第3話 知識保存
未来は、目の前に浮かぶステータス画面を見つめていた。
【保存】
ただ物を腐らせないだけの能力だと思われていた。
しかし――
魔力を保存する力。生活に必要な物を保存する力。
そして、まだ解放されていない未知の能力。
「レベルアップ条件を達成していけば、できることが増えていくのかな?」
未来は考える。もしそうなら、この力は本当に無能なんかじゃないのかもしれない。
「さっき、もう1個解放されたって言ってたっけ?
たしか…知識保存?」
未来は画面を確認する。
【知識保存Lv.1】
・王国語を日本語に自動翻訳
※転生召喚の恩恵により、王国語を聴き取ることが可能
※本1冊ごとに保存魔力を「1」消費
〈レベルアップ条件〉
・本を50冊保存すること
「まずは沢山の本が必要だ。」
この世界の文字も、知識も知らない。まずは、この世界を知ることから始めよう。
「マリさんを呼んでみよう。」
そう思い、部屋を出ようとした時だった。廊下から声が聞こえた。
「あなたも大変ね。」
「え?」
「役立たずの召喚者のお世話なんて。私なら絶対嫌だわ。」
未来は足を止めた。声の先を見る。そこには、マリがいた。他のメイドたちに囲まれている。
「あなたも伯爵家の娘だったのに、今じゃただの侍女ですものね。」
「……」
マリは何も言い返さない。ただ静かに頭を下げていた。未来は、その姿を見ていられなかった。
「マリさん。」
声をかけると、メイドたちは驚いて振り返る。
「ミク様……」
「少し出かけたいんですが。」
「出かけるの、ですか?」
「はい。この国のことをまだ何も知らないから案内をしてほしくて。」
マリは驚いた表情を浮かべる。
「私でよろしいのですか?」
「もちろん!」
未来は微笑む。
「一緒に行こう!」
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王都の商業区へ向かうため、馬車が用意された。目的は本を買うこと。【知識保存】を成長させるためだ。
馬車の中。未来は少し迷ったあと、口を開いた。
「……ごめんね。」
「え?」
「私のせいで、嫌なことを言われていたから。」
マリは首を振る。
「そんなことはありません。」
そして、少し寂しそうに笑った。
「私のほうこそ、申し訳ありません。」
マリは少し間を置く。
「私は【模倣】というスキルを持っているのですが…」
「アブソーブ……?」
未来が聞き返す。
「はい。本来なら、唯一技能と呼ばれる、とても珍しい力です」
マリは自分の髪に触れる。
「でも……私は黒髪です。」
この国では、髪と瞳の色は魔力量を表すと言われている。黒髪・黒目は、魔力を持たない者の象徴。色混じりの黒髪と色付きの瞳はわずかな魔力を持つ者。鮮やかな色の髪は高い魔力を持つ者。金髪と色付きの瞳は王家である象徴。そして白髪と色付きの瞳は「呪い子」。そう呼ばれ、忌み嫌われる。
「私は黒髪だから……」
マリは手を握る。
「魔力量が少なくて、【模倣】の力を十分に使えませんでした。」
「簡単な魔法しか真似できなくて……周りからは、偽物の力だと言われました。」
未来は黙って聞いていた。
「誰も信じてくれませんでした。両親からは、いつも謝られていました。もっと良い人生を送らせてあげたかったって……」
少し沈黙が流れる。
「でも……」
マリは窓の外を見る。
「二年前、両親は事故で亡くなりました。弟も……魔力暴走を起こして去年十二歳で亡くなりました。」
未来は胸が痛くなる。召喚されて、突然この世界へ来た自分。でも、この少女もずっと苦しんできたのだ。マリは慌てて笑う。
「すみません。こんな話興味ないですよね?暗い雰囲気にしてしまいました。」
「……」
未来は少し考える。そして尋ねた。
「マリは今の生活楽しい?」
マリは少し迷う。
「……よく、分かりません。」
未来は優しく笑った。
「そっか…じゃあ、今日は私とのおでかけを楽しんでもらわなきゃ!付き合ってくれたお礼に、何かプレゼントもするね。」
マリは目を丸くする。
「よろしいのですか?」
「もちろん!」
未来は頷く。
「だって、マリとは仲良くなりたいし。だから2人きりの時は、敬語はやめてほしいかな。」
「かしこまりました。」
未来は少しムスッとした。
「それ敬語…」
「ごめんなさい!ありがとう。」
マリは微笑んだ。馬車は王都の商業区へ向かって進んでいく。
この日。
未来にとって初めて、この世界で大切な存在ができた。
そして――
誰にも価値を理解されなかった二つの唯一技能。
【保存】と【模倣】
この二つの力が、やがて世界を変えていくことを、まだ誰も知らなかった。




