絆創膏の借り
新しい学年となり、少し経った頃、俺は根川と話すことが少し多くなった。
というよりは、根川が勝手に語りかけてくる。
毎日、俺に話しかけてきて何がそんなに楽しいのだろう。
俺は根川のことが一切分からないままでいた。
「小島君、おはよう。」
肩からスクールバックを下ろしながら、俺のほうに顔を向ける。
俺は特に返事をするわけでもなく、根川を一瞥し、携帯をいじる。
お前のこと、興味がないと言わんばかりの態度なのに、根川は気にせず、そのまま話しかける。
鬱陶しいと、そんなことを考えながらも、根川の話は聞いていた。
「あ、小島君。ここ擦り剥いてるよ。」
「……っ。触んな。」
突然の根川からの指摘とともに、手が伸びてきた。
俺は、びっくりして、根川の手を払いのける。
根川もまさか手が払いのけられるとは思っていなかったのだろう。
目を真ん丸とさせたが、すぐに鞄の中から絆創膏を出してきた。
「ごめんごめん。急に触ったら、びっくりするよね。これ、使って。」
次はびっくりさせないようになのか、机の上にそっと絆創膏を置く。
なぜ、根川はこんなに俺のことを構うのだろう。
俺は、こいつに何かしてやったわけでもない。
こんな善意は、俺には理解できなかった。
お昼休みのチャイムが鳴り、購買に行くやつや弁当を広げるやつがいる中、俺も悪友の木山のところへ向かおうと席を立つ。
そんな時、根川の声が聞こえる。
どうやら、隣のクラスの友人と話しているようだ。
あいつにも友達、ちゃんといるんだよな、と通り過ぎようとしたところ、こんな会話が聞こえてくる。
「今日、弁当忘れた。」
根川のがっくりとした声色に思わず、俺はそのまま耳を傾ける。
それも気が付かれないように少し離れたところで、携帯を触りながら。
「えぇ、じゃあ、俺の昼ご飯分けてやるよ。」
根川の友人は、自分の弁当を見せながら言った。
確かにあの量なら、二人で分けても十分食べられるだろう。
俺はその場を離れようとする。
「いやいや、野口のやつもらうのは申し訳ないよ。放課後も部活でおなか空いちゃうだろ。気にすんなって。僕、このまま寝て過ごすから、食べてきなよ。」
「でも……。」という野口というやつに、根川は「他のやつもお前のこと待ってるぞ。」と笑う。
後ろ髪をひかれるように、野口は離れ、根川は机に突っ伏す。
昼ご飯忘れるなんて、気の毒だなんて思わない。
通り過ぎようとしたが、今朝貰った絆創膏が目に映る。
俺は、数秒立ち止まり振り返る。
根川の席に、食べようとしたメロンパンを置く。
ガサっと音がしたのに気が付いた根川が頭をゆっくりと上げる。
「え……。」
「おまえ、昼ご飯忘れたんだろ。……やるよ。」
「そんな、悪いよ。」
「気にすんな。……絆創膏の礼だ。」
俺は借りは作りたくないと思っている。
そう、これは絆創膏をタダでくれたから、その見返りとしてのメロンパンだと納得させた。
「小島君、ありがとう。助かるよ。」
根川はメロンパンの袋を開け、かぶりつく。
よほどお腹が空いていたのか、根川は食べる手を止めない。
そんな美味しそうに食べる根川を見て、俺は席に着く。
「あれ、小島君もここで食べるの。」
「たまにはな。」
根川は俺が教室で食べるのが珍しいという目で見つめてくる。
俺はそんなのを気にせず、鞄からソーセージパンを出す。
もう一度、根川のほうを見ると俺のことが気になっていないのか、またメロンパンを口に頬張る。
ご飯なんて、栄養補給の一環に過ぎない。
今まで、そう思って生きてきたはずだ。
俺は両親が共働きで、俺にも関心がなかった。
小さい頃から、なんでもひとりでやってきた。
ただ覚えてるのは、机の上に置かれた菓子パンや千円札。
メモには「足りなかったら、コンビニで買ってきてね。」と書かれていた。
味気のないご飯に、俺は意味なんて見いだせなかった。
それでも生きていくには十分だと、これが当たり前だった。
だが、表情が豊かな根川を見て食べていると、味を感じる気がした。
読んでいただき、ありがとうございました。
小島と根川の日常を書かせていただきました。
この二人が、少しずつ関係を築いていく様子を楽しんでいただけたらと思っています。
では、また次回お会いしましょう。




