4―2 信長公との謁見 その四
翌日、指定の時刻に間に合うように登城し、その際に土産の献上品(拳銃を除く)を取次の者に渡しておいた。
無論、至極状態の良いままだぜ。
多数のトロ箱に氷で覆われた大量の魚が有るのを見て、取次の者は驚いていたな。
こいつは、本陣から人足を雇って運ばせたんや。
三木城攻略の際に使った荷車を使っても良いのやが、生憎と安土城は長い階段を登らないかん。
それには、どうしても人足が居るんや。
勿論、俺の亜空間で持ち運びはできるんやが、そんなもんを人前で見せるわけには行かん。
だから、魚だけは人足で運ばないかんかったのや。
配下の伴侍一人と共に、待合室で少し待たされてから信長さんと面会できたよ。
細かい挨拶の部分は省いておくが、色々と御託を述べた後、俺は今回の主目的である土産の品を懐から出した。
無論、ここに来る前に武器の有無は調べられ、俺は脇差ししか持っておらなかった筈なんやが、謁見の際には既に懐に忍ばせておいたんや。
それに伴侍に持たせたショルダーホルスターと弾丸も、用意してきた三方に載せて信長さんの方へ差し出す。
それを、普通は小姓が受け取り一段高いところにいる信長さんにお渡しするんやが、小姓が動く前に、信長さんがすくっと立って降りて来た。
中々に素早い動きだぜ。
そうして俺の前にドカッと座ると、しげしげと拳銃やら他のモノを眺めている。
「触っても大丈夫か?」
そう尋ねて来た。
「弾は、込めていないので危険はございません。
殿への献上品にございます故、どうぞお手に取ってお確かめください。」
信長さん、すぐに手を出し,矯めつ眇めつ拳銃を眺めている。
「ほう、小さいのに中々に重さが有るのぉ。
これは鉄でできておるのか?」
「大部分が刀と同じ鋼で出来ております。
但し、握りのところには、一部木材も使われております。」
「うむ、見たことの無き木材よな。
それに見事な飾り彫りとなっておる。
で、火縄も無いが、どのようにして撃つのじゃ?」
「はい、握りを持って引き金に指をかけて引いてみてください。
多少の力は必要ですが、撃鉄が起き、更に引くと撃鉄が落ちまする。
その際に、弾が入っていると弾が筒先に沿って発射されることになります。」
信長さん、そのまま引き金を引き絞って撃鉄を一気に落としたね。
ウン、ダブルアクションをやったわけだ。
護身用だから、急ぎに間に合うようダブルアクションを覚えておけば良い筈なんだけれど、一応シングルアクションも教えておいた。
すると、やっぱり短気と言うか、気が早いよね。
すぐに試し打ちをすると宣うたよ。
流石に試し打ちを部屋の中でと言うわけには行かないから、天主の外に出て、庭で射撃をすることになった。
試射と言えども実射となれば、注意事項をしっかりと教えておかねば事故になる。
くどいように安全対策を教え、その上で、ショルダーホルスターをつけさせた。
和服の上からだと何とも妙な格好にはなるのだが、肌着の上に着装してその上に一枚羽織れば、拳銃もホルスターも隠れるようになる。
最初は弾込めから、丁寧に教える。
この際に銃口は決して人には向けてはならない、引き金に手をかけてはならないなど、注意事項は山ほどある。
弾丸だって不注意に扱えば暴発する危険性はあるしね。
因みに試射の際は、側近だけを残して人払いをしてもらったよ。
信長さんが持っている拳銃の威力はできるだけ知られない方が良いんだ。
標的は、火縄銃の試射に使う板的が用意されていた。
的は10間ほど先に置かれた板的で、背後に高さが七尺ほどにも土が盛ってあるんや。
あるいは、信長さん、ストレス発散のために偶にはここで火縄銃を撃っているのやも知れぬな。
同時にここは弓の射場でもあるようや。
まぁ、結果から言うと、上々の首尾やったな。
信長さん、シングルアクションで5発を撃ち、的中度を確かめてから、次いでダブルアクションで5発を撃ったんや。
シングルアクションでは、狙い方を教えておいたから全弾命中やった。
但し、的には小さな孔が空いただけやな。
これには信長さんが驚いていたな。
普通、火縄銃で板的を撃つと、弾丸の鉛の弾の初速が遅いのと弾が大きい(直径12ミリ程度)所為もあって、至近距離で撃つと往々にして板に孔が空くんやなくて、割れるんや。
今回は、それが無かったので最初は弾が外れたかと思っていたそうや。
で、五発撃って確認したら見事に大きな丸の中に五発が当たっていたもんやから、信長さん喜んでいたな。
但し、次のダブルアクションでは、五発中の二発が的に当たっただけで、残りはかすりもしなかったようだ。
狙いをつけていても、ガク引きになると銃口がどうしても利き腕の反対側や下側にずれるんや。
このあたり、うまく当てるようになるんは、慣れしかないよな。
因みに、俺にも撃って見せよというので、ダブルアクションで連続発射し、全弾をほぼ的の中心に当てて信長さんを驚かせたよ。
練習を積めば、殿も出来るようになりますと慰めておいた。
それから天主に戻り、謁見室での面談に戻った。
「何やら、この銃以外にも若狭の魚を土産として持ってきたらしいが、気を使わせて済まんのぉ。
ただ、一応受け取ってはいるが、この時期の魚は傷みやすいが大丈夫か?」
「はい、氷漬けで運んでまいりましたので、今夜の食事で食べるなら、ほとんど取れたての味を楽しめると存じます。」
「それは氷漬けにした所為か?」
「はい左様にございます。
氷漬けにして、運びますれば、三日や四日は持ちまするが、できるだけお早くお食べになるのが宜しきかと存じます。」
「この時期に氷とは、どこで手に入れた?
毛島にそんなものが有るのか?」
「いいえ、毛島にはありませぬし、岐阜あたりの高い山でもこの時期には氷は無いかと存じます。
あの氷は私が特殊な方法で造りました。」
「ほう、そなたなれば何時でも造れるということか?」
「はい、そのためには毛島又は朝来、若しくは姫路にある道具を動かさねばなりませぬが、ご要望であれば、そこで造って運ぶことも可能かと存じます。」
「ふむ、いずれも遠いな。
近くには無いのか?」
「以前は、長浜にもあったのですが、朝来に蒼龍隊の基地を移転して、支部が残っているだけですので、今はございません。」
うん、冷蔵庫はあるが冷凍庫は無いから嘘ではない。
但し、長浜、姫路、朝来と毛島の基地はいずれも地下にある亜空間でつながっているから必要ならば何時でも行き来は出来るのだが、それは伏せておく。
「ふむ、長浜、若しくはこの安土に氷を作る道具を造れぬのか?」
「可能ではございますが、氷を作るための人出を派遣せねばなりませぬ。
仮に、安土のいずれかの地をお借りできるなれば、そこに道具を置いて我が手の者を数人配置します。」
「ふむ、なれば、安土の船着き場の一角にフケ(湿地帯)ではあるが空き地がある。
そこを利用して、船着き場とともに其方の邸を造るが良い。
数人が滞在するなら、さほど大きなものでなくても良かろうが、そなたが安土へ参った時に使う大きな邸とするのも一興じゃ。
儂から支援はせぬが、そなたの才覚で如何様にでもできよう。」
「は、仰せのままに。」
「時に、毛島の方じゃが、わずかな間に毛島の東側に大きな堤を築いたと聞いたが、どうなのじゃ?」
「はい、毛島の東側に堤を造り、概ね50万坪の水域を堤で囲って港にしてございます。」
「50万とな・・・。
そのように大きな港を造って何とする?
また、近在の漁師どもが迷惑をしているのではないか?」
「はい、港の中で戦船を造るためにも大きな港を必要としました。
特に瀬戸内と違い、若狭の海は冬場の風で大いに時化(しけ)ますれば、船を港の中で保護しなければなりませぬ。
小舟ならば砂浜に引きあげることも出来ましょうが、大船は中々そのような訳に参りませぬ。
また、漁師たちの事であれば、魚は自由に動くものにて、大きな堤を造ったとて若狭湾に住む魚が減るわけではございませぬ。
それに新たに造った堤に海藻などが定着すると小魚が増え、その小魚を食する大魚も増えることになりますので、二、三年のうちには、堤の周辺が良い漁場になるでしょう。」
「ほう、そのようなことが・・・。
したが、堤の周りに漁師の船が居っては、毛島の要塞の警護が困るのではないのか?」
「堤自体に高い柵を設けて港の中が見えませぬし、中には入り込めぬようにしておりますれば、多少の船が傍にいる程度では問題がございませぬ。
それに、時折見回りの船を出すので、無暗に堤に群がることは無いものかと。
目に余れば、追い払いまする。」
「なるほど・・・。
毛島の事はそなたに任す。
ただ、何か事あれば、若狭から其方の水軍を出すことを覚悟しておけ。」
「はい、かしこまりました。
いずれ先ほど殿が申された安土城下の場所に、我が邸を立てたいと存じます。
邸を造ったならば、そこに滞在する者に伝えれば、我がもとに連絡が参るようにしておきます。」
因みに、安土城が建てられている場所には、琵琶湖の内湾が入り込んでおり、城のある小山の部分は内湾に突き出た半島になっていたんや。
ために、城下町は城の西側の一部と南側にあったんや。
信長公の言う船着き場とは、城の南側にある掘割では無くて、西側北部の地域であるはずや。
そこは、そもそもが葦の生えている湿地帯で、土地の使い方が難しい処じゃから放置されていたのじゃろうな。
まずは埋め立てが必要となるやろうから、それなりの普請工事になるわけじゃ。
信長さん、きっと天主からその様子を眺めるつもりでいるようじゃな。
まぁ、またまた一夜城の伝説でも造ろうかねぇ?
但し、今度は護岸を整備した物揚げ場を含む埋立地になるな。
そこに造る屋敷は、秀吉叔父貴の邸(凡そ1500坪)より小さめにする必要が有ろうな。
勿論、人目に付かない地下にそれなりの施設は作っておくつもりや。
念のため、後で、信長さんの側近に、俺が使っても良い場所を確認しておかねばならん。
俺の邸の護岸に船着き場を造れるなら、今津の方にも船着き場が入用になるだろうな。
毛島から安土へ来る際に、喫水の浅い小型高速艇を用意しておけば、あるいは、毛島から一日で安土へ来られるかもしれないからや。
安土の方は、しっかりとした桟橋で、今津は木製の仮桟橋でよかろう。
因みに今津の地は、明智光秀と秀吉叔父貴の縄張りが競合しつつもうまいこと両方で調整している場所やが、ちゃんと土地の豪族は居るんやで。
そこに話を通じておけば、桟橋の利用でそうそう問題にはならんやろし、俺が造った桟橋でも空いている時は誰でも使えるようにする。
但し、優先順位は、蒼龍隊にあることを明確にしておく。
まぁ、琵琶湖に突き出た桟橋先端の北側を蒼龍隊専用にして、桟橋の根本と南側を公共桟橋とすればよいじゃろう。
そんなことを考えている束の間にも、信長公から例の話が出たぞ。
「今日の羊の下刻には、家康殿の側近である酒井忠次が安土へ参り、即刻登城することになっておる。
ちと面倒な話がある故、そなたも酒井の登城時に儂の傍におって一緒に話を聞け。
その上で儂が何らかの判断を下さねばならぬのじゃが・・・。
事の発端は、岡崎に嫁がせた徳からの訴えじゃ。
徳の夫であり、家康が嫡男である信康の行動を大いに非難しておるのじゃ。
我が娘だけを大事に扱えば、徳川との諍いにもなろうが、どう扱えばよいか迷って居る。
取り敢えず、真偽のほどを確かめるために、この訴えについて真実を申し述べることのできる人物の派遣を要請したのじゃ。
その結果、信康の守役でもあった酒井忠次が参ることになったわけじゃ。
此度の一件どうにも腑に落ちぬことだらけじゃ。
先だって、信康の家臣に謀反の疑いありとして当該家臣が処刑されたはずじゃが、そこにしてからが、何か裏があるのではないかと疑って居るのじゃ。
普通に考えて、負け犬になり下がった武田の元へ走る者が居るものなのかどうかじゃ。
まぁ、その辺は家康の家臣の事じゃから家康に任せたが、此度は家臣ではのうて、嫡男じゃ。
仇や疎かに処断はできぬ。」
うん、信長さん、その後は言わないね。
俺がウンと言うまで待つんだろうな・
「かしこまりました。
某風情がお役に立てるかどうかはわかりませぬが、殿がお傍で拝聴します。」
そんなわけで、城から出られずに、そのままお城で待機になったな。
城までついてきた配下と一緒に城で出された飯を食ったよ。
この時代、朝夕の二食が多いんだが、遠来の客には昼餉を出す場合もある。
但し、簡素なもので粥とみそ汁に漬物ぐらいじゃぞ。




