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5話

急いだけれど、もうそこにお兄さんはいなくなっていた。


遅かったかな。

無事に帰れたのかな。

グリズリーとかに襲われてないといいな。



なんだか今日は全てが不完全燃焼で、もやもやした気持ちを抱えて家を帰った。





「リーナ!そんな危ないことをする前に、帰ってきて俺に相談しろよ!」


「仕方ないでしょう?ヴェールお兄ちゃんの治癒魔法は人に見せられないし、教会に行った方が早いと思ったの!まさか、あんなに冷たいところだと知っていたら、行かなかったわよ…

知らなかったの…」


当たり前だけれど、お兄ちゃんに話したらめちゃくちゃ怒られた。怒る気持ちもわかる。けど、私だって助けたい一心で頑張ったのよ。


気持ちに整理がつかなくて、何とかしようとお菓子作りに没頭することにした。

甘い香り、生クリームを混ぜる音、薪から焚いた火の優しいぬくもり。

全部が私の心を落ち着かせてくれる。


お兄さんが元気になっていることを祈ってーー


私は新たにマフィンを焼いた。






数日後、私はおばさまにお礼のマフィンを持って街に行くことにした。







あの日私を助けてくれたリヒおばさまの家に向かおうと、また教会付近の中心街へとやってきた。


教会の中は冷たかったけど、街の人は温かくて大好き。私はいつか、この街角に自分のお店を持つことが夢なんだ…!


道中、美味しそうな食材の並ぶ商店街を歩いていると。


「ぅわっ」


足元をすごい速さで通り抜けた5歳くらいの小さい男の子。

驚いて思わずよろけた。


あまりに早かったけど、あの速度を私は見慣れている。

その子もヴェールお兄ちゃんの小さい頃のような美しい銀髪で、滑らかな空中移動魔法でまるでスケボーのように地面を滑っていく。


お兄ちゃん以外であんなにも美しく魔法を使える人、初めて見たかも…


私もよろけたときに浮遊魔法をちょこっとだけ使ったから、転ばずに済んだ。マフィンたちも落とさず無事。


「奴隷のガキがひとり向こうに行ったぞ!!」

「オラ退けや!!!退かなきゃてめぇらも豚箱に入れちまうぞ!!!」

「待てやゴルァ!!」


厳つい男たちがあとから走って彼を追いかけ走っていく。ゴツい足音が辺り一面を覆ってから、男の子が走って行った方へと通り過ぎていった。


幼い子だった。奴隷と呼ばれ、ボロボロの服を着て、家族と離れ離れに暮らしていたのだろう。


私は、ひとりでも多くの人に幸せな気持ちでいてほしいと願いながら今世を生きている。奴隷制度は、本当に酷いものだ。

今、何もできない自分が悔しい。


あの様子だとおそらく追いかけていた人々は魔法が使えず、ただひとり魔法が使える男の子は逃げ切れる確率が高いように思う。


どうか、彼が無事に逃げ切れますように、と祈る気持ちを抱えて、私は彼らの行った方向を見つめることしかできなかった。



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