭が真っ白になる。
「なんで?」
思わず聞いてしまった。アルクスは困ったように笑った。
「それは……まだ言えない」
「……」
「ちゃんと全部話せるようになったら、俺から言う」
そういって、アルクスは私の頭を優しく撫でた。
「だから、お願い」
「……うん」
「でも、返事の代わりにスピカに渡したいものがあるんだ」
アルクスは小さな箱を取り出した。
「スピカ、手を出して」
「うん」
私は言われるまま手を差し出す。アルクスは箱を開き、私の腕にそっとブレスレットを着けた。
その瞬間、私は目を見開いた。
「これって……」
そのブレスレットには見覚えがあった。
「スピカが欲しがってた魔道具だよ」
「え……?」
彼が私にくれたのは、狩猟大会で優勝できず、悔しい思いをして手に入れられなかった……あの魔力増加の魔道具だった。
けれど、大会の賞品とはデザインが違っている。小さな星をモチーフにした、美しいブレスレット。
「……可愛い」
思わず呟く。きっと、アルクスはあの時の私の悔しい気持ちを覚えていてくれたのだ。
そして、私のために、新しい形にしてくれた。
「あ……」
嬉しさが込み上げてくる。気づけば、涙が溢れていた。
「ありがとう……」
「うん」
「アルクス、ありがとう」
何度も、何度も、同じ言葉を繰り返した。
「ありがとう」
「うん」
「本当にありがとう……」
アルクスは、そんな私を静かに見つめていた。そして、そっと私の身体を自分の方へ引き寄せ、背中に腕が回る。
彼の香り、彼の体温、すべてが愛おしくて、たまらなかった。私もそっと、彼の背中に腕を回す。
するとアルクスは耳元で言った。
「もう少しだけ、待っててね」
とても優しい声で囁いた。




