第48話 黄金の檻①
「チッ……面倒な国だな」
薄暗い地下牢で、手枷と足枷を付けられ、捕らえられたカエラは一人呟いた。
カエラが捕らえられる数時間前、俺たちは灼熱と闘技文化の国、イグニス大陸のブレイズガルド国に到着していた。
ユーダイモニアでエヴァンシアから得た情報、世界規模で行われる武闘大会、“極闘祭”に参加する為である。
極闘祭を三日後に控えた俺たちは、各自自由行動としていた。
イグニスの街は活気に溢れているが、どこか空気が荒れていた。
武装した傭兵、奴隷商、裏路地の視線。
カエラはこの街の“裏”を敏感に感じ取っていた。
「ミレア、どこに行くんだい?」
カエラはミレアに声をかける。
「食材の買出しですよ!美味しい物食べて、みんなにいっぱい力つけてもらわないと!」
「それならアタシも一緒に行くよ。この街の中をアンタ一人で歩かせるわけにはいかないからね」
「わあ、カエラさんが護衛ですね!じゃあお願いします」
買い物の途中、ミレアが露店に目を奪われ、カエラから離れる。カエラは少し離れた場所でミレアを見ていた。
その時だった。
フードを深く被った一人の女性がカエラに接触。
何やら切羽詰まった様子であった。
「お願い!少しだけ……力を貸して!」
女性は酷く怯えており、後方を何度も確認している。
(何だ、この女……追われてるのか?)
カエラは警戒するが、彼女の本当に命の危険を感じている顔を見て、舌打ちをしながら頷く。
すると、女性はカエラを路地裏に連れていく。
「早く!武器を手に取って!」
カエラは言われるがままに短剣を手に取る。
「おい、どういうことだ?」
「お願い……何も言わないで……このまま戻されたら……また……」
すると、女性はカエラの腕を自分の首に回し、羽交い締めのような形をとる。
「いたぞ!誘拐犯だ!!」
「は?」
女性はカエラの腕の中で気絶のフリをする。
「お、おい!」
「……」
「おい!抵抗するな!!」
瞬く間にカエラは兵士に囲まれる。
カエラは瞬時に、ーー嵌められたーーと理解する。
当然、カエラの実力であれば逃げることも兵士を蹴散らす事も可能だ。
しかし、ここで暴れて一般市民を巻き込めない、ミレアともはぐれてしまっている。更には相手の狙いもわからない、下手に逃げて指名手配になっても仲間に迷惑をかけてしまう。
カエラはこれらを瞬時に計算し、あえてあっさり捕まってしまうのであった。
「あれ?カエラさん、さっきまでそこにいたのに……先に戻ったのかしら?」
カエラの姿がないことに気が付いたミレア。
まさかカエラが捕縛されたとは思わず、そのまま魔装船に戻った。
そして、地下牢。
カエラは“嵌められた”と思いつつも、経験上あの女が嘘を言っている顔ではないとも理解していた。
「何だってんだよ……」
するとそこに二人の兵士を引き連れた女性兵士が現れる。
カエラはこの女性兵士が只者ではないとすぐに感じた。
「君たちは戻っていてくれ。彼女と二人で話がしたい」
「はっ!」
二人の兵士は戻っていく。
そして女性兵士は、静かにカエラの前へ歩み寄る。
「何だい、アンタ?アタシに拷問でもしようってのか?」
すると、女性騎士は跪く。
「違う。まずは謝罪をさせてほしい」
「は?」
「ミシカ様があなたを巻き込んだ……本当に申し訳ない」
「……あの女、ミシカって言うのかい?」
「ええ、彼女はこのブレイズガルド国の第一王女ミシカ様。今この国で唯一“本物の王家の血”を継いでいる存在よ。そして、私はミシカ様の幼なじみで、この国の騎士団副団長のクレアよ」
「クレアね。唯一ってどういうことだい?」
「ええ、今ここで全てを話す時間はないけど……」
クレアはこの国のこと、ミシカのことをカエラに話す。
「……腐ってやがるな」
「そう、この国は腐ってる。でも、私一人ではもう……どうにもできない」
クレアは悔しそうに涙を浮かべる。
「で、アタシはこれからどうなる予定なんだい?」
「この国では、王族誘拐罪は極刑なの……」
「それで?アンタのその話だと、アタシは冤罪で解放ってのは難しそうだね?」
「ええ、でもあなた……相当腕が立つわね?」
「まあ……それなりにな?」
「それならば……今一番手っ取り早く助かる方法は一つ、極闘祭で優勝することよ」
クレアが言うには、極闘祭には罪人にも参加資格があるらしく、優勝すると恩赦により極刑も免れるという。
「なるほどな、いいよ。元々そのつもりで来たしな」
「ありがとう。もしもの時は私が命に代えてでもあなたを助けると約束するわ」
「……わかった、アンタのことは信用するよ。その代わり一つ頼みがあるんだ」
「ええ、できる限りのことはするわ」
「魔装船にいるアタシの仲間たちにこの事を伝えてほしいんだ。その中にソウジっていうアタシの主がいる。アイツなら必ずアタシとミシカを助ける為にアンタに協力するはずだよ」
「……わかった、すぐに向かうわ」
そう言い残すと、クレアは地下牢を去っていく。
「全く……頼んだよ、主...」
すっかり日も暮れて、夜になる。
魔装船ではカエラ以外の全員が揃っていた。
「あれ?カエラは?」
俺はみんなに問いかけた。
「あ、私の買出しに同行してもらったんですけど、途中で私が露店を見てる間にはぐれちゃって……」
ミレアはみんなに説明する。
「まあカエラなら心配ないさ。腕も立つし頭もいい」
アリシアがそう言った時だった。
『客人が来たようだぞ?それもとびきりの腕を持った者だな』
クサレマグロの声に俺たちは甲板に出ると、そこにはフードで身を隠した女性が立っていた。
「確かに只者ではないな……」
アリシアは警戒する。
「待って、私はあなたたちと争う気はないの。私はブレイズガルド国騎士団副団長のクレア」
「ブレイズガルド国のクレアだと!?あの天才槍術士のクレアか?」
「アリシア、知ってるのか?」
「知ってるも何も……彼女の名声は世界中の武人たちが知っているぞ!」
『ほう?それは是非一度手合わせを……』
「やめてくれ、クサレマグロ……」
「それで?クレア殿、貴殿は何故ここに?」
「カエラさんから聞いて来たの。こちらにいるソウジさんという方に話せば、必ず協力してもらえると」
「あ、ああ。ソウジって俺だけど?」
俺は一歩前に出る。
(この人がソウジさん?すごく誠実な目をしてるわ)
「クレア、カエラはどこにいるんだ?」
「……カエラさんは、ブレイズガルド城の地下牢に投獄されているわ」
「ーーーーッ!?」
「クレア殿!カエラが投獄されたとはどういうことだ!?」
アリシアは鬼気迫る表情でクレアに詰め寄る。
「落ち着いて?アリシアさん。私はカエラさんに頼まれて、あなたたちに話を伝えにきたの」
「話だと?」
「アリシア、落ち着け。まずは話を聞こう」
まだ興奮しているアリシアを宥め、俺たちは食堂のテーブルにつく。
「それで?カエラはなんで地下牢に入ってるんだ?」
俺はクレアに問いかけた。
「王族誘拐罪よ……このままいくと極刑になる。でも……」
「ふざけるな!!極刑だと!?カエラがそんな事するはずないだろ!!!」
アリシアは憤慨する。
「アリシアさん、待って!話を聞いて!!」
「待てるか!私はカエラを助けに行く!!」
アリシアは立ち上がり、そのまま船を出ようとする。
「待て、アリシア!落ち着いて、まずは話を聞こう!!」
「落ち着いていられるか……カエラが、カエラが極刑なんて……」
「クレア、ちゃんと俺たちが納得できる話なんだろ?」
「ええ、もちろんよ。まずは話を聞いてほしい」
「……わかった、取り乱してすまない」
「フフ♡アリシアさんはカエラさんのこと大好きなのね♡♡」
レイシェルは揶揄うようにアリシアにそう言う。
「や、やめてくれ……ただ私は、カエラがそんな事をする人間でないことをわかっているからで……」
「それはここにいる誰もがそう思っていますよ」
エピステーメーがメガネをクイッと上げると、皆頷く。
(これがカエラさんの仲間か……思っていたより素晴らしい方たちね。この人たちなら本当に……)
そして、クレアは俺たちに、カエラに何があったのか、今この国では何が起きているのかを話し始めるのであった。
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ーーおまけ小話ーー
【演技指導?】
「もっと腕の角度は……そう、首を絞めるようにして……」
「いや、マジで何なんの?」




