第20話 セレス村
「昔のセレス村は、とても豊かな村だったんだ。森の恵みも豊富で、薬草や木材、それに魔獣の素材もよく採れてね。王都とも盛んに交易していた。」
「でも、12年前――1匹の魔獣が村を襲った。すぐに討伐はされたんだけど、それを境に魔獣の数が急激に増え始めたんだ。王国の第三騎士団が何度も討伐に向かったけど、怪我人が絶えなかった。このままでは王都まで被害が及ぶ。そう判断した王家と教会は協力して、巨大な結界を張ったんだ。」
未来は静かに耳を傾ける。
「……でも、その結界はセレス村まで届かなかった。正確には、セレス村の手前の村まで。セレス村だけが結界の外に取り残されたんだよ。」
未来は思わず息を呑んだ。
「結界の中から外へ出ることはできる。だけど、外から中へ戻るには公爵家以上の許可が必要なんだ。」
「つまり……。戻ってくることはできない。セレス村は国に見捨てられたんだ。」
エレナは悔しそうに拳を握る。
「それ以来、交流は途絶えた。今では貧しい村になったと言われている。しかも村のさらに奥にはアビスと呼ばれる『魔獣の森』がある。いつ大規模な魔獣被害が起きてもおかしくない。」
店内に重い空気が流れた。ガレスが静かに口を開く。
「そんな中、王妃様が【未来視】で未来を視たそうだ。五年以内に魔獣の大発生が起こる、と。だから異世界召喚が行われた。幸い、召喚されたのは光魔法を使える聖女様だって噂だ。……簡単に説明すると、こんなところだよ。」
未来は小さく頷いた。
「説明してくださってありがとうございます。それで私は召喚されたんですね。」
その言葉を聞いた瞬間、マリの顔色が変わる。
(しまった……。)
ハッとして口を押さえた。
「あっ!言っちゃいけなかったんだった……。」
ガレスとエレナは顔を見合わせる。
「ってことは……。あんたが聖女様なのかい?」
未来は首を横に振った。
「いいえ。召喚されたのは、聖女様と私の二人です。でも私は【保存】というスキルしかなくて、魔力もありませんでした。その場で『無能』と言われて……。」
「召喚したお詫びとして金貨二百枚を渡されました。そして三日にはセレス村へ向かい、領主になれと命じられたんです。」
「なんてことだ……。」
ガレスは目を伏せる。エレナも悲しそうに未来を見つめた。未来はすぐに笑顔を作る。
「でも、エレナさんとガレスさんのお話を聞けて良かったです。これで何を準備すればいいのか分かりました。もっといろいろ買わなくちゃ!」
その前向きな言葉に、マリは意を決したように前へ出る。
「ミク様。もしよろしければ……私もセレス村へ連れて行っていただけませんか?」
未来は驚いた。
「危ない場所なんでしょ?そんな所へマリさんを連れて行けないよ。」
マリは真っ直ぐ未来を見つめ、少し怒ったような声色で言った。
「その言葉、そのままお返しします。」
「え?」
「危険だからこそ、私はミク様のおそばで支えたいのです。それに役に立ちたいのです。」
未来は困ったように頭をかく。
「うーん……。」
すると今度はエレナが一歩前へ出た。
「あたしも、一緒に連れて行ってくれ。」
「エレナ!」
ガレスは思わず声を上げる。
「俺はもう家族を失いたくないんだ。分かってくれ…。」
エレナは静かに微笑んだ。
「今日会ったばかりだけどね。あたしは、この娘なら大丈夫だと思うんだ。」
その時、小さな声が響く。
「どこかに行っちゃうの?」
リリーが不安そうにエレナの服を握っていた。エレナはしゃがみ込み、優しく頭を撫でる。
「そうだよ。お引っ越ししようかなって思ってるんだ。」
リリーはぱっと表情を明るくした。
「お引越し…。じゃあ、私も行きたい!」
店内は一瞬、静まり返った。




