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母のいた場所

 狩猟大会の日が近づいてきた、ある日の授業。今日は討伐隊について学ぶ授業だ。


 討伐隊は、その名の通り魔物を討伐する部隊である。この学校のすぐ隣には討伐隊の本部があり、魔力探知に魔物の反応が引っかかった時や、魔物の目撃証言があった場合、討伐隊がすぐに出動する。

 魔法には属性ごとの相性もあるため、基本的には四人から十人ほどで隊を組み、討伐にあたるらしい。


 魔法使いは魔物を討伐することで、この国の平和を守っている。だからこそ魔法使いは、この国にとって、とても重要な存在なのだ。


「じゃあ、これから討伐隊の本部へ見学に行くから、くれぐれも失礼のないように」


 先生の言葉に従い、私たちは学校のすぐ横に建てられた討伐隊本部へ向かうことになった。

 ちなみにこの日も、アルクスは不参加だった。「討伐隊の本部なんて、いつも行ってる場所だから」と言って、今日の授業はあっさりと休んでいた。

 

(……登校自体が免除されている人は自由でいいなあ)


 そんなことを考えているうちに、私たちは討伐隊本部へ到着した。


 建物は白を基調とした立派な造りで、門のすぐ横にはたくさんの馬が控えている。いつでも魔物の出現場所へ駆けつけられるよう、常に準備を整えているのだろう。


 建物の前に生徒たちが整列すると、一人の大柄な男性が姿を現した。背が高く、がっしりとした体格をしている。


「やあ、みんな。よく来てくれた」


 大柄な男の人は、口角を上げ笑った。


「俺は討伐隊隊長のエイダンだ」


 隊長……。思っていたよりも、ずっと気さくそうな人だ。


「君たち、未来の魔法使いたちに会えて嬉しいよ」


 エイダン隊長は私たちを見渡した。


「今日は討伐隊について知ってもらって、少しでも興味を持ってもらえたら嬉しい。施設内をたくさん見学していってくれ」


 そういって、大きく口元を横に広げ、歯を見せて笑った。その後は案内係の人に連れられ、施設内を見学することになった。


 外から見た印象よりも建物の中は広く、事務室のような部屋がいくつも並んでいる。

 そのほかにもトレーニング室、食堂、簡易宿泊施設。さらには、魔物を捕らえている部屋まであった。


 お母さまも討伐隊に所属していたと聞いている。もしかしたら、何かお母さまの痕跡が残っているかもしれない。そんなことを思いながら、私はつい辺りをきょろきょろと見回してしまった。


 魔物が捕らえられている部屋には、実際に何体もの魔物がいた。魔法を使えない特殊な鉄格子の中に入れられているらしい。魔法属性の研究に使われたり、狩猟大会用の魔物として使用されたりするのだという。


 やはり討伐隊の人たちが一緒だからだろうか。以前、初めて魔物を見た時ほどの恐怖は感じなかった。もちろん、角が生えていたり、鋭い牙を持っていたりと、その姿は十分に恐ろしかった。


 一通りの説明が終わると、最後にエイダン隊長が私たちの前に立った。


「今日は来てくれてありがとう」


 先ほどまでの気さくな雰囲気とは少し違う、真剣な表情だった。


「今日ここを見て、どう感じたかは人それぞれだと思う」


 エイダン隊長はゆっくりと言葉を続ける。


「俺たちの仕事は楽じゃない。危険も伴う」


 その声には、どこか重みがあった。


「俺は何度も経験したよ。昨日まで横で笑い合っていた仲間が、次の日にはいなくなっている――そんなことを」


 会場が静まり返った。


「それくらい厳しい世界なんだ」


 誰も言葉を発しない。けれど、エイダン隊長は少しだけ表情を和らげた。


「ただ、これだけは覚えておいてほしい」


 彼は私たちをまっすぐ見つめた。


「ピンチの時に真っ先に身体が動く。その行動は、自分の軸になっている気持ちの表れだ」


 ――自分の軸。


「守りたいものがある人もいるだろう、自分の力を示したい人もいるかもしれない。理由は人それぞれだ」


 エイダン隊長は優しく微笑んだ。


「だからこそ、その気持ちを忘れないでほしい」


 そして最後に、こういった。


「またこの場所で、君たちに会えることを楽しみにしている」


 エイダン隊長の言葉が、胸の奥に残った。自分が一番守りたいもの。

 ……うん。この国、家族。そして、大切な人たち。私は、みんなを守りたい。


 そんなことを考えていると、不意にエイダン隊長と目が合ったような気がした。

 気のせいだろうか……。


 見学が終わり、解散となったタイミングで、私はエイダン隊長にお礼を言おうと思い近づいた。


「あの、今日は素敵なお話をありがとうございました」


 するとエイダン隊長は、私の顔をじっと見つめた。


「ああ……もしかして、君はキャンベルさんかい?」

「え? なぜ私の名前を?」


 するとエイダン隊長は、どこか懐かしそうに微笑んだ。


「ララによく似ているね」


 ――お母さま? その言葉に、胸が高鳴った。討伐隊にはお母様がいたと聞いていた。けれど、実際にお母さまを知っている人に会えたのは初めてだった。


「そうです。スピカ・キャンベルと申します」

「スピカちゃん、か」


 エイダン隊長は、もう一度私の顔を見た。


「君はララに笑顔がそっくりだよ」


 そして少しだけ目を細める。


「ララは昔、私の隊の下で働いていたんだ」


 お母様と同じ隊……。


「君が元気そうで安心したよ。なんせ……色々あったからね」


 意味ありげな言葉だった。色々って……? 思わず聞き返そうとした時だった。


「ああ、すまない。これから会議があるんだ」


 エイダン隊長は困ったように笑った。


「また今度、ゆっくり話そう。また来てくれないか?」


 私は大きく頷いた。


「はい。ぜひ、よろしくお願いします」


 母のことをもっと知りたい。そう思った。私はエイダン隊長に挨拶をして、討伐隊本部を後にした。


 けれど――。『色々あったからね』その言葉だけが、いつまでも胸の奥に引っかかっていた。お母さまは、討伐隊で一体何を経験したのだろう。


 そんな疑問を抱きながら、私は討伐隊本部を振り返った。




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