第5話 無料の本
「……すごい」
未来は思わず立ち止まった。目の前には三階建ての巨大な本屋が建っている。
「こんなに大きな本屋さん、初めて見た……」
マリは微笑みながら頷いた。
「ここは王都で一番大きな本屋です。王都中の貴族や魔導士が利用するので、新刊が毎月たくさん入荷するんですよ」
未来は店の中へ入ろうとする。しかし、マリは首を横に振った。
「ミク様、こっちですよ。」
「え?」
案内されたのは建物の裏側だった。そこには――
「えぇっ!?」
未来は思わず声を上げる。積み上げられた本、本、本。数百冊はあるだろう。木箱にも地面にも、山のように置かれている。その横には一枚の看板。『ご自由にお持ちください』
未来は看板と本を何度も見比べた。
「これ……全部もらっていいの?」
「はい」
「えっ、本当に!?」
「今日は回収日前なので、沢山ありますね!」
未来は不思議そうな顔をする。
「でも、どうして自由に持ち帰れるの?」
マリは丁寧に説明を始めた。
「王都では、本を処分する場合、ギルドへ回収依頼を出します。回収費用は10冊につき銀貨1枚です。」
「(銀貨1枚ってたしか…1万…?)えっ!?」
未来は驚いた。
「そんなに高いの!?」
「はい。王都では沢山の本が毎月処分されるため、運搬費が高いんです。しかも、ギルドは回収した本を、そのまま平民へ安く売っています。」
「なるほど……」
未来は苦笑した。
「だから、お金を払って処分するくらいなら、無料で持っていってもらった方がいいってことか。」
「その通りです。」
マリは頷く。
「王都では毎月たくさんの本が出版されます。新しい本を並べるためには場所が必要で、古い本は定期的に入れ替えられるんです。」
未来は山積みの本を見渡した。
「こんなに本が捨てられるなんて……もったいない」
前の世界でも、本は知識の宝庫だった。それは、この世界でも変わらない。未来はそっと一冊の本を手に取る。
(これなら……【知識保存】のレベルアップ条件をクリアできる!)
未来は小さく笑った。
「よし。まずは五十冊……保存してみよう!」
マリは山積みの本に夢中になっている。誰も見ていないことを確認しながら、未来は小さく呟いた。
「【保存】」
その瞬間、新たな力が動き始めた。




