少しだけ寂しい
次の日、学校にはアルクスの姿はなかった。
先生に聞いてみたところ、体調不良で寮で休んでいるとのことだった。体調の悪い中、ひとりで部屋にいるのかもしれない。そう思うと心配になり、様子を見に行くことにした。
――寮に着いたものの、男子寮には女子は入れないらしい。
それはそうか……。
諦めて帰ろうとしていたところ、廊下の向こうからオリバー先生が歩いてくるのが見えた。
「オリバー先生、あの……。ドラートくんのことが気になって来てみたんですけど……」
そういうと、オリバー先生はにやっと笑った。
「お前、やるなあ。俺が話をつけてやるから行ってこいよ。あいつも可愛い女子が来たら喜ぶだろうし」
「えっ……?」
何か勘違いしているな、と思ったものの、先生のおかげでアルクスの部屋まで行くことができた。
――コンコン。
ノックをしてみるものの、返事はない。
――コンコン。
もう一度、ドアを叩く。
「スピカです。アルクス、大丈夫?」
そう声をかけると、部屋のドアがゆっくりと開いた。部屋の中は薄暗く、アルクスはベッドに横たわっていた。私はベッドの傍まで歩み寄り、声をかける。
「アルクス、勝手なことしてごめん。体調が悪いって聞いたから、気になっちゃって……。大丈夫? どこか悪いの?」
アルクスは私を見ると、しんどそうに身体を起こした。
「お前……こんなところまで来たの?」
「うん……」
「ちょっと今日は魔力切れで動けないだけ。少し休めば元に戻るから」
アルクスの苦しそうな息が聞こえる。
「魔力切れって……。昨日言ってた仕事が関係しているの?」
「ああ。昨日は魔物の数が多くて、結構しんどかったんだよね」
「魔物!?」
アルクスが魔物と対峙していたという事実に、驚きが隠せない。すると彼は、言葉を続けた。
「ああ、俺、魔物の討伐の……討伐隊の仕事をしてるから」
「――!?」
討伐隊には、高等部卒業時に入るものだと授業で聞いた。それを、まだ中等部にいるアルクスが手伝っているなんて……。
以前アルクスが言っていた、無属性魔法の需要が高いという話。授業が免除になっていること、公爵家の子息なのに家ではなく寮に住んでいること。そのすべてが、妙に納得できた。
「大丈夫なの? たくさんの魔物と戦ったなんて……ケガとかは?」
「まあ、いつものことだし。相性のない俺の魔法は、どの魔物にも通用するから。それに昨日は回復のエキスパートが一緒だったからケガはない。ただ、ちょっと魔法を使いすぎてだるいだけ」
「そっか……。そんな大変な仕事だったなんて知らなかった……」
「心配するようなことでもないよ」
そういってから、アルクスは少しだけ嬉しそうに笑った。
「でも……びっくりしたな。まさかスピカの方から俺に会いに来てくれるとは思わなかったから」
「だって……昨日はまた明日って言ってお別れしたのに、今日は来てないし……。少し気になっただけだよ」
そういいながら、私は自分の胸の奥に生まれた小さな違和感に気づいていた。
今日一日、アルクスが隣にいなくて――寂しい。そう思ってしまった自分に、少し驚いた。
もしかしたら、自分が思っているよりもアルクスの存在は大きいのかもしれない。
「そう。まあでも、俺に会いたいと思ってくれた気持ちが嬉しいよ」
アルクスは優しく笑った。
「それに、スピカの顔を見たら元気出てきた」
「もう! 早く治して、また魔法を教えてね!」
「ああ。寂しがり屋のスピカちゃんのために頑張るよ」
そんなやり取りをして、アルクスの表情が少し明るくなったのを確認してから、私は寮を出た。
◇◇◇
――次の日。
アルクスは魔力も回復し、体調も治ったらしく、登校していた。
相変わらず、クラスも学年も違う女子たちに囲まれている。彼はいつものように、笑顔で彼女たちの相手をしていた。
「――アルクス様、最近学校に登校していることが多くて嬉しいですわ」
「私にも魔法を教えてほしいです」
「ぜひ今度、うちのパーティーにもいらしてください」
彼の周りを囲んでいるのは、おそらく貴族令嬢がほとんどなのだろう。なにやら、学校の外での交流に誘っている声も聞こえてくる。
「ありがとう。でも今は仕事が忙しいから。また機会があったらね」
そんな令嬢たちの誘いを、アルクスはすべて断っているようだった。中にはすごく可愛い子もいる。
こんな可愛い子たちに好かれるアルクスに、少し羨ましさすら感じた。令嬢たちが去ったのを確認して、私はアルクスに声をかける。
「アルクスって本当にモテるよね。なんか、ちょっと羨ましいかも……」
「まあね。っていうか、何? スピカはモテたいの?」
モテている自覚はあるようで、さらっと受け流す彼。すごい自信家だなぁ……。
「いや……モテたいというか、恋愛をしてみたいんだよね。ほら、本とかで恋愛ものを読むと胸がキュンってするじゃん? 実は私、まだああいうの経験したことなくてさ」
そういうと、アルクスは大きなため息をついた。
「……本当に俺って脈なしなんだね」
「え?」
「なんでもない」
その言葉は、私の耳には届かなかった。
「ねえ、じゃあさ。アルクスはそういう気持ちになったことがある?」
「あるよ」
さらっとそんなことを言うものだから、私の方がどきっとしてしまった。
こんなにかっこいい人にそんな風に思われたら、きっとその子もアルクスのことを好きになっちゃうんだろうな……。
「ねえ、アルクスのその話、もっと教えてよ!」
「絶対スピカには教えない」
そういった彼は少し不機嫌そうに見えた。




