第13話 本屋『Luna』
平民街にある本屋『Luna』。未来とマリは店の前に立っていた。
「ここがLunaかぁ。」
木造の小さな店だったが、どこか温かみを感じる雰囲気だった。
「入ってみましょう。」
マリが扉を開ける。カラン——。鈴の音が店内に響く。しかし、店の中は驚くほど静かだった。本棚にはたくさんの本が並んでいるのに、人の気配がまったくない。未来は不思議そうに辺りを見回した。
「あのー、ごめんくださーい!」
すると、二階から慌ただしく足音が聞こえてくる。
「はいはい! 今行くよ!」
階段を下りてきたのは、30代くらいの茶髪の女性だった。
しかし、未来たちの姿を見ると、申し訳なさそうに頭を下げる。
「ごめんねぇ。昨日で店を閉めたんだよ。」
「えっ?」
未来は思わず声を上げた。
「昨日、『Orphe』っていう宝石店の店主から『ここへ行けば宝石の図鑑がある』って聞いたんですが……。」
女性は驚いた表情になる。
「なんだい、兄さんの知り合いだったのかい?」
「はい。このあと、『Orphe』へ行く予定です。」
女性は少し安心したように微笑んだ。
「そうかい。実はね……私は店を閉めて、息子を探しに行こうと思っているんだ。」
「息子さんを?」
未来が尋ねると、女性はゆっくり頷いた。
「亡くなったはずの息子を見たっていう人がいてね。本当かどうかは分からない。でも、もし生きているなら……もう一度だけでいいから会いたいんだ。」
その言葉には、母親としての強い想いが込められていた。
「ただね。」
女性は店いっぱいに並ぶ本を見渡す。
「この本をどうしようかと今悩んでいてね。捨てるにも、お金がかかし、貰ってくれる人もいなくてね。」
未来は少し考えたあと、おそるおそる口を開いた。
「あの……。もし、この本を全部くださいって言ったら、おいくらになりますか?」
「は?」
女性は目を丸くする。
「何を言ってるんだい。冗談もほどほどにしな。」
未来は真剣な表情で首を振った。
「冗談じゃありません。本気です!」
女性はしばらく未来を見つめていたが、やがて笑った。
「変わったお嬢さんだねぇ。いいさ。好きなだけ持っていきな。そのかわり大事にしておくれ。それから兄さんの店に行く時、私も一緒に連れて行ってくれないかい?」
未来はすぐに頷いた。
「もちろんです!……でも、本当にいいんですか?好きなだけ持っていっても。」
「ああ。もう店を閉めたんだ。誰かに読んでもらえた方が、本たちも喜ぶよ。」
未来は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!では、さっそく…」
未来は小さめの声で呟いた。
「【保存】」
次の瞬間、本棚に並んでいた本が淡い光に包まれ始めた。




