第53話 黄金の檻⑥
夜になると、ブレイズガルド城ではちょっとした騒ぎが起きていた。
「国王様、イザベラ様!」
兵士が慌てて、ジンとイザベラの元へ駆け寄る。
「何だ?騒々しい」
「ミシカ様が部屋から居なくなっています!」
「何だと!?見張りの者はどうした!」
「そ、それが……何かで眠らされているようで……何をしても起きないのです」
「ふ、ふざけるな!この能無し共が!!今すぐ探せ!!誰も街から出られないように封鎖しろ!」
「はっ!」
イザベラは怪訝な顔で考え込む。
(ミシカが脱走?生意気な小娘め……明日には家宝を開けさせて始末しようと思って……家宝!?)
イザベラは立ち上がる。
「お母様?どうしたの?」
「何でもないわ。少し部屋に戻るわね」
イザベラは急ぎ足で部屋に戻り、家宝の木箱を置いたはずの棚を確認する。
「木箱がない?あの小娘……ここから持ち出して逃げ出したというのか?一体どうやって……クソっ!あと少しだというのに!!」
そこへジンがやってくる。
「イザベラ、そんなに慌ててどうしたのだ?顔色が悪いぞ?」
「あ、あなた……大丈夫よ。それより、必ずミシカを連れ戻して!あんな頭のおかしくなった子が民に知れたら……王家の面目は丸つぶれになるわよ!」
「わ、わかっている。それよりも、お前の力で探し出せないのか?」
ジンはイザベラの占いの力を頼ろうとする。
「そ、それは……そう遠くには行ってないわ!必ずこの国のどこかにいる!」
「やはりそうか。今この国は誰も出れないよう封鎖させたところだ。すぐに見つかるだろう」
(あの小娘……何を企んでいる……見つけたら足を切り落としてやる)
その頃、俺たちは墓地で、サラの墓を掘り起こしていた。
『何やら街の方が騒がしくなってきたな?急いだ方が良さそうだぞ?』
俺たちはクサレマグロの声に、手を早める。
「ボクヤルー!」
サバオがものすごい勢いで掘り始める。
「さ、さすがドラゴンだな……もう棺が見えてきたぞ?」
アリシアが感心している。
「ドラゴンと穴掘りって関係あるのかな……」
俺たちは棺を取り出す。
「サバオ、念の為に掘った場所は元に戻しておいてください」
「ワカッター!」
「それでは開けてみましょう。アリシア、手伝ってもらえますか?」
「あ、ああ」
エピステーメーとアリシアが棺を開けようとした時だった。
「待って」
クレアが制止する。
「ミシカ様、本当によろしいのですね?もしかすると辛いものを見ることになります」
ミシカは少しの間沈黙。その後、静かに頷く。
「……お願いします」
エピステーメーとアリシアは棺の蓋を開ける。
すると、全然驚愕する。
「ーーーーーーーーッ!?」
『な、何だと?』
クサレマグロですらも驚いている。
そこには、10年前に埋葬されたはずのサラがその時の姿のままであったのだ。
「……お母様?」
ミシカはその場で固まる。
「ど、どういう事だ?サラ女王が亡くなったのは10年前だろう?一切腐敗してないじゃないか」
アリシアは震えた声でエピステーメーに問いかける。
「これでサラ様はイザベラの部屋にあった農薬で殺されたと断定できます。クサレマグロ様、エヴァンシアの方はどうでしたか?」
『ああ、ナルシスの言う通り、ユーダイモニアの行商人からイザベラが農薬を買い付けていた記録があったそうだ。サラに致死量の農薬を盛った後、新たに他の人間を病気に見せかけて殺す為に、お前たちが見つけてきた農薬を買い付けていたのだろう』
「エピステーメーさん?サラ女王の遺体が腐敗していないのは?」
レイシェルがエピステーメーに問いかける。
「お、おい!誰かこっちへ来ているようだぞ?」
俺は慌てて皆に声をかける。
「話は魔装船に戻ってからにしましょう。恐らく、ミシカが城から居なくなったことに気付かれて、兵士が国中を探しているのかと」
レイシェルの左目が静かに光る。
「こっちよ!こっちからならまだ大丈夫」
俺たちはレイシェルの後をついて行く。
「サバオ、サラ女王の棺、落とすなよ?」
「マカセテー!」
サバオはサラの棺を持ち上げ、皆の後をついてくる。
レイシェルの未来視で、何とか兵士をかいくぐって魔装船に到着し、船に乗り込むと、兵士たちがやって来る。
「この船が怪しいぞ?」
ガリが立ち塞がる。
「何だ?お前たちは」
「どけ!中を調べさせてもらう」
ガリが武器を構えようとした時だった。
「待て。この中にはミシカ様はいない。早く別の場所を探せ!」
「クレア様!わかりました!!」
兵士たちは魔装船から離れていく。
「ふぅ……何とか間に合ったわ」
「クレアさん、ありがとうございます。最悪奴らを始末してしまうところでした」
ガリはクレアに頭を下げる。
「いいのよ。さあ、あなたも中へ行きましょう。乗り込み口を封鎖すれば兵士も来ないわ」
「わかりました」
船の中では、一切腐敗してないサラの遺体を前に、エピステーメーが話の続きを始める。
「……お母様、一体10年前に何があったの?」
「先程の話の続きですが、サラ様の遺体が10年も経って腐敗していないのは、この農薬に入っているヒ素のせいです」
「ヒ素?」
「はい、ヒ素には遺体の防腐効果があります。恐らく、サラ様は一気に致死量のヒ素を盛られたのかと……そのまま亡くなられて、体内にはそのまま農薬が残った状態なので、今もこうして腐敗することなくこの状態なのです」
「お母様……」
ミシカはサラの死の真相を知り、涙を浮かべる。
『これで、サラ女王は農薬で殺されたということが証明出来るということだな?問題はこれだけ長い間腐敗しないほどの致死量の農薬をどうやって盛られたかだな?ナルシス、さすがにそこまではわからないか?』
「申し訳ありません……そこまでは……」
エピステーメーは俯きながらメガネをクイッと上げる。
「うーん、この世界には防犯カメラなんかないもんな」
「ミシカ、クレア、当時の事で何か覚えていることはないですか?」
「わ、私は……朝起きたらお母様が多臓器不全で亡くなったとしか聞かされてなくて……」
「私も、同じよ」
「…………」
サラの死の真相が明らかとなり、イザベラの部屋から出てきた農薬、ユーダイモニアの行商人から買い付けていたこと、そして、腐敗していないサラの遺体。
間違いなくイザベラに殺されたということは明らかであるが、どうやって致死量の農薬を盛られたか、というところで詰まってしまった。
「うーん、やっぱりイザベラ本人から聞くしかないか?」
俺がそう言うと、エピステーメーは呆れたように返す。
「ソウジ、そんな簡単に白状してくれるなら苦労はしませんよ……」
『クク……そうだな。相棒の言う通り、本人に言わせるのが一番だ』
「え?」
「クサレマグロ殿、何か考えでも?」
『ああ。明日が楽しみだな』
「……そうね、必ずこちらが優勢に出れるタイミングがある!その時ね?」
レイシェルの言葉に全員頷く。
「じゃあ明日に備えて今日は休むか」
俺が皆に声をかけた時だった。
『待て。悲劇姫』
「えっと……私のことかしら?」
クサレマグロはミシカを呼び止める。
俺たちも足を止める。
『サラ女王の付けているブレスレットに見覚えはあるか
か?』
「これは……私が幼い頃お母様に初めてプレゼントした手作りのブレスレットよ」
ミシカは涙を浮かべながら話す。
『……残留思念が残っている。それだけ大切にしていたのだろう。聞いてみるか?』
「!?」
クサレマグロはミシカに、残留思念が感じられるようにする。
《ミシカ!ありがとう!どんな宝石も敵わないくらい素敵よ!!》
《ミシカ、どう?似合うかしら?》
《フフ、ミシカのおかげで、また魅力的になってしまうわね》
《ミシカ、いつまでも愛しているわ》
《ミシカ……》
「……お母様...お母様ぁぁ!!!」
ミシカはその場で泣き崩れる。
クレアは何も言わず、涙を浮かべながらミシカに寄り添う。
しばらくすると、ミシカは決意に満ちた目で言う。
「明日、奪われたものを全て取り返すわ!」
全員頷く。
そして翌日。決戦の日を迎えるのであった。
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ーーおまけ小話ーー
【サバオ運輸】
(タタタタタッ!)
「あんな大きな棺を持ち上げて軽快に走るなんて……」
「我が騎士団にスカウトしたい……」




