第30笑 エルフを救え⑦
ネメルヴァを撃破した俺たち。
……まあ、ほとんどはクサレマグロが片付けてしまったわけだが。
俺たちはネメルヴァのアジトを後にし、ヴェルディパークへ向けて出発するところだった。
もう既に明け方である。
「そんじゃ、アタシはガルシアの町に行くから」
「ん? ガルシア?」
「レジスタンスが拠点にしてた町さ。ネメルヴァの洗脳も解けただろうしな。町のみんなが心配なんだ」
「俺もついて行くっす!」
「そ、そうか。それじゃあ……またな」
俺はカエラとアクタの背中を見送る。
(そっか……ネメルヴァの洗脳が解けたなら、町に戻れるんだよな。カエラとはここでお別れか……)
胸の奥に、ほんのわずかな寂しさがよぎった。
「さあ、それではヴェルディパークへ戻ろう」
結局、俺はアリシアにおぶられたまま、ヴェルディパークまで帰ることになった。
帰り道。
レイシェルが加わったことで、俺たちの一行はさらに賑やかになっていた。
「あ、それでソウジくんの好きな食べ物は? 誕生日っていつかな? あ、どんな女の子が好き? やっぱり私? ソウジくんは私にどんな服を着てほしい? あ、でも私寝る時は裸だからそこは聞けないけど……」
「……」
(答える間もねぇぇぇ!!!)
レイシェルはこれ見よがしに、俺へ質問攻めを仕掛けてくる。
本当に興味を持ってくれているのは嬉しいが、さすがに息つく暇もない。
「あ、でもレイシェルさん。ソウジさんには彼女がいますよ?」
リリムの爆弾発言が炸裂した。
「何だと!?」
「何ですって!?」
アリシアとレイシェルが同時に声を上げる。
その瞬間、俺をおぶっているアリシアの腕にぐっと力がこもった。
「い、痛ててててて!!」
「ソウジ。彼女とはどういうことか、詳しく聞かせてもらおうか?」
「内容次第ではソウジくんを殺して、私も死ぬわ」
「お前ら落ち着けぇぇぇ!!!」
「……そう。ソウジくんの世界の人?」
「あ、ああ。こないだ帰った時は会えなかったけどな」
「きっと寂しさ紛れに、他の男性と……」
「それはやめてくれ……」
「ソウジくん、そんな女はやめて今すぐ私と――」
「な、何を言っている!? ソウジは私と――」
「ソウジさん、私もそこに入ってほしいですか?」
「何で俺に聞くんだよ……」
「やれやれ。ようやくいつもの雰囲気に戻りましたね」
エピステーメーはそう言って、メガネをクイッと押し上げた。
『まあ良いではないか。お前たちはこれから、さらに様々なことに巻き込まれていくのだ。このくらい気を休める時間があってもよかろう』
エピステーメーが預かっているクサレマグロが、意味深な言葉を口にする。
そうしてしばらく歩き、俺たちはヴェルディパークへと帰還した。
まずは一度、魔装船へ戻り、街着に着替えることにする。
「おかえりー☆ あのムカつくやつ、ちゃんとぶっ飛ばしてきてくれたぁ?」
マリーナが元気よく迎えてくれた。
「ただいま、マリーナ。まあ、私たちというよりはクサレマグロ殿がほとんどだがな?」
アリシアが笑いながら答える。
「え? だってクソマグって剣じゃん?」
「略すなよ……」
『……悪口だよな? もはや悪口だよな?』
「そうだ、レイシェルさんの着替えはどうしましょう?」
「そうだな。その格好のままでは可哀想だ。あとで服を買いに行こう」
「……」
「ん? レイシェル、どうした?」
アリシアが心配そうに声をかける。
「……ここが……ここが私とソウジきゅんの愛の巣なのね!ウフフ♡」
「うん、違うぞ?」
「隙あらば恋愛脳が炸裂しますねぇ☆」
「わーお! このかわい子ちゃんだーれ? ソージ、もしかして引っかけちゃった系~?」
「違うわ!」
こうして街着に着替えた俺たちは、さっそくレイシェルの服を買いに行くことになった。
「アリシアさん、すいません。お洋服、お借りしちゃって」
「気にするな。レイシェルに似合う服を早く探さないとな」
「そ、そうね……ちょっと大きくて……その、中が見えちゃいそうで……」
レイシェルのあまりの美貌に、すれ違う人々は皆、思わず二度見していく。
「うぅ……すごく見られてて……ソウジきゅん、恥ずかしいから私を抱きかかえて?」
「そっちの方が恥ずかしいだろ……」
「リリムの服では、少々小さかったようだからな。仕方あるまい」
「うーん、そうね。胸のところが少し……」
「すいませんでしたねぇ☆(殺意)」
そして俺たちは、道中にあった服飾店へと立ち寄った。
オシャレな普段着から高級品まで揃う、この街一番の店らしい。
「え、えっと……こんな高そうなお店……私、お金なんて……」
「気にすんなよ。金なら俺たちがいくらでも出すからさ!」
「そ、ソウジきゅん! 私のために貯金をして……」
「うん、違うぞ?」
「隙あらば恋愛脳ですねぇ☆」
店に入るや否や、リリムとマリーナは目を輝かせ、服や靴、アクセサリーを物色し始めた。
「こ、ここここれとか、レイシェルさんに似合うと思います!」
「わあ! さすがマリーナちゃん、センスいいですね☆」
「……ソウジ。ここは我々男性陣が口を出すところではないでしょう。私は外にいます」
「オヤツタベルー!」
「では、サバオは私と何か食べに行きましょう」
「ワーイ!」
「あ、じゃあ俺も――」
「……ソウジきゅん?私を一人にしないで?」
「……ソウジは、ここにいてあげてください」
「わ、わかった……」
「私もいるのだがな?」
その後、試着室へ押し込まれたレイシェルは、リリムとマリーナの着せ替え人形と化していた。
「はわわわわ! か、可愛すぎます!!!」
「はうぅぅ……と、ととと尊い!!」
「あ、あの……私、服は着られれば何でもいいんだけど?」
「ダメです!!!」
声を揃えて断言される。
「レイシェルさん、こんなに可愛いんですから、絶対に可愛いお洋服をいっぱい買うんです!」
「わ、わわわ私も、レイシェルさんのお洋服、いっぱい選びたいです!」
「そ、そう……」
リリムとマリーナは再び服を探しに試着室を離れる。
「あ、あの……ソウジくん?」
「ん?」
試着室のカーテンの隙間から、レイシェルが恥ずかしそうに顔を覗かせる。
「どうしたんだ?」
「そ、その……下着も買わないと……ソウジくんは、どんな下着が好み? それとも何も着けないほうがいいかしら?」
「レイシェルの下着なら私が探そう!」
アリシアがものすごい勢いで売り場へと突撃していった。
「あ、はい……」
「レイシェルさーん! 次はこれとこれとこれとこれを……」
「こ、こんなに!?」
「お前ら……店の服全部着せる気かよ……」
それから数時間後。
ようやくレイシェルの洋服選びは終わった。
着替えを済ませたレイシェルを連れ、俺たちはエリアスの館へと向かうのだった。
エリアスの館へ到着すると、門番の兵士に中へ案内された。
「やあ、お疲れ様。無事に救出できたようだね?」
「ああ。そっちの方はどうだったんだ?」
「僕の方は、あれからハモスの町へ向かった。
ブラックマーケットに捕らえられていたエルフたちは、全員救出したよ」
「マジか……」
「奴隷商たちも全員拘束した。すでに売り飛ばされたエルフについても、行き先を徹底的に尋問してね。
今は残りの救出に向けて、世界各地へ兵を派遣しているところだ」
「すげーな……もうそんなに動いてたのか」
「ブラックマーケットも壊滅させたし、ハモスの町も悪事が機能しないようにしてきた。
まともな住民たちは、この街で暮らせるよう手配も済ませてある」
エリアスはそこで、わずかに口元を歪めた。
「悪さをしていた連中は……フフフ」
「うん、なんか怖いから聞かないでおくよ……」
エリアスはレイシェルの前に歩み寄り、静かに声をかけた。
「レイシェル、だったかな。君の妹――ミレアが待っているよ。会いに行ってあげるといい」
「ッ!? ミレアは……生きてるの!?」
「ああ。危なかったが、ソウジ君が発見してくれてね。
リリムちゃんが応急処置として治癒魔法をかけて、この館で療養してもらっていたんだ。もうすっかり元気になっているよ」
その言葉を聞いた瞬間、レイシェルはその場に崩れ落ちた。
「よかった……よかったぁ……」
涙をこぼすレイシェルの肩を、アリシアがそっと抱き寄せる。
「良かったな、レイシェル」
「うんっ……! うん!!」
俺たちはエリアスに案内され、ミレアの待つ部屋へと向かった。
扉を開けると、そこにはすっかり元気を取り戻したミレアの姿があった。
「姉さん!!」
ミレアはレイシェルの姿を見た瞬間、勢いよく飛びついた。
「ミレア……よかった。本当によかった……」
「うわぁぁん……姉さん!」
抱き合う姉妹の姿に、場の空気が一気に和らぐ。
「本当に、助けられてよかったな」
「そうだな。この瞬間を見ると、これまでの苦労など全て吹き飛んでしまう」
「うぅぅぅ……ほ、ほほほほほ本当によかったですぅ……うぅぅぅ」
マリーナは号泣していた。
「よしよし。マリーナちゃんには後でブート・ジョロキアの唐揚げを買ってあげますからねぇ☆」
※マリーナは激辛好き
「どこで売ってるんですか……」
「カライノイヤー!」
しばし賑やかな空気が流れたあと、ミレアがふと思い出したように顔を上げる。
「そうだ、姉さんに報告があるの!」
「うん? 報告?」
「ちょっと待っててね!」
ミレアは勢いよく部屋を飛び出していった。
「何かしら……?」
数分後。
ミレアは、一人の大男と寄り添いながら戻ってきた。
「え、えっと……?」
困惑するレイシェル。
「ガリじゃん」
そう。ミレアが連れてきたのはガリだった。
「あのね、私たち……結婚するの!!」
「――――――――ッ!?(声にならない衝撃×一同)」
そう言い放つと、ミレアはガリの腕にしがみついた。
ガリはミレアをひょいと持ち上げ、そのまま肩に乗せる。
「フフ、ダーリン♡ チューしてほしかったのかしら?」
ミレアはガリの頬にキスをした。
ガリは少し照れたように顔を赤くする。
「え、えーと……と、とりあえずどこから拾えばいいんだ?」
あまりにも話が散らかりすぎていて、俺は収拾がつかなくなっていた。
「ミレア」
レイシェルが真剣な顔で向き合う。
その左目がわずかに輝いた。
「姉さん……」
次の瞬間。
「ミレア~!運命の人を見つけたのね!!お姉ちゃん嬉しいわ♡」
「姉さぁん♡」
「な、何なんだ……この姉妹は」
「姉妹そろって恋愛脳なんですねぇ☆」
「いや、本当に珍しすぎて……僕も驚いているよ……」
「ソウジさん!」
ガリは俺の前まで来ると、いきなり土下座した。
「い、いやいや! 何してんだよ!?」
「あの時、声をかけていただき、こうして仕事まで紹介してもらえた……。そのうえ、こんなに素敵な奥さんにまで出会えて。あなたは俺にとって、人生を変えてくれた神様のような人です!」
ガリは涙を流しながら、そう言った。
「が、ガリ……とりあえず頭上げろって」
「そういえば、ミレアはどうして彼と、こんな短時間で結婚の話にまで至ったのです?」
エピステーメーはメガネをクイッと押し上げながら問いかける。
「……皆さんに助けていただいた後のことです」
ミレアは静かに語り始めた。
小屋で発見されたあと、エリアスは彼女を館まで運び、療養させるよう指示を出した。
その役目を買って出たのがガリだった。
ガリはミレアを優しく抱き上げると、そのままヴェルディパークへ向けて歩き出した。
だが――道中でエルフ狩りの賊に遭遇する。
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「おい、そこのデカいの! 死にたくなけりゃ、そのエルフをこっちに渡しな!」
「……断る」
ガリはミレアを大事に抱えたまま、大槌を振り下ろした。
一撃を受けた賊は……とても言葉にできない状態になる。
「て、テメェ! やりやがったな!!」
「この女性は、命に代えても守る!」
『キューン♡』
次の瞬間、ガリは賊たちを一瞬で殲滅していた。
「……野蛮なところをお見せしてしまいました。申し訳な――」
「……ましょう」
「え?」
「結婚しましょう! ダーリン♡」
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「なんとまあ……運命とは、すごいものだな」
アリシアは呆然とした表情でつぶやく。
「フフ。ミレアも運命の人と出会えて嬉しいわ♡」
「も? 姉さん、もしかして……」
次の瞬間、レイシェルは俺にぎゅっと抱きついた。
「私の運命の人は、ソウジきゅんよ!」
「待てい!!」
「待ってください!!」
アリシアとリリムの声が同時に響く。
「待たないわ! もう私たちの運命は動き始めたの!!」
「私だってソウジは!」
「私はソウジさんのために女神様に――!」
「……な、ななななななぜリリムさんまで抗っているのでしょうか?」
「……複雑な乙女心、ということにしておきましょう」
エピステーメーはそう言って、静かにメガネをクイッと押し上げた。
「さて。楽しそうなところ申し訳ないが、少し話をさせてもらってもいいかな?」
そこでエリアスが静かに声を上げた。
「まず、ソウジ君。報酬の件だが――」
「あ、いや。それは別に……」
「ガリ。任務だ。ソウジ君の船の“船守”として出向してほしい」
「え?」
「もちろん、ミレアも一緒に行くといい。船を守るなら、ガリの守護範囲内だろう。それに……新婚旅行が世界一周というのも、悪くないと思わないか?」
エリアスは、ガリとミレアに優しく微笑んだ。
「ありがとうございます!しかもソウジさんに恩を返す機会まで与えてくださって……」
「僕は約束通り、ソウジ君の旅を支援するだけさ。
ソウジ君、この世界には様々な国があるが、大体は僕の顔が利く。これを持っていくといい」
「これは?」
「我が家の徽章だ。これを見せれば、大抵の国は問題なく入国できるはずだ。ついでに協力もしてくれるだろう」
「す、すごい……エリアスさん、ただの女好きのモブだと思ってました」
リリムがさらっと失礼なことを言う。
「ははは。世界中のエルフを救ったんだ。このくらいはしないとね! さて、レイシェル。聞くまでもないと思うが、君は今後どうするんだい?」
「私はもちろん、ソウジくんについて行くわ。彼に私の一生を捧げるの♡」
「はは。君の残りの一生は、果たしてどれほど長いのかな(笑)」
エリアスはそう言うと、レイシェルに餞別として旅用の服と弓矢を贈った。
「大したものではないけど、しばらくはそれで何とかなるだろう?」
「エリアス……何か、色々ありがとな」
俺はエリアスに頭を下げた。
「僕にできるのはここまでかな。また何かあれば、ここを訪ねてくるといい」
「ああ。ありがとう」
「……心残りがあるとすれば、アリシア。君と――」
「断る(即答)」
「えぇ~……まだ何も言っていないのに……」
「さあ、ソウジ、みんな。帰ろうか!」
アリシアは颯爽とエリアスの前を通り過ぎていく。
「あ、はは。アリシアらしいや」
こうして俺たちは、魔装船へと戻るのだった。
魔装船へ戻ると、次はどこへ向かうかという話題になった。
新たにレイシェル、ミレア、ガリが加わり、俺たち一行は一気に賑やかになる。
だが、なぜか俺の心には、ぽっかりと穴が空いたような感覚があった。
「……」
アリシアもまた、どこか寂しげな表情を浮かべている。
「……俺、風呂入ってくるわ」
とりあえず湯に浸かって、気持ちを切り替えよう。
そう思い、俺は風呂場の扉を開けた。
「――――――ッ!?」
「何だ、主。一緒に入るのか?」
そこにはーーなぜかカエラの姿があった。
「んがっっ!?」
「何をそんなに驚いてるんだよ?主」
「いや、だってお前……もう会えないかと……」
「ん?ガルシアの町の様子を見てくるとは言ったけど、別れだなんて一言も言ってないだろ?」
カエラは当然のことのように言う。
「……それじゃあ?」
「アタシはアンタについていくよ?アタシの主なんだからな」
思わず俺は下着姿のカエラを抱きしめた。
「主……」
「カエラ、おかえり」
「ああ。ただいま、主。でもな?アタシはこのままここでおっぱじめても構わないが……」
「え?」
カエラの指差す方を見るとーー
「……ソウジ?」
「……ソウジきゅん?」
※優しい声の殺意
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
再び訪れた修羅場をどう切り抜けるか――
俺の頭の中は、そのことでいっぱいになっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーおまけ小話ーー
【ヒロインクラッシャーリリム】
「これを着ると、必ずウケるらしいですよ☆」
「え、えーと…ウケ…る?」
「リリムさん…や、ややややめましょう…どこにあったんですか…それ」




