第41話 千年の約束②
――継承終了まで、あと48分
聖域の奥。
泉を中心に広がるその場所では、すでに異様な気配が満ちていた。
ルナは光に包まれ、その姿は見えない。
ただ静かに、神性の波動だけが脈打っている。
クサレマグロは剣を構え、ゆっくりと息を吐いた。
「……来るか」
空間が歪む。
次の瞬間、複数の影が這い出るように現れた。
人間のようにも見えるが、どこか違う異質の存在。
敵はルナを包んでいる光を攻撃しようとするが、クサレマグロが全て阻止。
そして、クサレマグロは次々と湧いて出る敵を次々と倒していく。
背後で横たわる女神が目を細めた。
「さすが、世界最強の魔剣士ですね。もはや人類最強なのでは?」
「我は元より真の強さを求めるため、旅を続けていた」
「そうでしたか…それで……真の強さとは何でしたか?」
「愛する者を守ること、それが、我の辿り着いた真の強さよ!」
その言葉を合図にするかのように、敵が一斉に動いた。
クサレマグロは一歩踏み込み、一体を斬り捨てる。
返す刃で二体目の首を刎ね、三体目の胸を貫いた。
その動きは速く、そして正確だった。
「……数が多いな」
次々と湧き出る敵に、わずかに眉をひそめる。
「さすがにこの数の“神族”を相手にするのは疲れるな……」
「あなたたち人間を巻きこんでしまって、申し訳ありません」
「……何を今更」
クサレマグロは再び動き出し、ルナを包む光へ向かおうとする存在を、ただひたすらに斬り伏せていく。
――継承終了まで、あと35分
空間が大きく揺れた。
それまでの雑兵とは明らかに違う“気配”。
床を這うような音とともに、現れたそれは――
「……ほう」
下半身が巨大な蛇。
上半身は人の形をしているが、目は濁り、口元には歪んだ笑み。
「面白い……人間風情がここまで持ちこたえるとはな」
今までとは明らかに違う存在感であった。
クサレマグロは剣を軽く振り、血を払う。
「お前がこいつらの頭か?」
「頭、などという俗な言い方は好かぬが……そう捉えてもらって構わぬ。私の名は……」
「必要ない」
「なんだと?」
「これから我に滅される有象無象の名など、知る必要がないと言ったのだ」
「人間風情め……」
蛇の男はゆっくりと鎌首をもたげる。
クサレマグロは静かに構え直す。
「貴様はここで終わる」
「我はここで止まるわけにはいかん」
二人の間に、重い沈黙が落ちた。
――継承終了まで、あと30分
次の瞬間、クサレマグロと蛇の男は衝突。
蛇の男の尾が鞭のようにしなり、空間を裂く。
それを紙一重で避け、クサレマグロは踏み込む。
だが――
「遅い!」
腹部の衝撃とともに、クサレマグロは吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
すぐに立ち上がるが、敵はすでに距離を詰めていた。
連撃。
斬り結びながらも、徐々に押されていく。
「どうした?その程度か」
「クザレ・マクロイヤー……」
女神は心配そうに戦況を見守る。
(くそ……朝から三発はやりすぎたか……体が思うように動かぬ)
※自業自得のクサレマグロ
さらに、周囲に再び裂け目が開き、増援が現れる。
「……面倒だな」
クサレマグロは舌打ちする。
襲いかかる敵の増援をクサレマグロは次々にたおしていく。
しかし、これに紛れて、蛇の男はクサレマグロの腹部に自らの尾を突き刺す。
「うおぉぉぉぉ!!!」
クサレマグロはそれでも動きを止めず、敵の増援をなぎ倒していく。
「クザレ・マクロイヤー!」
クサレマグロは女神の必死の叫びを耳にすると、
蛇の男の視線がルナの光へ向いていることに気付く。
「……さて、さっさと仕事を終わらせるとしよう。コイツを潰して、中の女は……いい女だったよなぁ……」
「ーーーーーーーッ!?」
蛇の男が光へと向かって動きだし、その手を伸ばす。
「貴様、誰にその手を触れようとしている……」
クサレマグロの瞳が変わる。
一瞬で間合いを詰め、強引にその進路を断ち切る。
空気が震えた。
魔力が爆発する。
「ルナに触れようとする者は……全て消し去る」
――継承終了まで、あと15分。
クサレマグロのその姿は、明らかに変わっていた。
髪は淡く光を帯び、瞳には異様な輝きが宿る。
「……ほう」
蛇の男が目を細める。
「人間の域を、とうに越えているな」
「我は元より人間の域にあらず」
クサレマグロは剣を振るう。
一閃。
今度は、敵の腕を斬り飛ばした。
ここからクサレマグロの怒涛の反撃が始まる。
周囲の敵を一瞬で薙ぎ払い、空間を制圧する。
「……まだ終わらん」
蛇の男は笑った。
再び激突。
剣と爪、尾と拳がぶつかり合う。
火花が散り、衝撃が空間を揺らす。
クサレマグロが剣に魔力を込め、強烈な一撃を振り下ろすと、蛇の男は爪で受け止める。
「……ッ!?」
その時、嫌な音が響いた。
クサレマグロの剣の刀身にひびが入る。
しかし、クサレマグロはそのまま打ち合いを続ける。
蛇の男の尾がクサレマグロの心臓をめがけて突き刺そうとしたところで、一度間合いをとったその時であった。
クサレマグロの剣はついに折れてしまったのだ。
「ハハハ!やはりな!」
蛇の男が嘲笑う。
「いかに貴様に力があろうと、剣が耐えられぬか……これでもう終わりだ!」
それでも、クサレマグロは構えを崩さない。
――継承終了まで、あと7分。
ーーーーー光に包まれたルナは、ぼんやりとした意識の中、クサレマグロとの思い出を見ていた。
「私が女神様の後継者に選ばれたって、村から送り出されて……私早速死にかけたのよね(笑)」
村を出て間もなく。ルナは見たこともない魔獣に襲われていた。
ルナは僅かに扱える魔法で応戦したが、全く歯が立たず。まさに窮地を迎えていた。
その時だった。颯爽と現れたその男は、一撃で魔獣を斬り捨てた。
それがクサレマグロだったのだ。
「フフ、今思えば野蛮な人よね(笑)
でもそのまま、ついてくるなと言ったクーちゃんについて行ったのよね。私の旅の終着点は聖域だから、それまでは……って」
その後、二人で世界中を旅することとなる。
恋愛感情に乏しいクサレマグロであったが、ルナの美しさ、何よりもその笑顔と優しさに惹かれていったのだ。
「……あの時だったわね、初めてクーちゃんが……あの時からもう恋人というか夫婦というか、それ以上の関係だったかしら(笑)」
『この海を越えた先にセレスティアという町があって、その近くに聖域があるそうだ』
『……』
『どうした?』
『ううん……もう、あなたとの旅が終わっちゃうんだなぁって』
『使命があるからとか言っていただろう?』
『……うん。でも、聖域に着いたら…私……』
『……我は気付いたことがある』
『え?』
『ルナよ。我はお前が好きだ。愛している。お前の使命はよくわからない。だが、お前がどんな姿になろうと、何者になろうと、誰に変わろうと、我はずっと変わらない』
『ーーーーーッ!?』
『ルナよ、もう少し我と世界を回らないか?少し寄り道をしようじゃないか』
『……うんっ!』
「この日に私たち、本当に結ばれたのよね。ウフフ、クーちゃんは初めての時から激しかったなぁ♡」
「…………」
「……クーちゃん」
ーーーーーーーー
「剣が折れたら終わりだと?」
クサレマグロは静かに、呟く。
そして、笑った。
「笑わせるな」
一歩、踏み出す。
「我はまだ生きておる」
さらに一歩。
血が滴る。
「最後に生きていた者の勝ちだ」
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ーー現在の女神の聖域
「はわわわわ!!クサレマグロさん、それはカッコよすぎますよ☆」
「さっきの欲情してたやつとは思えないな……お前話盛ってない?」
『そんなわけがあるか!!』
「ソウジはある意味、クサレマグロ殿の剣を一番身をもって体験しているだろう?嘘ではないと思うぞ?」
「ウフフ、私はその時のクーちゃんの勇姿は見れなかったけどね」
『…あえて言う必要もなかろう』
「あら?いい子いい子してあげても良かったのよ♡」
『話を戻すぞ!』
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再び激突。
クサレマグロは拳で、折れた刃で、体ごとぶつかる。
そのたびに、致命的な傷が刻まれていく。
だが――
クサレマグロは倒れない。
ただ一歩ずつ、前へ。
――継承終了まで、あと2分
ルナの光が、さらに強く輝き始める。
蛇の男が焦る。
「……間に合うと思うな!」
光へ向かおうとするその動きをクサレマグロ阻む。
「どこへ行く」
クサレマグロが、立ちはだかる。
――継承終了まで、あと1分。
クサレマグロは最後の力を振り絞り、蛇の男に飛びつき、そのまま羽交い締めにした。
「離せ……!」
暴れる巨体。
だが、離さない。
「そういえば、もうひとつ言い忘れていたな」
クサレマグロは血を吐きながら、笑う。
「この戦い――」
力を込める。
「ルナを守り抜いても、我の勝ちだ!!」
その瞬間、光が、弾けた。
空間が、書き換わる。
神威が満ちる。
光の中から、ゆっくりと一人の女性が姿を現した。
創造の女神、ルナ。
その瞳が開かれる。
「……クーちゃん!?」
ただ一度、視線を巡らせるだけで、
聖域に残っていた敵は――すべて消えた。
跡形もなく、完全に。
ルナは、血に染まったクサレマグロの元へ歩み寄る。
「クーちゃん……」
涙を流しながら絞り出されるその声は、どこまでも優しく、どこまでも心地よかった。
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ーーおまけ小話ーー
【クーちゃん】
「ねぇねぇ、あなたのこと、これからはクーちゃんって呼ぶね♡」
「は、はあ!?クーちゃん??」
「クーちゃん♡」
「……ワン」
「……そういうプレイじゃないわよ?」




