3ー3 三木城攻め その二
やる以上は徹底してやる。
天正六年皐月11日の日没後に俺の命令一過、蒼龍隊は動き始めた。
今回出撃する半数の60名を前に、取り敢えずブリーフィングや。
式神と俺の気配察知による敵の配置状況を踏まえ、彼らに絵図を示して狙う場所を的確に指示する。
因みに、叔父貴の派遣した軍監の佐々木何某には、俺の指示の詳細がわからないように徹底した隠語で指示をしているんやで。
まぁ、英語やらスペイン語などが混じった指示は、その大部分の単語が分からないはずや。
これは、蒼龍隊内部で推し進めていた間諜対策でもあるんや。
仲間内で話している内容が外に漏れないようにするには、言葉を変え、手話なども用いて秘匿するのが一番や。
そうしたことにも長けた連中だけを今回は連れて来ている。
基地に残っている連中の大部分は、未だ訓練・養成中なんだ。
ブリーフィングは、15分ほどで終了した。
参加者全員に腕時計型の無線装置を配分しており、作戦決行は午後8時と決めている。
生憎とこの時代の時刻とは必ずしも整合していない。
日出と日没に合わせた十二支刻みのアバウトな刻限は、24時間制の時計には盛り込めないんだ。
午後八時は「戌時」の「五つ」なんだろうが、まぁ季節により微妙にずれるよね。
配分した腕時計は、俺の時計が親機になって、全部を自動的に整合している。
前世のネットの時刻整合と思っていれば間違いないやろう。
俺の時計が遅れれば、皆の時計も遅れるという訳や。
午後八時少し前、蒼龍隊精鋭60名は所定の配置についた。
最初に狙うは、東西に延びる土塁の砦である宮の上要害、そこを殲滅したなら、次は鷹の尾砦の順番や。
この二つの砦は、互いにけん制しながら、三木城の南側を堅固に守っている。
従って、この二つを落とせば、南側の守りは非常に手薄になるわけや。
史実でもこの鷹の尾砦を奪われて、最終的に別所長治は降伏を決めたのや。
羽柴軍は周囲を固めるだけで、支城などを落とすことに専念していたので、籠城側とはこれまでさしたる戦闘も無い。
羽柴軍としては、毛利との戦いを控えているので極力損耗を控えたかったのや。
史実ではそのために二年もの時間をかけた。
最初に暗視カメラを搭載したドローンで敵状を視察すると同時に、距離を測った。
宮の上要害の上空で爆薬を破裂させるためには、発射地点からの角度と正確な距離が必要だったのや。
そのデータを指定された隊員に伝達し、時限信管をセットした上で、腕時計で午後八時きっかりに攻撃開始の指令を行った。
12丁の弩弓から発射された爆裂弾は、弧を描きながら目標上空に達し、予定通り子爆弾の雨を降らせる。
蛇のように長い宮の上要害は下からの攻撃には守りやすい地形だが、上からの攻撃には全く無防備であり、逃げる場所もほとんど無い。
ここを守っていた岡村氏は、史実では土壇場で織田方に寝がえり、そのために鷹の尾砦が陥落することになるのやが、それは二年近く後の話なんや。
まぁ、多分、叔父貴かトト様が調略で寝返らせたのやろな。
その辺は実に上手い兄弟なんじゃ。
だが、そこまで待っていると上月城が持たない。
だからここで俺が時間を早めるんや。
僅かに二、三分程度の攻撃で宮の上要害が沈黙した。
次いでドローンで生体反応を確認しつつ、精鋭部隊が斜面を駆け上り、要害の中に侵入して抵抗者の存在確認をする。
生存者がいれば確実に息の根を止めるようにと、事前に指示をしている。
特に、今回は攻撃手法の秘密を守るためにも、生存者は一人として残さないのや。
午後8時15分には、蒼龍隊60名全員が要害の上に居た。
そこから、今度は20基の弩弓で、爆裂弾二種類を発射する。
12基は子爆弾搭載の爆裂弾、残り8基は時限信管を備えており、目標の土塁に突き刺さってから爆発を起こす特殊な爆裂弾や。
12基が一斉に鷹の尾砦上空に向けて爆裂弾を発射し、子爆弾の雨を降らせた。
一方で、残り8基のうち4基が、要害と鷹の尾砦の間をつなぐ通路に立ちふさがる土塁を攻撃し、その一部を粉砕する。
立て続けに起こった派手な爆発音で、おそらくは敵味方とも絶対に仮眠から跳ね起きたことやろが、そんなことは俺の知ったこっちゃない。
再度、式神とドローンで状況を確認し、なおかつ俺の気配察知でもトリプルチェックの上で、蒼龍隊を鷹の尾砦に侵攻させ、生き残っていたものを殲滅する。
生存者は少なからず居たものの、そのほとんどが重傷を負って抵抗できるような余力を持っていなかったから、殲滅・掃討は左程長くはかからなかった。
中隊長から占領作戦終了の連絡をもらったのは午後8時32分のことやった。
この時点で、鷹ノ尾砦の敵方に生存者はいないということだが、最大半時(1時間)程度を見込んでいたのに、予想よりも早かったな。
俺は、宮の前要害に在って、傍にいる軍監の佐々木何某に告げた。
「現時点を持って作戦を終了する。
宮の前要害と、鷹ノ尾砦の奪取が終了した。
お味方が到着するまで、我が部隊で砦を守ります。
佐々木殿は、至急本陣にこのことをお知らせくださるようお願い申します。」
まぁね、これ以上ここで戦闘するつもりは無いから、軍監も居る必要が無いんや。
だから本陣に戻ってほしいんやけど・・・。
残念なことに、傍にいた伝令を走らせるだけで、この佐々木何某は居座るつもりらしい。
蒼龍隊は漏れの命令により交代で休息を取り始めた。
それから四時間ほど経ってから、宮の前と鷹ノ尾双方に味方の守備兵が到着した。
俺たち青龍隊は、ようやく持ち場を離れて本陣近くの幕舎に戻ることができたんだが、俺の方は夜分にも関わらずトト様に報告じゃぁ。
側近の話では、トト様も攻撃開始時には随分と心配していたようで、当然大きな連続する爆発音には驚かされた口らしい。
その後半時ほどで、俺から出した伝令が予定の戦闘行動が終了したと伝えてくれたので、安心して寝ていたところらしい。
概略の説明をすると、ようやったと笑顔で褒めてくれたな。
だが、総大将である秀吉叔父貴への報告は、急ぐことでもないので皐月12日の夜明けまで待つ方がよいだろう。
という訳で俺も幕舎に戻って仮眠をしたんだが、余り寝られないうちに叩き起こされた。
総大将の元へ行って昨夜の様子を説明しろとの命令らしい。
全く俺が仮眠をとったのは午前四時近くの話やぞ。
未成年・・・、イヤ、まぁ、元服しているから成人ではあるな。
だが成長期の少年に対してはもっと労わりの心があっても良いんじゃないか?
しっかり寝られないと今後の成長に差し支えるじゃないか・・・。
そんな風にぶつくさ思いながらも、報告のための支度をして、本陣でふんぞり返っている秀吉叔父貴の前に出て行く俺やった。
民家の大広間を使って諸将が居並ぶ中で報告を求められた。
だが、こんなところで秘密を暴露するわけにはいかないから、当然に内容は端折ったよ。
しかしながら叔父貴が食い下がる。
「ようやった。
褒めて取らす。
が、ヌシの使った武器は一体何じゃ。
あのように盛大に轟音と火花を散らすものは見たことが無いぞ。」
「恐れながら、我が蒼龍隊の力の源にも関わる秘密なれば、ここでお話しするわけにはまいりません。」
「ここは儂の腹心ばかりじゃ。
秘密の漏れる心配はないから話してみよ。」
「大変失礼ながら、お味方の振りをしていた別所長治が三木城に立て籠っております。
いつ何時、敵対するかわからぬ以上、徹底して秘密を守ることにこそ意義がございます。
従って、御大将のお言葉なれど、詳細を申し上げるわけにはまいりません。
前にも申し上げた通り、わが命に関わることなれば・・・。」
「ふむ、同じ言葉を確かに先日も吐いていたのぉ。
止むを得ぬか・・・。
その力、わが軍のために使えよ。」
「それは勿論のことにございます。」
「で、ヌシは今宵も二の丸等の城門を破るつもりか?」
「御大将の御下知であれば、何時にても、・・・。
但し、皆夜襲にて疲れておりますれば、叶うなれば今宵まで休息を戴きたく存じます。」
「ふむ、今宵の夜襲は取り敢えず無しじゃ。
此度の二つの砦の奪取により、長治が降るやもしれぬ。
降らねば、城ごと潰すまでじゃが、少なくとも二日の余裕は与えたい。
じゃによって、別命あるまでヌシと蒼龍隊は待機じゃ。」
羽柴軍の降伏勧告に対して、二日後長治は降伏した。
別所一族は死罪、その他の家臣団は助命の上、播磨より所払いとされた。
史実では明確に記録が残らなかったことながら、長治の切腹後に城兵全てをなで斬りにした筈やが、今回は助命が通ったようで、別所一族の命だけで済んでいた。
それからさらに二日してまた俺は呼び出されたよ。
今度は秀吉叔父貴、トト様、竹中半兵衛、黒田官兵衛が集まる秘密の軍議の様や。
「秀賢、よう参った。
ぬしに来てもらったは、ほかでもない。
上月城のことじゃ。
上様からは上月城を捨てて、三木城を落とせと命じられたが、その三木城攻略がなった今、上月城を救援せねばならんのじゃが・・・・。
手が無いのじゃ。
我が羽柴軍はおよそ二万、此度は上様からの命があり、一時的に我が軍の数も増えたが、三木城攻略がなった今、客将は順次引き上げており、毛利攻めには使えんのじゃ。
情報によれば、上月城は四方を3万の毛利勢で囲まれており、毛利は積極的な攻めは行っていないらしい。
従って、我らがのこのこと救援に参るとその矛先が我らに向くは必定じゃ。
三万対二万の軍勢がぶつかれば、我らが不利であり、負けずとも大きな被害を受け様な。
儂としては上月城に籠る尼子主従を何とか助けたいのじゃが、なんぞ毛利勢を引かす手立てはないものか。
陥落まで数か月はかかると見込んでいたに、実質二日で三木城を落としたヌシならば、何かができるのではないかと思うて、呼んだのじゃ。
何か策があれば申してみよ。」
「フム、我が青龍隊に全てをお任せいただけるならば毛利軍を攪乱し、上月城の包囲を解かせることができるやもしれません。」
「ほう、できるか?
で、それはどのような策じゃ?」




