第23話 グランヴィル伯爵家
「花…?ねぇ、マリさん。そのネックレス、私も見せてもらっていいかしら?」
「えっ……はい。」
「リリー。私にもネックレス見せて?」
サリーは震える指先でネックレスを優しく撫でる。
「……やっぱり。」
懐かしそうに微笑み、静かに顔を上げた。
「あなた……もしかして、グランヴィル伯爵家の娘なの?」
「な、なぜそれを……?」
マリが目を見開く。サリーは優しく微笑んだ。
「このネックレスを作ったのは、私だから。」
一同が息をのむ。
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サリーは魔力量が非常に多く、類まれな才能を持っていた。その才能を見込まれ、わずか十歳で宮廷魔道士として働くことになった。しかし、宮廷では戦闘魔法を扱える魔道士ばかりが重宝され、魔道具を作る魔道士は便利な職人として扱われていた。多くの貴族にとって、サリーは「便利な道具を作る者」でしかなかった。感謝の言葉を掛けられることなど、一度もなかった。そんな中、唯一違ったのがグランヴィル伯爵だった。
ある日、セドリック・グランヴィル伯爵から依頼を受けた。
「娘の魔力を封じ、身体を守る魔道具を作ってほしい。」
サリーは何日もかけて魔道具を完成させた。受け取った伯爵は、嬉しそうに微笑みながら言った。
「ありがとう。君のおかげで家族を守ることができる。」
そして、完成した魔道具を見つめながら続けた。
「それに、こんなに素敵な物を作れるんだね。またお願いするよ。」
その一言は、サリーが生まれて初めて掛けられた感謝の言葉だった。それ以来、グランヴィル伯爵家は毎年同じ時期になると魔道具を依頼するようになった。宮廷魔道士を辞めたあとも、その関係は変わることはなかった。
二年前。伯爵からの依頼は、今までで最も難しいものだった。
「娘の魔力に耐えられるものを作ってほしい。」
それだけではなかった。
「ただ魔力を保存するだけじゃない。娘への想いも込めた、世界に一つだけの贈り物にしたいんだ。」
サリーはその願いを形にした。完成したのは、一見すると美しいネックレス。しかし、その中には特別な仕掛けがあった。吸収した魔力が一定量に達すると、小さなマリーゴールドの花が咲く。マリーゴールドは、マリが一番好きな花だった。完成したネックレスを見たセリーヌ夫人は、幸せそうに微笑んだ。
「きっとマリも喜ぶわ。」
サリーも笑顔で頷く。
「来年は髪飾りなんてどうでしょう?」
セドリックは楽しそうに笑った。
「君の作るものは、どれも一級品だからね。また来年も頼みに来るよ。」
しかし、その約束は果たされることはなかった。ネックレスを渡してから約一か月後。セドリック伯爵とセリーヌ夫人は事故によって命を落とした。突然の訃報に、サリーは言葉を失った。
「もう、お二人に会うことも……依頼を受けることもないのね。」
それでも、毎年同じ時期になると自然と手が動いてしまう。一昨年は、マリーゴールドをあしらった髪飾り。去年は、可愛らしいピアス。渡せないと分かっていても、サリーは作り続けた。
「今年は何を作ろうかしら……。」
その言葉は、もう届く相手のいない独り言になっていた。
話を聞き終えたマリは、両親の笑顔を思い浮かべていた。
「ずっと……お父様とお母様が謝っていたのは……。」
黒い髪。そのせいで、自分は両親に迷惑をかけ、いつも心配させていたと思っていた。でも違った。守られていたのだ。誰よりも大切だから。少しでも長く、一緒にいられるように。ぽろり、と涙がこぼれる。それは一粒では終わらなかった。次から次へと、大粒の涙が頬を伝う。自分がどれほど深く愛されていたのか。ようやく知ることができた。
サリーはそんなマリの前にそっと膝をつく。
「マリさん。」
優しく微笑みながら言った。
「村に着いたら、髪飾りとピアスを受け取ってくれないかしら?…お願い。」
マリは涙を拭いながら、何度も頷く。
「……ありがとう、ございます。」
その光景を見つめながら、未来は胸の奥が締め付けられるのを感じていた。
──なぜ、白い髪というだけで。
──なぜ、それだけの理由で、ここまで苦しまなければならないのだろう。
未来は静かに拳を握り締めた。




