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戦国タイムトンネル  作者: サクラ近衛将監
第三章 出陣

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3ー2 三木城攻め その一

 一旦は、織田方に従属したはずの播磨の国で一番影響力のある別所氏が反逆ののろしを上げたのは、天正六年(1578年)三月のことじゃった。

 無論のこと、別所氏単独で織田軍に抗しきれるはずもなく、毛利軍と通じての反旗であり、別所氏は三木城に立てこもったのである。


 中国攻略を進めている羽柴軍団(秀吉叔父貴)にとって厄介なことに、別所氏が反旗を翻すと播磨の国の豪族の半数近くがそれに応じたのだった。

 (しこう)して、秀吉軍は播磨の統制に気を配らねばならぬ事態となった。


 幸いにして別所氏は籠城していて、軍を積極的に仕向けてくることは無かったものの、そのうちに毛利軍が動き始めて、上月城が狙われていることを秀吉叔父貴は知った。

 上月城は、再興なった尼子(あまご)主従が入ったばかりの城であって、手勢も三千足らずと少ない。


 秀吉軍は三木城に包囲軍を()いて上月城救援に向かったのである。

 しかしながら四月には、上月城の四方を三万の毛利勢で包囲されて、総勢でも二万ほどしかない秀吉軍が東と西に勢力を二分されては無理押しができなかった。


 遠回しに対峙しながら苦慮した秀吉は、信長様に援軍の要請を為したのや。

 信長はすぐにも対応して指示をだしたが、指示は明確かつ冷酷なものやった。


「二千や三千の将兵など捨て置き、三木城攻めに全力を挙げよ。」


 つまりは、上月城は見捨てろということである。

 秀吉叔父貴は、わずかの手勢を残して、東の三木城に向かわねばならなかったのじゃ。


 ところで但馬方面を鋭意攻略中のトト様の元へも、援軍の指示が信長様からやってきたのや。

 このためトト様と一緒に但馬を離れ、急ぎ三木城へと向かったのが四月の下旬やった。


 このまま秀吉叔父貴の率いる織田軍に任せていると、史実では三木城攻略に二年もかかるはずなのや。

 上月城に立てこもる剛勇と称される山中鹿之助でも補給なし、援軍無しでとてものこと二年は耐えられない。


 俺は、別に尼子氏や山中鹿之助に恩があるわけではないけれど、味方が無為に死ぬのは避けたいよね。

 それで、本陣に挨拶に行ったついでに、無理を承知で俺は意見具申をしたよ。


「恐れながら、未だ戦功も無き未熟者なれど、三木城攻めにつき具申仕る。

 今宵、我が部隊の夜襲にて、三木城の南にある鷹の尾(たかのお)砦並びに宮の上(みやのうえ)要害を落としたくござ候。

 また、次の日の夜には、三の丸、二の丸の大門を突き崩したく候にて、この段、何とぞお許し下され。」


 秀吉叔父貴が、やや左の眉をあげ、目を剥きつつも言った。

 多分、怒りをこらえている風情かも知れぬな。


「鷹の尾砦と宮の上の要害を落とすとな?

 ぬしの部隊は何人おるのじゃ?」


「私の率いる蒼龍隊は120名にございますが、今宵の奇襲はその半数の60名にて行うつもりにございます。」


 途端に秀吉叔父貴が怒鳴った。


「たわけぇ‼

 戦を甘く見るでないわ。

 鷹の尾砦だけでも敵兵が千五百ほども(こも)って居る。

 僅かに60やそこらの手勢で落とせる砦ではないわ。

 如何に未熟とは言いながら、度が過ぎるわ‼

 ひよっこはおとなしくしておれぃ。」


「お怒りはごもっとも、なれど我が部隊の一当てなりとお許しいただきたく、重ねてお願い申しあぐる。

 この一当てにおいて、我が部隊に一切の死傷者を出さぬことをお誓い申します。

 故に、どうか、どうか今宵の夜襲をお許し下され。」


「ムムムッ、なれば一当てして功無くば、すぐに中止することを条件として許す。

 なお、軍監として、佐々木直道を同道せしめる。

 こなたから援軍は一切出さぬ故左様心得よ。」


 うん、秀吉叔父さん、かなりブンスカ怒ってはいたけれど、取り敢えず一当てだけは許してもらった。

 一当てで無論済ますつもりはない。


 二つの出城は完全に殲滅(せんめつ)するつもりじゃ。

 さもなくば、別所長治に翻意を促すこともできない。


 その後も、彼らが最後まで抵抗するならば、その全てを消し去るのみ。

 一つは、抵抗した場合の行く末を、お味方衆にもわからせるためでもある。


 特に、近い将来裏切りの可能性のある荒木村重辺りには籠城しても無駄なことを教える良い機会だ。

 これで以後の史実がどの程度変わるかやな。


 与一郎が元服まで生きているという事実そのものが、多少なりとも変革を生み出している。

 今ここで俺が歴史を変えることにもう躊躇(ためら)う必要はないやろう。


 歴史自体に復元力があるなら、俺の存在そのものが異物なのだから消滅させるように動くやろな。

 それが起きるまでは俺の勝手気ままに生きてみるさ。


 俺は、当面は日ノ本の統一を手伝い、その上でいずれは広い世界に飛び出して行くつもりなんや。

 既に欧州勢は、アジアへの侵略を始めている。


 それに抗しつつ、北米や豪州など新大陸への進出もできれば果たしたいと願っている。

 今の俺のチート能力ならそれも十分可能だと思う。


 但し、俺一人だけでは達成が難しいから一緒に動いてくれる仲間が多数必要や。

 それが俺の集めた蒼龍隊でもある。


 蒼龍隊を育成して海を()くのが、最も良い方法やろうと思っている。

 日ノ本統一において助ける相手は、信長でも秀吉でも構わない。


 家康は、・・・・。

 うーん、俺としては何となく気に食わない奴なんだよな。


 目的の為なら汚い奸計を使う男や。

 秀吉も似たようなことをするが、家康の方が陰湿で何となく生理的に受け付けない策をめぐらせる。


 実際の発案者は家康ではなくって、その股肱(ここう)の臣がそうさせているとの見方もできるが、最終的に決断しているのは家康であって、それがやっぱり家康の本質的な性格なんやろう。

 因みに後に出てくる「玄海」が持っていた情報を色々聞いた後でも、俺の印象は変わらなかったな。


 往々にして後世に残される歴史と言う奴は、権力者なり為政者に迎合し、脚色されることが多いんや。

 そのために本来なら残っているべき歴史資料すら抹消されることもある。


 従って、どれが真実なのかを見極めねばならないんやが、トト様を例に出すと、トト様の歴史資料はことのほか少ないんや。

 残されている資料では、温厚な人柄と調整能力に優れた人物で、秀吉の補佐であり続けたことしか記されていないらしい。


 この辺は、歴史の傍観者であった玄海がよく知っている。

 そうして一方で玄海の知り得るところでは、正しくその評価そのものの人物であったようやな。


 時に秀吉に諫言(かんげん)することさえあったらしく、晩年はそれでしこりも生じたことがあったようやが、仮にトト様がもっと長く生きていれば、朝鮮出兵は無かった可能性もある。

 また、仮に朝鮮出兵があったにしても、豊臣政権内の軋轢(あつれき)をトト様がうまく調整していたのやろうな。


 その分、トト様には大きなストレスがかかっていたはずやがな。

 秀吉叔父貴は、面倒なことを何でもトト様に押し付ける嫌いがあるから性質(たち)が悪いんだ。


 あの家康でさえ、秀吉叔父貴よりもトト様を信頼していたようやからな。

 俺の場合、史実そのものの実現を防ぎ、若しくは避けることが可能だから、その能力をどう使うかが問題だ。


 例えば、本能寺の変。

 今現在は、天正六年(1578年)やが、史実では天正十年(1582年)に本能寺の変が起きる。


 これは玄海に確認したから間違いが無い。

 俺自体は細かい部分はうろ覚えだったけれど、その辺の年代やら事件のあらましを玄海が情報提供してくれるからものすごく助かっている。


 まぁ、そうは言いながらも、現時点でも少しずつ歴史の改変が進んでいるやろうから、この事象や時期が少しずつずれたり異なったりする可能性は高い。

 例えば、本能寺の変が早まったり、別の場所、別の関係者で起こされたりする可能性だってあり得るやろな。


 何せ、信長と言う男は、周囲の者からとかく(うら)まれやすい。

 秀吉叔父貴はその辺を演技や擬態で恨みを何とか(かわ)しているが、家康の様に生きているうちに一族の基盤を作り出せなかったから、一代の英傑(えいけつ)で終わってしまったんや。


 関白になったことで、秀吉叔父貴の業績が種々脚色されて都合の良いように替えられたりもしているんだが、元々秀吉叔父貴は非情な男や。

 この三木城攻めにおいても、俺が参入しなければ二年も続くわけなんやし、史実では、最終的に城主である別所長治が自分の首を差し出して、臣下の助命を条件に降伏する。


 しかしながら、玄海の記憶によれば、この約束にも関わらず、秀吉叔父貴は別所長治の自決の後で三木城に籠った将兵全てを殺戮(さつりく)したらしい。

 トト様も反対はしたようだが、最後は押し切られたようやな。


 で、この史実は巧妙に隠されている様なんや。

 俺も約束ぐらい守れよと言いたいわけやが、秀吉叔父貴はどうもそんな男の様だ。


 この辺は、後に織田家の後継者から天下を奪ったことでも推量できるやろう。

 信長はその点、かなり極端な性格やから、ろくな説明もなしに人を動かすので、色々と恨みを買いやすいんやが、一度交わした約束はしっかりと守る男のようだぜ。


 マムシと言われた斎藤道三を信用して、清州城の留守番を頼むぐらいの(たわ)け者だな。

 だが、その一方で、裏切りは許さない男でもある。


 だから味方の尼子勢の救出よりも、裏切り者の粛清(しゅくせい)を優先して秀吉叔父貴に命じたわけや。

 まぁ、四面楚歌(しめんそか)のような織田軍の現状からして、裏切りは早めに処理しておかないと命取りになる可能性はあったんやけどね。


 種々の事情はあるやろうけれど、それなのに城攻めに二年もかける秀吉叔父貴も少々問題だよな。

 だから、俺が多少無理してでも前面に出張ることにしたわけや。


 蒼龍隊の実力は、できる限り秘密にして隠すつもりやが、それでも相応の結果を出せば、周囲からは目を付けられるし、色々と勘繰(かんぐ)られることになるやろな。

 そのリスクを重々承知の上で、今回の夜襲を申し出たんや。


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