第39話 女神の聖域
興奮したカテリーナを落ち着かせた俺たちは、先ほどの帝国兵たちの襲撃の話や、俺たちのここへ至るまでの話をしていた。
「そう、やっぱり霧が晴れていたのね」
カテリーナはそう言うと、
「はい。私たちもこちらへ向かっている途中で、そろそろ霧に入る頃だと思っていたら、先にこの島が見えたので驚きました」
と、リリムが答える。
「しかし、霧の魔法で結界を張るなど、かなり高度な魔法と言えるでしょう。先ほどの帝国兵たちに、それを解除できるだけの技術があるとは思えませんが……」
エピステーメーがそう語ると、
「だが、あのアナスリアとかいう者のことは分からない。もしかすると、彼女が何かしたのかもしれないな」
と、アリシアが続けた。
「……あれ? アナスリアって、女性なのか?」
俺がそう言うと、
「だって、女性によく使われる名前じゃないか」
と、アリシアが答える。
「主、お前だって女性だと思って名前を聞いたんじゃないのか? ほら、アンタ複数で楽しむのが好みなんだろ?」
カエラがとんでもないことを言い出す。
「違う、違うって!」
「ソウジさん、そんなにハーレムを作りたいんですね」
「……大聖堂で、なんて不謹慎な話を……」
カテリーナは完全に引いていた。
「ちょ、ちょっと待って! なんで俺そんな扱いになってるんだよ!? というかカテリーナ?なんでそんなゴミを見るような目で俺を見るんだ!?」
慌てる俺を放置し、カテリーナは話を続ける。
「それで、リリムたちはこのまま女神様のところへ行かれるのですね?」
「はい。私はこのまま皆さんと一緒に、女神様のもとへ向かいます」
「リリム? その不謹慎な男を連れて女神様のもとへ行って大丈夫かしら?女神様孕まされたりしない?」
カテリーナが疑わしげに言う。
「え、えーと……さすがにそこまでは……」
リリムが言葉を濁す。
「いや、俺って一体何者だよ……」
「私の運命の人よ!」
「アタシの主だ!」
「……なんて汚らわしい!!」
「カテリーナ殿、私も一緒だから大丈夫だ。それに、ソウジは私が守るべき大事な人なのだから」
アリシアはきっぱりと言い切る。
「そ、そんな……アリシア様がそのようなことを……こんな穢れ物を守るだなんて……!」
カテリーナは信じられないといった様子で首を振る。
「騙されてはいけません、アリシア様! その男を今すぐ討ち取って、そして私のもとへ!!」
「……こいつも結構やばいな」
俺は小さくつぶやいた。
「なあ、聖職者ってみんなこんな感じになっちまうのか?」
カエラがリリムにそう尋ねる。
「ええと……なんで私に聞くんですか?」
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「よし、それじゃあ早速出発するか」
俺たちは大聖堂を後にする。
「カテリーナちゃん、また後で寄りますからねー☆」
リリムがカテリーナにそう言うと、
「ええ、お待ちしておりますわ。リリム、この街の行く末や、私たちが歩むべき道……ぜひ女神様に聞いてきてほしいの」
「はい、任せてください」
「カテリーナ殿、私たちの船にはガリという男とマリーナという者が残っている。何かあれば彼らに相談してくれ。きっと力になるはずだ」
「ああ、アリシア様……わかりました。私のために、ありがとうございます……はぁ、はぁ……」
カテリーナは頬を紅潮させながら、荒い息を漏らす。
「私、いつでもアリシア様のご無事と……私たちの真実の愛を祈って……はぁ、はぁ……貴方の帰りをお待ちしておりますわ……はぁ、はぁ……」
「いや、世界の平和を祈れよ、お前は」
「あらあら、興奮しちゃって……かわいいわね♡」
レイシェルが微笑みながら言った。
そして、聖都セレスティアを出た俺たちは、女神様のいる聖域へと足を運ぶ。
島はそれほど大きくないため、そこまで時間はかからなかった。
「ここです」
リリムの声に、俺たちは足を止める。
木々が生い茂る中に、一つだけ不自然なほど太い幹があった。
しかし上を見上げても、他の木々より特別大きいようには見えない。
「なんだこの木……なんか変な感じだな」
「はい。こちらが聖域への扉となります」
すると、俺の背中の“クサレマグロ”から声が聞こえてきた。
『な、なあ……本当に行くのか?』
「なんだよ、クサレマグロ。情けないな…ここまで来たら行くに決まってるだろ」
「大丈夫ですよ、クサレマグロ様。貴方が過去に何をしたのかは知りませんが、誠心誠意謝れば、きっと女神様も許してくれるはずです」
エピステーメーはそう言って、眼鏡をクイッと押し上げた。
「それじゃあ、行きますよ☆」
リリムが元気よく言い、太い幹に手を当てると、木は大きな光を放ち、聖域への扉が開いた。
「なんと、リリム自身が鍵だったのか」
「はい。女神様に認められた私たち女神様の巫女や、神に仕えるサバオやサブはこのように扉を開くことができます」
「そうなんだ。じゃあ、カテリーナをここへ連れてきたところで、聖域には入れないってことか」
「そうですね。そういうことになります」
そして、俺たちはリリムが開いた扉の中へと入る。
すると、周囲の景色は一変した。
木々に覆われており、そこは暖かくも寒くもなく、不思議な感覚に包まれた場所だった。
「ここが聖域?」
「はい。この奥に女神様がいらっしゃいます。ついてきてください」
リリムは元気よくそう言って、俺たちを案内する。
そして、しばらく歩くと、そこにはとても美しい女性が立っていた。
「えーと……これが女神様?」
「はい☆」
「女神様、リリムです。ただいま戻りました!」
リリムはそう言うと、元気よく女神のもとへ駆け寄っていく。
「あら、リリム。戻ってきたのですね」
女神は柔らかく微笑む。
「女神様!」
リリムがそのまま飛びつこうとした――その時だった。
ーーガシッ!
リリムは女神に捕まえられるように抱き上げられ、そのままお尻を突き出すような体勢で押さえつけられる。
「はわわわわ!女神様!?」
「ウフフ……リリム?あなた、最近私への報告を怠っていましたね?」
「え? えーと、それは……」
「あなた、第十話くらいまではきちんと定期的に報告していたじゃないですか。それなのに、最近はどうして? 仲間が増えて楽しくなってしまったのかしら?」
「え、いや、その……ほら、あの描写がなくても、きっと私がちゃんと女神様に報告している体で、その……」
「ウフフ♡リリム、お仕置きです」
女神は笑顔のままだったが、その奥にある怒りは、俺たちにもはっきりと伝わってきた。
「きゃあああっ! ねえ、女神様?それだけは……それだけはぁっ!!!」
リリムは絶叫するが、それも虚しく……
「リリム、百回ですよ?」
「い、一体、何が始まるというのでしょうか」
エピステーメーは眼鏡をくいっと押し上げる。
「あの……リリムの怯えよう……ど、どんな恐ろしいことが……」
――数分後。
「ああっ、いやっ、痛い! ああ、もう……女神様、お願いです、本当にやめてください! 恥ずかしい……恥ずかしすぎますっ!」
バシバシという音が響き渡る中、リリムは女神にお尻を叩かれていた。
どうやら、尻叩き百回の刑らしい。
「お黙りなさい!あと七十二回です」
「あぁっ! いやぁぁ!!私、ヒロインなのに……大人のレディーなのにぃ!!!」
「うん、大丈夫だリリム。見た目的にはまったく違和感ないから」
「そんなぁぁぁっ!!!」
俺たちはリリムが絶叫する中、残り七十二回の尻叩きを黙って見届けるのだった。
――十五分後。
「すん……すん……(泣)お尻が……私のお尻が……」
リリムはすっかりへたり込んでいた。
「お前は悲劇のヒロインか……」
「さて、改めまして。皆さん、ようこそいらっしゃいました。私は創造の女神ルナです」
すると、早速サブが一歩前へ出て、ルナに話しかける。
「ルナよ、久しいな。余はお前に頼みがあって、ここへ連れてきてもらったのだ」
「あら、かわいいワンちゃん。もうそんな偉そうな口をきいちゃって……私が誰だかわかっていないのかしら?この♡この♡」
ルナはサブをツンツンとつつく。
「やめんか!!余は犬ではない、フェンリルだ」
「あら、なんだ、フェンリルだったのね」
ルナはあっさりと態度を改めた。
「なんか、女神様って……なんというか、私たちが思い描いていたのと違うな」
アリシアがそう言うと、
「はい。どちらかというと、リリムと同じ空気を感じます」
エピステーメーが眼鏡をくいっと押し上げる。
「この親にしてこの子ありかよ……」
カエラがため息まじりに言った。
そして、なんとか立ち直ったリリムとともに、ルナにこれまでの経緯や、フェンリルが今の姿になってしまったことも含めて、すべてを報告した。
「わかりました。報告ありがとうございます」
ルナはそう言うと、リリムに向き合う。
「リリム。あなたたちは、想像以上に大きな事態に巻き込まれているのかもしれませんね……」
「え……?」
「今、巫女として残っているのは…リリム、あなた一人です」
「え……そんな。だって、他のお姉ちゃんたちは……」
「ん? お姉ちゃん? 姉妹なのか?」
俺がそう尋ねると、
「いえ、私が巫女として一番新しくて……なので、他の巫女の方たちを“お姉ちゃん”と呼ばせてもらっていたんです」
「そ、そういうことか……。では、他の巫女たちはどうなったというのですか?」
エピステーメーがルナに問いかける。
「すでに役目を果たした者もいれば、消息を絶ってしまった者もいます。これもすべて、大きな異変に巻き込まれた結果でしょう」
「そ、そんな……」
場の空気が重くなる。
そして、ルナはゆっくりと俺へ視線を向けた。
「オキタソウジ。あなたの存在は、この世界の命運を分ける存在と言っても過言ではありません」
「え……?」
「私は、あなたに賭けることにしました」
「そうなのか……?」
「うふふ♡ソウジくんはやっぱり私の運命の人。私はどんな運命も、あなたと共にするわ」
レイシェルが俺に抱きつく。
「私だって、主にずっとついていくぜ」
続けてカエラも抱きついてくる。
「わ、私も……ソウジは命に代えても守ると決めたんだ」
アリシアまでしがみついてきた。
「おい、お前ら……」
「あらあら、オキタソウジはいつも複数人でお楽しみなのかしら?主人公なら愛する女性は一人に決めた方がいいわよ?」
「いや、仮にも女神様がそんな不謹慎な発言するんじゃねえよ……」
「では、女神様。ソウジがこの世界を救うと?」
エピステーメーが女神にそう問いかける。
「そうですね。彼はセラフドラゴンを従えていますし、私の巫女であるリリムもついています。そして、あなたたち仲間も非常に頼もしいですよ」
ルナは笑顔で答えた。
「あと、何よりも――」
ルナは、俺の背中の剣へと視線を向けた。
「ウフフ♡クーちゃん、いつまでそこで姿をくらましているつもりかしら?」
次の瞬間――
バチバチバチッ!!
俺の背中の剣に、電流が走る。
『ぎゃあああああっ!!』
クサレマグロの苦しげな悲鳴が響き渡った。
「ウフフ、あなたがこの島に入った時からわかっていましたよ?私の愛しのクーちゃん♡」
「お、お前……それなら先に言ってくれればよかったものを……あ、相変わらず意地の悪い女だ」
「あら?愛する私を置いていなくなってしまったくせに、どうしてそんなことが言えるのかしら?」
「ち、違う、あれは……色々あって……」
「へえ……私の初めてを奪ったくせに……唇も身体も……」
ルナの声が、わずかに低くなる。
「私の身体を抱けないと生きていけないって言ってたのに……」
「私が女神になっても愛してくれるって言ったのに……」
「私の子供が欲しいって言ってくれたのに……」
「今はダメ♡って言っても……何度も何度も【自主規制】したのに……」
「…………(@一同)」
「え、えーと……クサレマグロ殿?貴殿はなかなかとんでもないことをしていたのだな………」
アリシアが若干引きながら言う。
『ち、違う! それは……!』
ーークサレマグロは追い詰められている。
「うーん……やっぱりお前、女神様に何かしでかしてたんだな」
俺は呆れたようにため息をつく。
「とりあえず、土下座でもした方がいいんじゃねえか?」
『この姿でどうやって土下座をするんだ!?』
そしてこの後、話はクサレマグロとルナの過去へと移っていくことになるのであった。
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ーーおまけ小話ーー
【クーちゃん】
「さあて、次回はクーちゃんの恥ずかしい性癖のお話とかしちゃおうかしら♡」
『やめろぉぉぉぉ!!!!』
「諦めて全部聞こうぜ?クーちゃん……」




