3ー17 信長公との謁見 その二
「誠に、誠に恐れながら、上様の家臣というだけでは大筒を委ねることはできませぬ。
大筒を委ねられる人物は、どんなことが有っても裏切らぬ人物でなくては困ります。
例えば、大筒の構造を知って、その秘密を周囲に漏らすだけで、いずれこの安土城が大筒で狙われることになるやもしれませぬ。
上様は、千種街道を超えられる際に鉄砲で狙撃されたことがおありの筈にございます。
狙撃手は捕縛され、後に死罪になったと聞き及んでおりますが、鉄砲のように多くの者に知れ渡り、誰でもが使えるようになると、誰もが狙われることになりかねません。
上様はそれをお望みでございますか?」
「小癪なことを、・・・。
其方が言うのは、大筒を造ったり、人に渡せば、自分に跳ね返ってくるということか?」
「はい、左様にございます。
使用できるのは我ら一党にお任せ有れば、他所には決して漏れませぬ。
しかしながら、例えば九鬼水軍に彼船を委ねたならば、いずれ秘密は漏れ、敵方に知れましょう。
ここでいう敵方とは、日ノ本だけに非ず、大明国や南蛮諸国にございます。
特に、南蛮諸国にあっては、銃砲に関してはこの日ノ本よりも一日の長がございます。
九鬼水軍が持つ大筒よりも、余程強力な大筒を南蛮は持っておりますが、その件を、南蛮人は余り公表いたしません。
国としてみた場合、最新の兵器は他国に隠すのが当たり前でござりますから、仮に他国に渡すにしても既に南蛮では旧式となった品を渡すのが常套手段にござりましょう。
日ノ本と南蛮は離れておりますが、それでも天竺よりもはるかに遠方の欧州と呼ばれる地ではなく、彼らがアジアで拠点としているバタヴィアやインドはこの日ノ本に比較的近いことから、今後、日ノ本の船が外海に交易に乗り出した場合、いずれ南蛮の国々と軋轢も生じましょう。
そのような際には、国を挙げての戦になるやもしれませぬ。
その戦いの帰趨を決めるのが最新の武器の性能如何となれば、絶対に他所には漏らしてはならない重要な秘密となります。
従って、どなたであれ、私が認めないお方には武器を提供したり貸渡したりはいたしません。
上様は信頼に足るお方と存じますが、実際に武器を扱うのが家臣の方であれば、その方の確認をしなければ委ねることはできません。
さらに、敢えて申し上げるならば、この大筒を使うには数年の訓練と就学が必要にございます。
それが出来ぬ者には、秘密を打ち明けられぬと思し召し下され。」
俺がこう言ったから、信長公は、若干ぶすっとしてるよね。
おそらくは、家臣から申し出を断られたりすることに慣れてはいないのやろうな。
さて、この後どう出るかやが・・・・。
腕を組み、やや伏し目で考え込んでいた信長公やったが、やがて言った。
「秀賢が申すことあいわかった。
癪に障るが、世界を見据えての言い様とあれば、そのわがままを許す。
時に、儂に委ねても良いと思える武器は無いのか?」
「恐れながら、それは他に漏れても差し支えない武器ということでございましょうか?」
「いや、儂だけが使う武器ならば、ほかに漏れる心配は無いであろう。
儂は他の者にその武器を貸したりはせぬ。」
「上様にだけお渡しするのなれば、ございまする。
ただいまは持ち合わせておりませぬが、長浜に戻れば手に入ります。」
「ほう、それはどのような物じゃ?」
「拳銃と申して種子島よりもはるかに小さきものですが、より強力な銃にございます。」
「ふむ、強力というとどの程度のものじゃ?
十間離れて撃った時に、的の板が割れる程度でのうては困るぞ。」
「的にするものが板では、おそらく割れませぬな。
弾と同じ大きさの穴が空くだけにございましょう。
板が割れるのはそれなりに殺傷能力の高い鉄砲にございますが、それよりもはるかに殺傷能力の高い鉄砲ならば、的の板は割れずに弾が貫通いたしまする。
余程に硬い甲冑でも至近距離で放てば、貫通し、甲冑を着込んでいる者に大きな被害を与えましょう。」
「そなたの言うケンジュウとやらは種子島よりも強力だと云うのか?」
「はい、無類の強さを持っておりますが、種子島よりも小さく軽いものにございます。」
「ほう、ならば、この次に我と会う際にはそれを持ってまいれ。」
「はい、お持ちして献上するも吝かではござりませぬが、一つお約束を賜り等ございます。」
「ふむ、約束とはなんじゃ?」
「人には見せぬようお願い申します。
特に、南蛮人等の日ノ本以外の者には決して見せぬようお願い申します。」
「ほう、それは何故じゃ?」
「先ほども申し上げましたが、南蛮人の国々は最新の武器を秘密に致します。
持っている武器が大事であればあるほど、人目には晒しませぬ。
また、その兵器の能力もひけらかしたりは致しませぬ。
武器はいずれ戦の折に使うことになるとは存じますが、それまで、敵にその力を知らしめぬ方が我が方に有利に働きます。
威力を知らぬ者は平然と近寄って参りましょうが、その油断こそが付目にございます。
然しながら、相手が武器の威力を知れば、その対応を考えてまいりましょう。
それが戦の前であれば、此方には不利に働くというものにございます。
南蛮諸国は、多くの国々を侵略し、虐げて来た国々にございます。
日ノ本にある勢力といずれは争いごとが生ずるやもしれませぬ。
その折に、武器の秘密を知っているかどうかが、勝敗の大きな分かれ目になりましょう。
例えば伴天連の坊主どもは、その尖兵にて、この日ノ本の情報を自らの祖国へと知らせ、若しくは持ち帰るのが役割にございます。
些細なことでも知られれば、織田家や日ノ本の弱点になりかねませぬ。
さらに言えば、如何に秘密の武器と言えども、その代物の存在が知れれば、いずれは他の国々でも真似をして作ることになりましょう。
その時期は、遅ければ遅いほど、織田家や日ノ本にとっては利益になりまする。
それゆえ、殿に献上をしても、それらの外つ国の者には見せぬし、知らせぬとお約束くださりませ。
さもなければ、例え信長様とてお渡しできませぬ。」
「ほう、この日ノ本の大事と云うたか・・・・。
それを儂に言うとは、・・・・。
不遜な奴め。
しかしながら、儂を恐れずに物言いするところは気に入った。
此度の本願寺勢を大阪から追い出したのもそなたの力があってこそと聞いておる。
その褒美をやろうと思うが、何か望みはあるか?」
「陪臣の子たる我が身にございます故、褒美など望むべくもございませぬが、・・・。
敢えて申すならば、若狭の国のはずれにある小浜の地のさらに北西端にある毛島の地をいただきとう存じます。」
「ほう、若狭なれば、丹羽長秀に所領として任せておるが、そこが欲しいのか?」
「いいえ、若狭国のはずれ、大飯郡若しくは若西のさらにはずれにあり、丹後との国境ゆえに、若狭とは必ずしも言い難き地にございます。
広さは精々43町歩ほど(約13万坪≒約0,4㎢、標高187m)の無人島にございまして、海岸は切り立っている上に、峻険な山と斜面だけの為、田畑には不向きな土地にございますが、その島に砦を築いて水軍を置くには適した場所かと存じます。
いずれ北海(山陰の海)や越の海を制するには強力な水軍が必要にござりますれば、その根拠地として是非に毛島をいただきとう存じます。」
「ふむ、若狭の地は良く知らぬが、・・・。
もしや、旧武田の所領ではなく、丹後の国、一色の所領か?」
「はい、丹羽様の手勢、逸見昌経殿が、一色勢と縄張り争いをしている境界付近にて、いずれの勢力も手を伸ばしてはいない地にございますが、敢えて申し上げれば、縄張りとしては加佐郡の成生と言う漁民の集落に属するかと。」
「誰も手を伸ばさぬということは、余程利用価値の低い島か?
なればそこを根拠地とすれば、一色一族の水軍が襲って来るやもしれぬが、・・・。
守り切って砦を造れるのか?」
「はい、お許しさえあれば、攻め入って来る一色の水軍、その悉くを打倒してごらんに入れましょう。」
「ふむ、面白い。
いずれ光秀(明智光秀)や藤孝(細川藤孝、信長に仕えてからは長岡藤孝に改めた)に丹後を攻めさせるつもりであったが、可能ならば早めても差し支えあるまい。
秀賢、そなたに毛島を与える故、そちの手勢で毛島の地を占拠し、砦を造れ。
一色が攻め寄せて来るならばそれを押し返せ。
何なら水軍を殲滅しても構わぬ。
向こうから攻めて来たならば、それにより、戦の名目もたつ。
毛島とやらに水軍の砦ができたなら改めて褒美を取らす。
励め。」
「はっ、かしこまり候。」
そんなわけで、信長公から舞鶴市の毛島を水軍の基地にする許しを貰っちゃった。
これで長浜の基地を出ても構わなくなったわけやが、長浜の基地はそれなりに利用価値が有るので蒼龍隊支部として規模を縮小してそのまま残しておくつもりや。
いずれ、蒼龍隊の隊員の大半は、朝来の和田山地区の基地と、毛島と姫路の水軍基地に移動させることになる。
長浜の基地も本当に手狭になったからな。
長浜であれば、これ以上基地を造るにしても、どうしても人目に付かない地下にならざるを得ないんだ。
毛島なら、かなり大規模に地下基地を造れるし、大型船の隠し港も作れるやろう。
毛島の西側海域の港湾設備はかなり巨大なものになるはずやが、ミサイル艇や通船については外部から望見できても構わない。
そうして、これまでは来る者拒まずで、特段の隊員募集は行っていなかったのやが、戦に出張るようになって人手不足が顕在化しているので、蒼龍隊の隊員募集を近江と京の都を中心に始めているんや。
無論、目立つようなやり方はしていないが、ある程度待遇を教えてやると素直についてくる子が多いんっや。
孤児もいるが、食えない子たちが特に集まって来る。
京は都とはいえ、本当に浮浪者の掃き溜めになっているんやで。
地方で食えない者が都に行けば何とかなるのではと集まってきて、最底辺の下層階級をを形成しているわけや。
バッチイ奴がほとんどやが、ウチで受け入れんと、いずれ餓死か病で死ぬ。
まぁ、これも一つの人助けやな。
この人集めを始めてから、隊員の増加率は跳ね上がったな。
今では月に百人単位で集まる気配なんや。
長浜の田村山から離れたところにある第二基地も人が溢れるぐらいになっているから急遽造成工事を行って受け入れ態勢を整えたんやが、この長浜の第二基地の人員は、いずれ全部を朝来と毛島に移転することになる。
後は、各地の拠点を造ることかな。
織田軍の支配地の主だったところには、予め、織田家やその配下の領主にも断って、蒼龍隊支部連絡所と言う隊舎を造っている。
本当は全国各地に造りたいところやが、織田軍に敵対している地域で蒼龍隊の募集も出来まい。
連絡所に駐留するのは精々一個小隊程度やが、そこに入隊希望者が来れば、案内人をつけて長浜なり、朝来なり、姫路なり、毛島なりの最寄り基地に移動させ、蒼龍隊に入隊させることになる。




