隣にいた変な奴
高校生活も慣れ始めた二年の春。
暖かい陽気に当てられ、大きく欠伸をする。
俺にとっては、退屈な一日の始まりだった。
クラス替えということもあり、周りは騒がしかった。
去年から一緒のやつや、今まで見たこともないような冴えないやつ。
俺の席に寄ってきて、「小島君、今年も一緒のクラスだね。」と自分をかわいく見せようとして、萌え袖にし、スカートをできる限り短くしてきた女子。
それに対して俺は、無言のままだった。
そんな騒がしさを止めるように、担任が教室へと入ってくる。
「去年から引き続き受け持つ生徒もいると思うが、改めて自己紹介するな。」
俺はその自己紹介にあまり興味がなかったため、横に座っている男に目を移す。
その男は鞄の中を漁りながら、ゴソゴソと音を立てていた。
顔を見ると、少し青ざめており、おろおろとした表情。
暇つぶしにちょうどいいかと思った俺は、話しかけることにした。
「あんた、なにしてんだ。」
「あ、え、僕に話しかけてるの。」
「それ以外ねぇだろ。」
「あ、そうだよね。ごめん。」
男はなぜか謝ってきて、申し訳なさそうにしている。
俺は、少しの苛立ちと深いため息をついた。
「んで、そんな鞄の中、漁って何探してるんだ。」
「あぁ、今日提出するプリントを探してたんだ。……でも、忘れちゃったみたい。」
男は肩を落とし、目線を下に向ける。
なんというか、この男はナヨナヨしているというか、弱そうというか。
プリントぐらいで、そんなに肩を落とさなくてもいいだろうと思った。
俺は、なんだか興味をなくし、机に突っ伏すことにした。
そして、気が付けば今日も半分が過ぎていた。
もう少しでお昼の時間になるというところで、教師の手には紙束が抱えられていた。
「今から、小テストするぞ。」
クラス中にブーイングが巻き起こったが、教師は素知らぬふりをして席の先頭に座っている生徒に配っていく。
その紙は俺のところまで回ってきて、前の名前も知らない奴から受け取る。
「みんな、用紙あるか。……じゃあ、始め。」
ペンを走らせる音しか聞こえず、誰もが真剣に問題へ向き合う中、俺は当たり前のように答えを書き進めていく。
昔から頭は良く、皆が「分からない」と言っていることが、俺には分からないぐらいだった。
そのおかげで、多少不真面目な態度をとっても、教師には何も言われなかった。
数十分後、俺はすべての問題を解き終え、紙を裏返しにする。
また机に突っ伏そうとしたところ、先ほどの男が目線に入った。
手を頬に当て、問題を解いている。
しかし、一向にペンが紙に触れることはなく、ただただ時間だけが過ぎていった。
俺は、そんな固まったままの男を見つめ、「こいつ、もしかして頭悪いんか。」と少々失礼なことを考えていた。
そのまま、無慈悲にチャイムが鳴り、教師がテストを集める。
男は苦しい表情のまま、答案を提出した。
テスト後はお昼休みとなり、俺は購買へと向かう。
目の前にいるのは、さっきの男。
廊下をキョロキョロとしながら、ゆっくりと歩く。
手には何かを両手で包み込むように持っていた。
そして、女子に声をかけ、何かを伝えながら、手に持っていたものを差し出した。
女子はその男に何度も頭を下げ、男はほっとした表情をし、その女子と別れた。
その笑顔が、妙に眩しく見えた。
なんでそんな笑顔ができるんだ。
理由も分からないまま、俺は少しだけ苛立ってしまい、その感情を振り払うように男を追い抜こうとした。
その瞬間、前方からかなり大きな音が聞こえた。
なぜ、なにもない廊下でこいつはコケているのだろうか。
周りのやつらも、特段気にせず、それぞれの目的地へ行く。
でも、俺はなぜか、男の前に立ち、手を差し伸べた。
「……早く立ち上がれよ。」
「へ……。」
「ぼさっとしてんじゃねぇ。」
「あ、ありがとう。」
男は俺の手を掴み、立ち上がる。
意外と背が高く、俺と同じ目線になった。
目が合うと、真ん丸な目がふっと細まり、笑顔になった。
「君、小島君でしょ。今朝、話しかけてくれたよね。僕の名前は根川っていうんだ。よろしくね。」
根川は俺の手をぎゅっと両手で包み込んだ。
俺は、内心変な奴だと思いながら、気分は悪くなかった。
そんな感覚が、妙に気持ち悪かった。
読んでいただき、ありがとうございました。
過去に書かせていただいた作品とは、少し雰囲気を変えてみようと思い、この作品が生まれました。
この二人がこのあとどんな関係になっていくのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
では、また次回お会いしましょう。




