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第35話 神の番犬フェンリル③

挿絵(By みてみん)


「グルルルル………」

「ん?」


低く唸る声が、静寂を破る。

どうやらフェンリルが目を覚ましたようだ。


「あ、気がついたのか」


思わず声をかける。


「……」


フェンリルはゆっくりとその身を起こし、

じっと、俺たちを見据えた。


挿絵(By みてみん)


「お主たちがあの邪悪な者を退けてくれたのか?」


フェンリルは俺たちにそう問いかけてきた。


「最終的に、あいつらを完全に消し去ったのは……俺たちじゃねえけどな」


カイラが一歩前へ出て、フェンリルにそう告げる。


「お主は…獣人王のガイラか」

「ああ。おめえの吠える声が急に聞こえなくなってな、心配してここまで来たんだ」


ガイラ肩をすくめながら続ける。


「ほら、こいつサバオってんだ。こいつのおかげで、ここまでたどり着けたってわけだ」


その言葉にフェンリルは、ゆっくりと視線を動かし、サバオを見つめた。


「セラフドラゴンか……」


「なあ……一体ここで何があったんだ? さっきのやつらのこと、何か知っているのか?」


俺がフェンリルに問いかける。


「……分からぬ」


フェンリルは静かに首を振った。


「気づいたときには、すでに奴らに魔力を吸われていたようでな。もうこの姿を保つのも限界に近い」

「……どういうことでしょう?」


エピステーメーが一歩前に出る。


「あのような存在、見たこともありません。どのようにして魔力を奪われていたのかも……」


言葉を切り、フェンリルを見る。


「……分からぬ」


フェンリルは低く唸るように続けた。


「あのような形の者、余も見たことがない。そして……どうやって魔力を吸い取られていたのかも、分からぬのだ」

「そうでしたか……今後もあの様な者たちが頻繁に現れるとさすがに僕たちも対応しきれませんね」

エピステーメーはメガネをクイッと上げる。


「お主たち……余をここから連れ出してはくれぬか?」

「え……?」


思わず声が漏れる。


「いや、おめえがそう言うんならいいんだけどよ……大丈夫なのか?」


ガイラが眉をひそめて問いかける。


「問題はない」


フェンリルは静かに言い切った。


「元々ここは余が仕える主に最も近い場所だった。それゆえ、ここを寝ぐらとしていただけのこと」

「え……? だって、ここって神聖な場所なんじゃ……」


戸惑いながら言うと、


「それは周りが勝手にそう呼んでいただけだろう」


フェンリルはあっさりと言い放った。


「よくわかんねぇけど、アンタ強力な結界張ってたんだろ?神聖な場所だから結界を張ったんじゃないのか?同じ神に仕える者同士、サバオみたいな奴だけ通れるようにして……」


カエラがそう言うと、フェンリルはサバオを見据えながら呟く。


「……余は昼寝の邪魔をされるのが嫌いだ。放っておくと貴様らは余を崇めにここに訪れるだろう?それが嫌で結界を張っただけのこと。それに、こやつには結界など関係ないだろう」


「え……?」


思わず声が漏れる。


「セラフドラゴンの力は計り知れぬ。余の張った結界ごとき、容易く通過できるはずだ」

「そ、それで通れたと……その後私たちが通れたのは?」

アリシアがフェンリルに問いかける。


「まあ……それは壁に穴が開いたようなものだ」

「穴って……」

「ま、待ってください」


エピステーメーが一歩前に出る。


「以前、彼らが私の書物庫に来たときは、しっかりと私の結界に引っかかっていましたが……」

「ふむ」


フェンリルは顎に手を当てるようにして考える。


「このセラフドラゴンはまだ生まれて間もないのではないか?」

「えっと……そうだな。今で、半年ってところか?」

「ならば、そのときはまだ十分な力がなかったということだろう。あるいはどこかで覚醒したのか……」


わずかに間が落ちる。


「……ま、どちらにせよ、そういうことだ」


フェンリルはあっさりと結論づけた。



「さあ、お主たち!」


その視線が、再びこちらへ向く。


「早く余をここから連れ出せ!ある場所へ連れて行ってほしいのだ」

「ある場所とは……?」


アリシアが問い返す。


「創造の女神ルナの元へ、だ」

「えっ……?」


一瞬、場が静まり返る。


「あら、ワンちゃん。女神様のところに行きたかったんですね!」


リリムが嬉しそうに言う。


「私たちも、実は女神様のもとへ向かう途中だったんですよ☆」

「そうか……」


フェンリルは静かに目を閉じる。


「何があったのかは分からぬが、こうしてここへ立ち寄ったのも、ひとつの運命だったのだろう」


その声には、どこか納得したような響きがあった。


「すまぬが……頼むぞ」

「でもよ……こんなでっかい狼なんか連れて歩いたら、目立ってしょうがねえんじゃねえか?」


ガイラが腕を組んで眉をひそめる。


「というか……船にも乗れるのか?」


俺も思わず口にする。


「問題はない」


フェンリルは静かに言った。


「もうこの姿を保つのも限界だと言っただろう?」

「え?」

「そろそろだ……」

「……?」


次の瞬間。


フェンリルの周囲を、まばゆい光が包み込んだ。


――シュゥゥゥ……。


空気が震え、空間そのものが揺らぐ。

巨大な狼の輪郭がゆっくりと崩れ、別の形へと収束していく。


「な……」


俺たちは言葉を失う。


そして、光が弾けたその瞬間――


「え?」

「はわわわわわわわ♡♡♡」

※リリムのテンションがMAXになった


「ワンちゃん……ワンちゃんですよ、ソウジさん! かわいすぎます!!」


リリムが目を輝かせて叫ぶ。


「私、一生かけてこの子を育てます!」


完全にテンションが振り切れている。


そこにいたのは、先ほどまでの威厳ある神獣とは思えない、小さな子犬のような、あまりにも愛らしい姿のフェンリルだった。


挿絵(By みてみん)


「この形を保つのが、今の魔力では精一杯といったところだ。これなら問題あるまい」


フェンリルは姿だけでなく、声も可愛らしいものに変わっていた。


「さあ、お主たち。早くここから……ぐあああああっ!?」

「もうっ、もうかわいすぎます! 私、あなたを一生離しません!」


リリムが勢いよく抱き上げ、そのまま頬ずりを始めた。


ーーぎゅうううううっ……!


「や、やめろ! やめるのだ!!」


フェンリルの声は、もはや威厳の欠片もなく、完全に小動物の悲鳴だった。


「余は神の番犬、誇り高きフェンリルだぞ!!」

「うわぁ……説得力ねえ……」


こうして俺たちは、子犬の姿となったフェンリルを連れて、天獣の座を後にした。


道中――

嬉しそうなリリムは、フェンリルを片時も離さず、ずっと大事そうに抱きかかえている。


「あぁ……ワンちゃん、なんてかわいいんでしょう♡」


リリムがうっとりと呟く。


「あの……」


フェンリルが遠慮がちに口を開く。


「自分で歩けるから、そろそろ降ろしてはくれないか……?」

「ええ~? いいじゃないですか。減るものでもないですし♪」


リリムはまったく意に介さない。


「それに……」


フェンリルはちらりと周囲に視線を向け、


「どうせ抱きかかえられるなら、あちらのおなごの方がやわらかそ……」


ーーぎゅううううっ!!


「ぐあああああっ!?」

「あら? ワンちゃん、何か言ったかしら?」


挿絵(By みてみん)


にっこりと微笑むリリム。


「が、があ……っ……」


完全に締め上げられている。


「……大丈夫か、この犬」

「いや、全然大丈夫そうじゃないな」

「ほらほら、リリム。子犬なんだから、そんなに強く抱きしめては……」


アリシアがたしなめようとした――その瞬間。


「犬じゃない!!」


フェンリルが即座に叫ぶ。

どうやら一応、神獣としてのプライドはまだ残っているらしい。


「うーん……フェンリルか……フェ……うーん……」


俺がぶつぶつと呟いていると、リリムがはっとした顔をする。


「こ、これはまずいです!」


真剣な表情でフェンリルを見つめ、


「ワンちゃん……あなたの名前は――」


「よし!!お前の名前は、タマサブロウだ」


「…………(@一同)


「いやああああああああああああああああああああああ!!」


リリムが絶叫する。


「え、えっと……主? タマサブロウ……?」


カエラが困惑した声を漏らす。


「え? なんかタマサブロウっぽくないか? かわいいだろ?」

「全然かわいくないです!!」


リリムが即座に否定する。


「何ですか!タマサブロウって!!」

「あのさ、主? 愛称が元より長いってどうなんだ?」

「そうですよ!! そもそも全然かわいくないです!!」


『……クサレマグロよりはマシだと思うぞ?』

「ボク、サバオー!」


「俺はタマサブロウだと思う!」

※絶対に譲らないソウジ


――その瞬間。


俺とリリムの間に、フェンリルの名前を巡る戦いの熱い火花が散った。


「と、とりあえず……二人とも落ち着かないか」


アリシアが俺たちを宥める。


「落ち着けませんよ!!」


リリムが食い気味に叫ぶ。


「ソウジさん、もし私と子供ができたら、とんでもない名前をつけそうです! 今のうちにわからせておかないと……!」


「待って! 聞き捨てならないわね?」


レイシェルが一歩前に出る。


「ソウジくんの子供を産むのは、私よ!」

「待て!! アンタが入るとまたややこしくなる!!」


カエラが全力でツッコむ。


「わ、私は……名前はソウジに任せても……いい、かな……(照)」


アリシアが頬を赤らめながら呟く。


「お前ら何の話してんだ!!」


挿絵(By みてみん)


完全に収拾がつかない状態となってしまった。


「よう……おめえら、いつもこんな感じなのか?」

「はい。お恥ずかしながら、これが平常運転です」


ガイラの問いかけに、エピステーメーは即答した。


(……余は、もしかすると、とんでもない連中に捕まってしまったのではないか……?)


腕の中で揺られながら、フェンリルは静かに絶望した。


その後、フェンリルの愛称問題で俺たちはずっと揉め続けていた。

結局、最終的には「サブ」という名前で落ち着くことに。

そして、その頃にはすでに、俺たちはドランガルへと到着していたのだった。


「えへへ~♡ サブ♡♡」


リリムが満面の笑みで抱き上げる。


「スリスリするなぁぁ!!」


サブ(元フェンリル)の悲鳴が、街に響き渡るのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーおまけ小話ーー


【ネーミングウォーズ】


挿絵(By みてみん)


「絶対タマサブロウだ!」

「絶対イヤです!!」

「じゃあお前は何がいいってんだよ!?」

「……ゆうじろう3号とか(照)」

「アンタらどっちもどっちだよ……1号と2号どこにいんだよ」

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