星を見上げる約束
――放課後。
私は久しぶりに校舎の中を歩き、アルクスの姿を探していた。すると、中庭のベンチに見慣れた銀色の髪を見つける。
「アルクス」
声をかけると、彼はこちらを振り返った。
「……スピカ?」
「いた」
思わずそういうと、アルクスは少しだけ笑った。
「なにそれ」
「最近、全然会えなかったから」
私がそういうと、アルクスが少し嬉しそうにするけれど、それを隠すように目を逸らす。
また、以前のようにすぐに冗談を言うことはなかった。どこか元気がないように見える。
「アルクス、なんか元気ないね?」
「そう?」
「うん。なんかいつもより静か」
「気のせいじゃない?」
「そうかなぁ……」
私は隣に座りながら、ふと空を見上げた。
「あ、そうだ!」
「なに?」
「そんな時は空を見て!」
突然の言葉に、アルクスが怪訝そうな顔をする。
「今は秋だから、ちょうどこの真上くらいに私の星、スピカがあるの!」
「……スピカ?」
「そう! スピカってね、乙女座の星の名前なんだって!」
私は嬉しそうに空を指差した。
「私のお母さまがよく言ってたんだけど、お母さまは太陽だからいつも近くにいて、お空から見守ってるよって」
少し照れくさくなりながら笑う。
「だからアルクスも、元気がない時とか寂しくなったら空を見て」
「……」
「そしたらいつでも一緒だし、寂しくなくなるよ!」
しばらく返事はなかったが、隣を見ると、アルクスはなぜか私をじっと見つめていた。
「なに?」
「……ははっ」
突然、アルクスが小さく笑った。
「お前、本当変わんないね」
「え?」
「……眩しい」
「ん?」
私は首を傾げた。
「ごめん。私がちょうど影になってたから……動いたら眩しいよね?」
慌てて少し横に移動する。するとアルクスは、目を細め小さく笑った。
「そうだ!」
私は再び空を見上げた。
「春になったらさ、星を見ようよ!」
「……」
「今は見れないけど、春には私の星も夜空に輝くんだ!」
その瞬間、アルクスの表情がぴたりと止まった。
「……アルクス?」
笑っていたはずの顔から、すっと感情が消える。
「……」
何かを言いかけて、唇を噛む。そして長い沈黙の後、口を開いた。
「――れんなよ」
「え?」
彼の言葉は聞き取れなかった。
「今、なんて?」
「……別に」
アルクスは、ふいっと顔を逸らした。
「なんでもない」
そういった彼は、いつものような口調だった……。けれど、なぜだろう。
ほんの一瞬だけ、アルクスがひどく寂しそうに見えた。
そして、なぜだかアルクスのその表情が頭から離れなかった。




