第29話 希望の契約
未来はマリを連れ、再びユウトの家へ向かった。
「マリさん、この子をお願い。」
「はい。」
マリはユウトの額にそっと手を添え、静かに魔法を唱える。
「回復魔法」
その瞬間――。部屋いっぱいに、眩い光が溢れた。
「なっ……!」
トーマスもクラリスも、その強い光に目を見開く。以前、未来が見たヒールとは比べものにならないほどの輝きだった。しかし、光が消えてもユウトの病気は治っていなかった。
「そんな……。」
マリは悔しそうに俯く。すると、未来の前にステータスが表示された。
『治癒魔法(中級光魔法)を確認』
『魔力減少症は治療できませんでした』
『必要魔法:再生魔法(上級光魔法)』
「治癒魔法……?」
未来の言葉にマリは驚き、自分のステータスを開いた。そこには見覚えのない文字が表示されていた。
〈ステータス〉
光魔法
・初級魔法
・中級魔法 NEW
※中級魔法を100回使用することで、上級魔法が解放されます。
「中級魔法……。」
マリは信じられないという表情を浮かべた。
「私、回復魔法を使ったつもりだったのに……。」
マリは自分の両手を見つめた。黒髪だった頃には決して使えなかった魔法。それでも――。
「再生魔法は、まだ使えません……。」
みくは唇を噛んだ。
「やっぱり……今すぐ治すことはできないんだ。」
その時だった。頭の中に、ステータスの声が響く。
『魔力があれば症状は緩和されます。ただし、一定以上の魔力を譲渡するには、対象との契約が必要です。』
「契約……?」
さらに表示が続く。
『契約成立後、継続的な魔力譲渡が可能になります。』
未来はユウトの前にしゃがみ込み、小さな手を優しく握った。
「ユウト。私と契約してほしいの。」
ユウトは不思議そうに首を傾げる。
「けいやく?」
「うん。そうすれば、私の魔力をあなたにあげられる。病気をすぐに治すことはできないけど、苦しさを和らげられるかもしれない。」
未来は真っ直ぐユウトを見つめた。
「お願い。私に、あなたを助けさせて。」
ユウトは少しだけ考え、小さく頷いた。
「……うん。」
「おねえちゃん、お願い。」
その瞬間――
『対象の同意を確認しました。』
『契約を開始します。』
『契約が成立しました。』
淡い光が二人を包み込む。未来はそのまま、ユウトへ魔力を譲渡した。穏やかな光がユウトの身体へ流れ込んでいく。しかし、未来は知らなかった。自分が想像していたよりも、はるかに大量の魔力を譲渡していたことを。そして、耳につけていた虹色のピアスもまた、静かに未来の魔力を蓄え始めていたことを。
しばらくすると、ユウトはゆっくりと身体を起こした。
「……あれ?」
腕を動かし、足を動かし、驚いたように呟く。
「身体が……楽。苦しくない!」
クラリスは涙を流しながらユウトを抱きしめた。
「ユウト……!」
未来は微笑みながらも、首を横に振る。
「まだ治ったわけじゃないよ。だから約束して。魔力は絶対に使わないこと。具合が悪くなったらすぐ言うこと。分かった?」
ユウトは元気よく頷いた。
「うん!約束する!」
「いい子。」
未来は優しく頭を撫でる。
「必ず治すからね。」
そう約束すると、未来はトーマスへ向き直った。
「トーマスさん。」
「他の子どもたちにも会わせてもらえますか?」
「もちろんです。」
「マリさんも一緒に来て。治癒魔法だけじゃ治らなかった。でも、マリさんの魔法と私の魔力譲渡、その両方が症状を改善させた可能性があるの。だからみんなにも試してみたい!」
マリは力強く頷いた。
「はい!」
こうして二人は、残る九人の子どもたちのもとを訪れた。未来は一人ひとりと契約を結び、魔力を譲渡する。マリは一人ひとりに光魔法をかけ続けた。その日、10人の子どもたちは久しぶりに穏やかな笑顔を取り戻した。




