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第34話 神の番犬フェンリル②

挿絵(By みてみん)


姿を現したそれは、一見人間のような形をしているが、手足も歪に伸びている。

その顔は、人間とは似ても似つかない、まさに“異形”と呼ぶにふさわしいものだった。


「てめえ……フェンリルに何をしやがった!」


ガイラが怒りをあらわにして叫ぶ。


「ククク……この裏の世界を見つけて数年間、我慢して仕えてきた甲斐がありました。裏の世界にはこんなに豊富な魔力資源がこうして眠っているんです。」


異形の者はゆっくりと笑う。


「裏の世界?」


俺にはこの異形の者が何を言ってるのか、さっぱりわからなかった。


「そして……君たちが連れているそのセラフドラゴン。その力もすべて、私がいただくとしましょう」


その声には、底知れない欲望がにじんでいた。


「ふざけんな!この大陸で、俺の目の前でそんな勝手な真似が許されると思うなよ!!」


ガイラは怒りをあらわにし、凄まじい速度で異形の者へと突進した。


鋭い踏み込みから繰り出される拳打、蹴撃。


だがーー

ガイラが誇る体術は、ことごとく軽々とかわされてしまう。


「ほう……さすがは獣人王。なかなかの体術ですね」


異形の者は余裕の笑みを浮かべる。


「しかし……よろしいのですか? 私ばかりに気を取られていて。背後が、がら空きですよ」


「……なんだと?」


ガイラが目を見開いた。


次の瞬間だった。


背後から突き出された腕が、ガイラの胸を貫いた。


「ガイラ!」



挿絵(By みてみん)


「てめえ……なんで、お前が……くそっ……」


信じられないという表情のまま、ガイラの身体がぐらりと揺れる。

そしてそのまま、膝から崩れ落ちた。


「おい、貴様……どういうことだ?」


アリシアは怒りの表情で続ける。





「貴様らの王ではなかったのか…………ダリ!」


アリシアがその名を呼んだ。


そう――

ガイラの胸を貫いたのは、彼の側近であり、衛士団長でもあるダリだった。


「……ふう。この数年間、頭の足りない獣人どもを相手にするのも、なかなか骨が折れましたよ」


ダリの身体がずるりと歪む。

次の瞬間、その姿は崩れ落ちるように変質し、やがて先ほどの異形の者とまったく同じ姿へと変わった。


「……なに?」


ガイラが血を吐きながら目を見開く。


「お前……ダリではなかったのか」

「ええ、私はダリですよ」


異形の者は楽しげに答える。


「そして――私もダリです」


もう一体の異形の者も、同じように名乗りを上げた。


「な、なんだと……どういうことだ」


混乱する俺たちを見て、二体は不気味に笑う。


「ふふふ……まあ、あなた方に理解できなくても構いません」

「さあ、そのセラフドラゴンをこちらに渡してもらいましょう」

「そうすれば、あなた方の命だけは助けて差し上げます」


一拍置き、くぐもった笑い声が続く。


「……もっとも、ここで助かったとしても、この先私たちが支配する世界で長生きはできないでしょうけどね。ククククク……」


その瞬間だった。


コン――という鋭い音が響き、放たれた一本の矢が、二体の“ダリ”の身体を同時に貫いた。


「……たかが矢で私たちを貫くとは……これはなかなか……」


致命傷には至らないものの、確かな手応えを感じたのか、異形の者が感心したように声を漏らす。


矢を放ったのはレイシェルだった。

彼女の左目は、黄金の光を宿して鋭く輝いている。


「ソウジくん、今よ!早く星守を!!」


その声に、俺ははっと我に返った。


「――くそっ!」


挿絵(By みてみん)


星守を強く握りしめ、異形の者へ向けて全力で振り抜く。

次の瞬間、これまでにないほど強烈な衝撃波が放たれ、轟音とともに異形の者へ直撃した。


「おお……ほうほう。これはこれは。なかなか面白い連中がいるようですね」


煙の向こうから、楽しげな声が聞こえる。


「ここにもまた“いい素材”が転がっているとは……ククククク…」


不気味な笑い声が、山頂に響き渡った。


「……オジチャン?」


サバオがガイラを見つめながら呟く。

次の瞬間だった。


俺たちがこれまで見たこともないほどの怒りに駆られたサバオが、二体の“ダリ”へ向かって咆哮を放つ。

その衝撃は凄まじく、山頂の空気そのものが震えたかのようだった。


さすがに先ほどまで余裕を見せていた異形の者たちも、わずかに表情を曇らせる。


「……これはいけませんね。セラフドラゴン……やはり他の神獣とは格が違うようです」


そう言うと、二体の“ダリ”は同時に構えを取り、戦闘態勢へと移行した。


そしてサバオは、いつの間に身につけたのか、ガイラと同じ体術で異形の者たちに立ち向かっていった。


「……素晴らしい。その力、ぜひとも手に入れたいものですね」


異形の者は不気味に笑いながら、禍々しい気配をまとった力を放とうとする。


ーーザクッ。


すでにその未来を見通していたのか、レイシェルの放った矢が異形の者の腕を貫き、その動きを止めた。


「くっ……厄介な」


次の瞬間、凄まじい速度でアリシアとカエラが斬りかかる。


さらに後方からは、エピステーメーが魔法で援護を行う。


俺たちは一斉に総攻撃を仕掛けた。


「……ふむ。まさか、ここまでやるとは」


異形の者は低くつぶやく。


『…ふむ。見事な連携だな。だが、決め手に欠けるようだ』


クサレマグロが低くつぶやく。


『で、相棒よ。お前は何をしている?』

「え? いや……いつもみたいに振り抜こうとは思ってるんだけど、みんなを巻き込みそうでさ……」

『まったく。お前はいい加減、まともな戦い方を覚えた方がいいな』


そんなやり取りをしていた、そのときだった。


「お前ら、どけぇぇぇ!!!!」


突如、山頂に響き渡る大声。


振り向くと、そこには立ち上がったガイラの姿があった。


だが先ほどまでの人の姿ではない。

巨大な狼そのもののような、圧倒的な存在感を放つ姿へと変貌している。


「あれは……?」

「今日は満月だったわね。獣人王も“覚醒”したということかしら」


レイシェルは微笑みなから呟く。


挿絵(By みてみん)


次の瞬間だった。


ガイラの身体がぶれたかと思うと、まるで分身したかのように五つに分かれる。

その五体のガイラが、同時に異形の者へと襲いかかった。


凄まじい速度の連打。

拳が打ち込まれるたび、小規模な爆発が次々と巻き起こる。


「フハハハハハ……! これほどとは……!」


異形の者が狂気じみた笑い声を上げる。


「これは本当に……面白……」


最後まで言葉を紡ぐことなく、

轟音とともにその身体は弾け飛び、霧のように消滅した。


山頂に、静寂が戻る。


「す、すげえ……。今のはいったい……」


呆然とつぶやく俺に、ガイラは息を整えながら答える。


「これが俺の奥義の一つだ。まあ……ちと体に負担はかかるがな」


だが、そのときだった。


ずるり、と空間が歪み、先ほど消えたはずの異形の者が再び姿を現す。


「なっ……!あれを食らって、まだ生きているのか……!」


「ふふふ。本当に、君たちは面白い。いいでしょう……ここは一度退くとしましょう。また会える時を楽しみにしていますよ」


不気味な笑みを残し、異形の者は姿を消そうとする。


「マテーーーー!!!!!」


大声を上げながら飛びかかったのはサバオだった。


次の瞬間、サバオの身体が五つに分かれる。

それは先ほどのガイラと同じ分身の体術だった。


凄まじい速度で繰り出される連打。

拳が打ち込まれるたびに起こる爆発は、ガイラのものをも上回る衝撃を放つ。


挿絵(By みてみん)


「ぐっ……ば、馬鹿な……!私が……こんな……ところで……」


言葉を残す間もなく、

異形の者の身体は――ボン、という音とともに完全に消滅した。


「……ようやく片付いたんだな」

『ああ。これで、この場所に邪悪な気配はなくなったようだ』


クサレマグロがぼそりとつぶやく。


『相棒よ。あの犬っころ……さっさと助けてやらんと、そろそろまずいのではないか?』

「あっ……そうだった!」


俺たちは我に返り、急いでフェンリルのもとへと駆け寄るのだった。


「おい、大丈夫か?」


俺はフェンリルに声をかける。だが、反応はない。


「はわわわわわわ……ま、まさか……死んじゃったんでしょうか……?」

「まだかすかですが、魔力の反応はあります。しかし……かなり危険な状態かと」


エピステーメーがそう告げる。


「参ったな……ここじゃ何もしてやれることがねえ」


ガイラが悔しそうに吐き捨てた。


「なあ、なんとかここから連れ出して、町で手当てするとか……そういうのは無理なのか?」

「神聖な場所から神獣を連れ出すなんて……そんなこと、許されるわけねえだろう。それこそ神の怒りに触れちまう」


ガイラが低く言い放つ。


次の瞬間だった。


「ダメだよ~!最後の最後まで気を抜いちゃ」


軽い声音が、空間に割り込む。


「こいつらは本当にしつこいんだから」

「……えっ?」


ズドンッ――!!


空間を貫くように、巨大な槍が突き刺さった。


そこにいたのは、先ほど撃破したはずのダリ。


だが、その身体は槍に貫かれ、苦しげに歪んでいる。


挿絵(By みてみん)


「さあ、君たち。悪さはもうおしまい」


声の主は、どこか面倒くさそうに続ける。


「このまま世界の狭間で、塵になってくれ。もう面倒なのは勘弁してほしいんだから」


その言葉と同時に、槍が眩く光を放った。


次の瞬間――


切り裂かれた空間が口を開き、二人の身体を飲み込んでいく。


「クソっ……!!」


叫びも虚しく、歪んだ空間は、その男の手によって静かに閉じられた。何事もなかったかのように。


「やれやれ……やっと休暇が取れると思ったのに。本当に面倒ごとは勘弁なんだよなぁ」


その気だるげな声に、俺たちは一斉に振り向く。


そこに立っていたのは…

以前、ネブリナ国へ向かう途中で出会った、あの

“翠の鎧の男”だった。


「お、お前は……!」


思わず声が漏れる。


「やあ!また会ったね」


男は、まるで旧友にでも再会したかのような軽さである。


「生きていてくれて、嬉しいよ♪」


その言葉は柔らかいのに――どこか底知れない不気味さを孕んでいた。


「貴様……なぜここにいる?」


アリシアが剣を構える。

その異様な気配に、他の全員も続けて武器を構えた。


「おっとっとっと……ちょっと待って」


男は、軽く両手を上げてみせる。


「僕は君たちと喧嘩しに来たわけじゃないんだから…」


その態度はあまりにも余裕に満ちていた。


「ここは神聖な場所で、結界も張られていたはずです。にもかかわらず、どうしてあなたはここへ来られるのですか?」


エピステーメーが、静かに問いかける。


「まあ、そんな細かいことはどうでもいいじゃない♪」

「細かいことって……」


思わず言い返しかけた、そのとき、


「それよりさ」


男は、すっと俺の前に歩み出る。


「この間の約束、果たそうじゃないか」

「……え? 約束?」


俺は、あのときの言葉を思い出す。


ーーまた会えたら、自己紹介をしよう


「僕の名前はグリム。君は?」

「ああ……俺はソウジ。置田蒼司だ」

「うんうん。ソウジ君ね!よろしく」


グリムは、にこやかに手を差し出してくる。

その仕草には、まるで敵意が感じられない。

俺はわずかに警戒しながらも、その手を取った。


「あ、他のみんなも……」


グリムは周囲を見渡しながら続ける。


「僕はグリムだよ。よろしくね」


その一言で、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。俺たちは顔を見合わせる。

この男には、少なくとも今この場で敵意はない。そう判断し、ひとまず話をすることにした。


「では……グリム殿。いろいろ聞きたいことがあるのだが」


アリシアが口を開く。


「うん、分かってる」


その言葉を遮るように、グリムが軽く手を上げた。


「君たちが聞きたいことは、大体想像がつくよ」


そして、そのまま手短に語り始める。


「まず、さっきのやつらはね、今は僕たちの敵なんだ」


軽い口調のまま、さらりと言う。


「今は?」

「本当はね、こっちのことはバレないようにしてたんだけど……ごめんね。どこからかバレちゃったみたいで」

「ん……? ど、どういうことだ?」


戸惑いが漏れる。


「まあ、そのへんの細かい話はいいとして、とにかくあいつらはしつこいんだ。本当にね」


その声音だけが、わずかに低くなる。


「一回倒せたと思っても、次から次へと現れる。それでいて一撃で仕留めるのは、なかなか骨が折れる相手なんだよ」

「そ、そこまでヤバい奴らなのか……」

「まあ、この世界のことがバレちゃったのも……もしかすると、僕にも責任があるのかもしれない」


グリムは軽い調子のまま続ける。


「だからさ、これ以上みんなに迷惑がかからないよう僕が責任持って対応する安心して♪」

「そ、そうか……。ま、まあ、貴殿程の腕であれば全く問題はない……のだろうが」


アリシアが、どこか戸惑ったように言う。


「……グリム。あなたは、あの結界をどうやって突破してきたのです?」


エピステーメーが静かに問いかける。


「うーん、そうだなあ」


グリムは少しだけ考える仕草を見せる。


「まあ、それは企業秘密ってことで♪」

「何の企業だよ……」


思わず、俺はツッコミを入れていた。


「まあ、なんにせよ……僕は君たちと敵対するつもりは、まったくないよ」

「そ、そうなのか……?」

「もちろん♪」


グリムはあっさりとうなずく。


「だって、ソウジ君。君は僕の大事な――」

「え?」

「あ、うん……いや、なんでもないよ」


わずかに言葉を濁し、軽く笑ってごまかす。


「それより、後のことは……そうだな。まだ今の君たちが知るべきじゃない、ってところかな」

「な……」


だが、その言葉に悪意はなく、むしろ俺たちを巻き込まないようにしているようにさえ感じられた。


「まあ、ピンチのときは、気が向けば助けに来ると思うから♪多分ね!」

「な、なんなんだそれは……!」


あまりにも気まぐれな物言いに、思わずツッコミが漏れる。


「それじゃあ僕は、自分の仕事に戻るよ。また会おうね!」


そう言って、グリムは踵を返しかけ、

ふと、リリムの前で立ち止まった。


「……?」


リリムが不思議そうに首をかしげる。

グリムは、そんな彼女を見つめる。

鉄仮面でその表情はわからなかったが、とても穏やかな空気が伝わる。


挿絵(By みてみん)


「うん!楽しそうでよかったよ♪」

「ほえ?」

「それじゃあね」


次の瞬間。


グリムの姿は、ふっと空間に溶けるように消えていた。


「あいつ……一体、何者なんだ?」

「分からない……。今日話した感じでは敵意はなさそうだが……しかし……我々の手の届かない領域にいる強者であることは間違いないな」


アリシアが静かに断言した。


――ピシッ。


空間に、小さな亀裂が走る。


「ん?」


次の瞬間。

その裂け目から、にゅんっとグリムの顔が突き出してきた。


「うわぁぁぁ!!!」

「ごめんごめん。ひとつ言い忘れてた」


裂け目から顔だけ出したまま、グリムが軽く手を振る。


「そのワンちゃんなんだけどね……」

「わあ、やっぱりワンちゃんなんですね☆」


リリムが嬉しそうに声を上げ、その場でぴょんっと跳ねる。


「うん。そのワンちゃんだけど、大丈夫だよ」


グリムはあっさりと言い切る。


「まあ、弱っているのは確かだけどね。でも、じきに目を覚ますと思う。だから、あとは直接本人と話をすればいいよ」


それだけ告げると――


「それじゃあね」


再び、グリムは空間の中へと溶けるように消えていった。


「……ほんと、何なんだよあいつは」


思わず、ため息まじりに呟いた。


そして、俺たちはフェンリルが目を覚ますその時を、ただひたすら待つのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーおまけ小話ーー


【ちゃんとするから……】


挿絵(By みてみん)


「ソウジさん!あの大きいワンちゃん連れて帰りましょう☆ちゃんとお世話しますから!」

「お前、神獣を飼うつもりかよ……」

『もはやロリっ子の目には犬としか見えてないようだな』

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