第26話 新たな領主
見慣れない馬車に気づいた村人たちが、次々と集まってくる。やがて、一人灰色の髪の老人が前へ出た。
「どちら様ですかな?」
未来は少し緊張しながら、深く一礼した。
「初めまして。私は未来と申します。本日より、セレス村の領主として任命されました。よろしくお願いいたします。」
その言葉に、村人たちはざわめいた。
「領主……?」
「こんな村に?」
「どうして今さら……。」
戸惑いや疑いの視線が、未来へ向けられる。一人の男性が険しい表情で言った。
「王都でのんびり暮らしてきた人に、俺たちの苦労が分かるもんか!」
「そうだ!口だけなら何とでも言える!」
その言葉には、長年積み重ねられた不満や諦めが滲んでいた。未来は返す言葉が見つからず、黙り込んでしまう。すると、一歩前へ出たのはエレナだった。
「少し事情があってね、詳しいことは話せないんだ。でも、これだけは信じてほしい。」
エレナは村人たちを真っ直ぐ見つめる。
「この娘は、誰よりもこの村を良くしたいと願っている人なんだ。」
しかし、村人たちの表情は変わらない。
「そんな言葉じゃ信用できない。」
「勝手に来たくせに。」
その一言を聞いた未来は、小さく息を吸った。
「そうですよね。……分かりました。」
村人たちが一斉に未来を見る。
「本当のことをお話しします。ただ、この話は他の人には言わないでください。もう会うことはないとは思いますが、国王に私が怒らるかもしれませんから。」
そう言って、未来は自分がこの世界に召喚され、与えられたスキル【保存】を無能だと言われたこと。王都へ2度と近づくことを禁じられたこと。そして、このセレス村の領主として送り出されたこと。これまでの経緯を包み隠さず話した。
話が終わる頃には、村人たちは誰1人として口を開かなかった。
静寂の中、1人の老人がゆっくりと前へ出る。
「……そうでしたか。」
老人は深く頭を下げた。
「私はこの村の村長、トーマスです。事情も知らず、酷いことを言ってしまいました。この度の非礼、村を代表してお詫びいたします。」
未来は慌てて首を振る。
「謝らないでください。皆さんが簡単に人を信じられないのは当然です。だから私も、これから少しずつ信頼してもらえるよう頑張ります。」
その言葉に、村人たちも次々と頭を下げた。
「悪かった。」
「よろしく頼む。」
少しずつ、村の空気が和らいでいく。その様子を見ていた御者が、おずおずと口を開いた。
「あの……。俺はハルアといいます。俺も、ここまで来た時点で王都へ戻ることはできません。もし迷惑でなければ……この村で暮らさせてもらえませんか?」
未来は笑顔で頷いた。
「もちろんです!一緒に頑張りましょう。」
村人たちも温かく迎え入れる。
「それなら、領主様方には領主の屋敷を使っていただきましょう。」
トーマスが村の奥を指差した。
「五年以上空き家ですが、今住める家はそこしかありません。」
「掃除ならお任せください!」
マリが元気よく手を挙げる。未来も微笑んだ。
「では、まずは荷物を運びましょう。それと、村の皆さんの中でお料理が得意な方はいませんか?夕食の準備を手伝ってほしいんです。夕食を今日はみんなで一緒に食べませんか?」
「飯が食えるのか?」
「材料は沢山持ってきましたので、是非!」
「あのぉ、私でよければ。」
ミヤ、ルリ、セイの三人が名乗り出る。
「なら荷物運びなら俺たちに任せろ。」
ダン、ルイ、ギースも笑顔で手を挙げた。さらに、トーマスの妻マーサと娘のリリアも屋敷の掃除を手伝ってくれることになった。
「皆さん、本当にありがとうございます。」
ひと段落すると、未来はトーマスへ向き直る。
「トーマスさん、この村のことを詳しく教えていただけませんか?」
「かしこまりました。領主様。」
「領主様…。堅苦しい話し方は苦手なんです。」
未来は照れ笑いを浮かべる。
「娘だと思って、気軽に話してください。」
トーマスも優しく笑った。
「分かりました。それでは、ミク様も私を父親だと思って接してください。」
「はい!……でも、その前に荷物だけ置いてきてもいいですか?すぐ終わらせますので!」
「ああ。それじゃあ一時間後に迎えに行こう。」
「お願いします!じゃあ、ちょっと行ってきます!」
新しい領主と、新しい村人たち。
こうして、セレス村での新しい生活が幕を開けた。




